ベッドの上で 女の子としての感覚
「あーあ……どうしたら良いんだろう」
ボクはベッドの上で悩んでいた。
無事に家へ帰ったのは、あの後だったけれども、ほとんど記憶が無い。怖ろしい形相の二人だったのは、覚えているけれど。
何でボクが殿下の最後のダンスパートナーに……
あれがこの世界で、婚約候補だって分かっているはずなのに。
絶対、結ばれるんだったらアデリナ様かゼナイド様の方が良いのに……
むしろそっちを応援しなきゃいけないのに……
「もしかしたらボクが殿下と結ばれる……不思議な感じ」
ボクが綺麗なお姉さんを好きになるのは、分かるけれど……転生する前だって、そういったのは好きだったし。
だけど、カッコいい王子様と結ばれるのは、違うはず。
ヒーローが好きで憧れるのはあったけれども、恋愛的は無い。
なのに……
現実じゃ無いみたい。夢を見ているような……
むしろそっちが良いかもしれない。目が覚めたら、江坂芯星として、いつもの日常に戻っている。
そして小学校に通い、給食を食べている、そんな日常に。
給食のカレー、友達と遊ぶ昼休み、放課後の駄菓子屋。
あの何でも無い日々が、こんなに恋しくなるなんて思わなかった。
「これから、どうしよう……」
絶対、明日からゼナイド様から目の敵にされる。
それどころかヒロインのアデリナ様さえも、前以上にボクと敵対する。
どう考えても詰んでいる……
なのに逃げられない。
だけど時間は過ぎていく。なかなか眠れないのに、少しずつ。
寝返りを打つたびに、長い髪が肩にかかる。
まだ鏡を見るたびにドキッとする。
この姿が”自分”だって、頭では分かっていても実感がない。
でも、ボクが女の子になっているだけじゃなくて、殿下と婚約候補になったかもしれないっていう事実がそこにある。
(……逃げるのは簡単だけど、転生したからには、何か意味あるはずだよね)
その意味はいつか見つかる。
でも……ずっと先の意味より、目の前の明日。
明日からが本当に不安だよ。
(とりあえず、平穏な日常で居てよ……)
そんな事を考えていたら、窓の外で鳥の声がした。
夜明けだ。
……ボクの”平穏な日常”は、きっと今日で終わる。




