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小学生男子だった僕、悪役令嬢の取り巻きに転生したのに、舞踏会で料理を食べてただけで王子様に選ばれました  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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第72話 少年服でのお出かけ4

 すれ違いざま、誰かが小声で囁いた。


「……あの二人、仲良さそうね」


 ボクがロランスと一緒に歩いていると、通りすがる人がボク達をカップルのように見ていた。

 そこまで恥ずかしくはないかな。


「これって、一緒にいたらいいのかな?」


「良いと思うよ」


 さらにロランスは近くなったような気がする。

 逆にボク自身が、照れて顔が紅くなってくる。


「今のポラリスさん、より恋人みたく見えているよ」


「ほ、本当!?」


 ロランスがボクの見ていて呟いていた。

 恋人って、つまりボクが彼氏っていう事なんだ。

 でも男の子って見られているから、悪くないかも。


「あたしもこんな彼氏がいたら良いなって思うよ」


(待って、今の流れだと”彼氏役”ボクなんだけど。元小学生男子には荷が重くない?)


 ボクみたいな彼氏。

 転生する前だったら、ぜひともロランスを恋人にしていたかな。

 もうちょっと時間が経ってからだけど。

 通りの角を曲がったところに、小さな文房具屋があった。

 木製の看板に、羽ペンとインク壺の絵。


「ここ、入ってみない?」


 ロランスが指さす。


「文房具屋?」


「うん。ポラリスさん、こういうの好きでしょ」


(なんで分かるの?)


 否定できないから、黙って頷いた。

 カッコいいデザインの筆箱とか新しい鉛筆や書きやすいペンとかが好きだったし。

 お店に入ると、紙とインクの匂いがふわっと広がる。

 棚には便箋、封蝋、羽ペン、インク瓶。


「いらっしゃいませ!」


 店主が顔を上げてボク達を見つけると声をかけた。


「……おや?」


 視線が、服→顔→髪→もう一度服。

 今日出会った人達と同じ目線の動きをしている。


(来た)


「お嬢……さ……」


 言いかけて止まっていた。


「……坊?」


 完全に迷っている。

 どっちで言おうかって。


「えっと……」


 一瞬の沈黙。


「……お二人、ですね」


(無難なところに着地した)


「はい」


 ロランスが即答する。

 返答、早いね。


「妹の付き添いで」


(えっ、妹!?)


 驚いてロランスを見ると、目だけで「今はそれで」と言われた。

 ロランスがお姉ちゃんだなんて。

 良いけれどね。


「こちらの紙は、学院生にも人気でして」


 店主は話題を切り替える。


「へぇ……」


 棚を見ていると、無意識に手が伸びる。

 ざらっとした紙。

 指に残る感触。


(あ、これ好きなやつ)


 周りの音が、少し遠くなる。

 街のざわめきも、呼称事故も、今はどうでもよかった。


「……ポラリスさん」


 ロランスが小声。


「顔、完全に”素”だよ」


「えっ」


(素ってどういうこと!?)


「今の顔、寄宿舎では見せないやつ」


(そんな顔してた!?)


 気がつかなかった。

 もしかして”芯星”としての顔も出ていたのかな。


「こちらの羽ペンも、扱いやすいですよ」


 店主が差し出す。


「ありがとうございます」


 受け取った瞬間。


「あ」


 自然に、持ち方が”男の子の頃”だった。

 ロランスが、ほんの一瞬だけ目を見開いた。

 すぐに何でもない顔に戻ったけれど。


「……おや」


 店主が目を細める。


「書き慣れていらっしゃる」


(やば)


「この子、筆記が得意なんです」


 ロランス、即フォロー。

 早いね。


「学院でも有名で」


(持っていない?)


 そんな事実ないって。

 というか、それで目立とうって思ったこともないし。

 舞踏会以前なんて、あまり目立たないように生活していたんだから。


「なるほど……」


 店主、完全に納得。

 何とかなっているね。

 会計の時。


「お会計は……坊……」


 また止まった。

 迷っちゃうんだね。やっぱり。


「……お連れ様で?」


 また無難な感じの言葉にしていた。

 これはロランスの方を指しているね。


「はい」


 だからロランスが支払った。

 後で埋め合わせをしないと。


(保護者枠が板についてきてない?)


 会計を済ませて店を出る。


「助かった……」


 思わず息を吐く。


「お金は後で支払うからね」


「大丈夫だよ。いつでもいいから」


 ロランスははにかみながら、ボクに表情を見せている。


「それより文房具屋、正解だったでしょ」


 はにかんだまま、ロランスは話していく。


「呼称事故はあったけど」


「でも、誰も”変だ”とは言っていなかった」


 迷っていたけれども、今のボクを否定する感じの言葉は無かった。


「……そうだね」


 手に持った紙袋を見る。

 羽ペンと、便箋。


(これ、男の子の頃も好きだった)


「ポラリスさん」


「なに?」


「その格好で文房具屋にいる時が、一番自然だったよ」


(……それ、褒めてる?)


 でも、不思議と悪くはなかった。

 少なくとも今日は、”無理してない自分”でいられた気がする。

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