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小学生男子だった僕、悪役令嬢の取り巻きに転生したのに、舞踏会で料理を食べてただけで王子様に選ばれました  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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第67話 クローゼットにしまっていた少年服

 部屋に戻ったら、何故かボクは一旦ベッドにごろんと倒れ込んだ。

 まだ休日の朝なんだけれどな。

 これから出かけるつもりなんだけれど。


「…………」


 天井を見つめながら、ぼんやりと考えた。

 いつも見ている……事になってしまった光景。


(ボク、男の子だったんだよね?)


 昨夜呟いたことを頭の中で繰り返していた。

 いや、知ってる。

 知っているんだけど、確認したくなるくらいには昨日や今朝の事がいろいろとおかしかったから。


 昨日、殿下と補講で手が触れた時にドキッとするとか。

 アデリナ様に健康状態を確認するとか。

 その流れで空気を凍らせるとか。


「……おかしくない?」


 ベッドの上で、片手を見つめてみる。

 細い。白い。指も長い。


(この手で、ドッジボールのボールを持っていたんだよ? それに『芯星くん、強いね!』って言われていたんだよ?)


 ためしに起き上がって、鏡を見てみる。


「……誰?」


 映っているのは、ちゃんとした令嬢。

 ポラリス・バルカナバード。

 しかも最近、ちょっと可愛いより。


(いや、ダメでしょ。取り巻きAが可愛くなってどうするの。ポジション的に、背景モブでしょ)


 スカートの裾をつまんでみて、すぐに離す。


(これ、ズボンだったら楽なのに……でもスカートじゃないと怒られるし……ていうか怒られる相手、多すぎない?)


 ベッドに再び倒れ込む。


「はぁ……」


(男の子だった記憶と、令嬢としての日常と、修羅場に巻き込まれる体質。これ、どこでバランスを取ればいいの?)


 少し考えて、結論を出す。


(……考えるの、やめよ)


 お腹が減ったら食べて。

 眠くなったら寝て。

 怒られたら謝って。

 生き延びられれば勝ち。そんな状況に直面していないけれど。


「うん、今日もボクは正常」


 そう自分に言い聞かせて、ベッドを降りた。

 たぶん、ね。


「出かけよう!」


 ボクはクローゼットを空ける。


「…………」


 整然と並んだ令嬢服。

 ドレス、ワンピース、スカート、リボン、レース。

 舞踏会で着たものや実技試験で着たものも入っている。

 どれもちゃんとしてる。ちゃんとしすぎている。


(うん、可愛い。可愛いんだけどさ)


 クローゼットの奥。

 ほとんど使っていない、布で覆われた一角に手が伸びた。


(……あるよね)


 そっと布をめくる。

 出てきたのは、少年服。

 シンプルなシャツに、短めの上着。

 動きやすそうなズボン。


「やっぱりあった」


 なぜここにあるのか。

 考えなくても分かる。


(最初の頃、慣れなくて。スカートの感覚で混乱して、転びそうになって。”非常時用”とか言い訳して……)


 仕立ててもらったけれども、結果しまい込まれたままになっていた服。

 少し迷ってから、ボクは呟いた。


「……今日は休みだし」


 誰に言い訳しているのか分からないけれど、そう言って着替え始める。

 さっき食堂で着ようって思っていたし。

 これ、平日だったら確実に人生詰んでたやつだよね。

 シャツを着て、上着を羽織って、ズボンに足を通す。


「…………」


 鏡を見てみる。


「……あ」


 思ったより、しっくりきた。

 息を吸ったとき、胸の奥で何かがほどける感じがした。

 スカートの時には無意識に入っていた力が、すっと抜ける。

 動きやすい。

 呼吸が楽。

 肩が軽い。


(あ、これだ。この感じ)


……と思った瞬間、無意識に裾を気にしている自分に気づいた。

 ズボンなのに。

 ただ、無意識に背筋が少しだけ伸びた。


(……男の子だった頃のボクだ)


 服装だけはボクを感じることが出来た。

 一瞬だけ『江坂芯星』として映ったような気もする。

 それは気のせいだけど。

 でも同時に、違和感もある。


(あれ? 顔は令嬢だし、髪も長いし、声も……)


「……混ざってる」


 完全な少年でもない。

 完全な令嬢でもない。

 ”取り巻きAの変な中間形態”がそこにいた。

 ……中間形態って、ゲームのラスボスじゃないんだから。


(これで出ようと思ったけれど……外に出たらどうなるんだろう)


 誰かに笑われるより、

 「どっちなの?」と聞かれる方が、たぶん怖い。

 令嬢なのか、子息なのか分からないって。


(怒られる? 止められる? ゼナイド様に見られたらアウト?)


 一瞬だけ悩んでから、ボクは決めた。


「……まあ、今日は学院休みだし」


 またそれ。

 言い訳に使っていた。


(見つかったら、その時考えよ)


 鏡の中の自分に向かって、肩をすくめる。


「よし。今日は”元気な方のボク”で行こう」


 元気な方って、”芯星”としては遠くなっているよね。

 元気=問題が起きない、じゃない。

 元気=逃げ足が速い、だけど。

 ボクはそんな事は気にせず、部屋の扉に手をかけた。

 最悪、今日は「何も起きなかった休日」ってことで記憶から消そう。


(……これ、絶対あとで何か起きるやつだよね)


 しかもだいたいこういう時、

 一番最初に見つかるのは「知ってる人」なんだ。

 分かっているのに、なぜかちょっとだけ、気分は軽かった。


「もし、街で名前を訊かれたら”江坂芯星”って言おうかな」


 あの仕立屋では、”婚約候補”って知られていたから。

 それなら、別人の方が良いかもしれないから。

 ……いや、フルネームは危ない。

 下の名前だけにしよう。そうしよう。

 しかも異世界だから、危ないだけじゃ済まないかも。

 うん、”芯星”だけにしよう。

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