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小学生男子だった僕、悪役令嬢の取り巻きに転生したのに、舞踏会で料理を食べてただけで王子様に選ばれました  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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第59話 殿下との補講

 殿下と並んで歩いていくと、学院の廊下がいつもと違う静けさを帯びているように感じた。朝も似たような感じだったけれど。

 普段なら食後のざわめきが聞こえるはずなのに、廊下で出会う令嬢達は足を止めてボク達を見ていた。

 仕方ないけれど、ここまでなんて。


「これから二人きりで補講らしいわよ」


「バルカナバード嬢も一緒にね」


 当然のように補講の事が知れ渡っている。

 どんなルートでなんだろうね……


(うう……また見られている……)


「まるで祝賀行列でも見ているみたい……」


 視線が突き刺さる。

 令嬢達の視線はそんな風に感じるほど熱く、痛い。

 だけど殿下は全く気にした様子もなく、穏やかに歩いていた。


「補講の教室は、いつも行う教室とは違うからね」


「えっ……そんな場所で……?」


「通常の授業があるし、あまり使われない静かな教室でね、落ち着いて学べると思うよ」


 つまり……二人きりになりやすい場所ってことだよね。

 そう思った瞬間、ボクは顔が熱くなりそうだった。


「緊張してる?」


「す、少しだけ……」


「ふふ、大丈夫だよ。補講と言っても堅苦しいものじゃないからね。今日はポラリス嬢とゆっくり魔法史の話がしたかっただけだから」


 ”ポラリス嬢と話がしたかった”

 その言葉だけで胸が跳ねた。


(どうして……こんなにドキドキするの?)


 殿下が階段を上がるとき、自然とボクの歩幅に合わせてくれる。

 気遣いなんだろうけれど、その優しさが余計に心臓を速くする。

 そして二階の踊り場に差し掛かったところで、殿下が少し立ち止まった。


「あっそういえば、さっきのフェリックスとの会話だけど……」


「えっ?」


 急にそんな話題が出てくるなんて。


「君があれほど嬉しそうに笑うとは思わなくて……少し嫉妬した」


「し、嫉妬……!?」


 ボクの顔が一瞬で真っ赤になる。


(嫉妬って……何に!? 誰に!?)


 フェリックス殿下と話したら、殿下が嫉妬するなんて……


(男の子だったはずなのに……こんな言葉で胸が跳ねるなんて、どうかしてるよ……)


 変な葛藤が起こってしまった。


「冗談だよ」


 殿下は笑いながら階段を再び上り始めた。

 本当に冗談……なのかな?

 殿下の歩調がいつもより少し速くなっていて、気持ちが読み取れない。

 でも、さっきより近い距離で歩いている気がした。

 そしてボクがあまり行っていない教室の前で、殿下が歩みを止めた。


「ここだよ」


 殿下が扉を開いて中に入る。

 教室に入った瞬間、外の喧騒がふっと消えたように感じた。

 まるで、ここだけ別の世界みたい。

 大きな窓から光が差し込み、埃ひとつない机が並んでいる。

 広いのに、誰もいない。

 まるで二人だけの空間みたいに感じてしまう。


「ポラリス嬢、どうぞ」


 殿下がボクに席をすすめる。


「ありがとう……」


 ボクは椅子に座って、胸の鼓動が収まるのを待っていた。


(ここから補講が始まるんだ……殿下と、二人きりで……)


 緊張と期待で、心がふわふわしているようだった。

 しばらくして、ブラガ教授がこの教室へやってきた。


「お待たせしました。殿下、ようやく補講に来られまして。では本日は、魔法大災禍の原因と封印史について深掘りします」


「今日はバルカナバード嬢も一緒で光栄です」


「え、えへへ……よろしくお願いします……」


 殿下にそう言われて、ボクは顔を赤らめながらにっこりとする。

 大切に思われているから。


「バルカナバード嬢も、殿下と同じ内容でよろしいですね?」


「はい……! よ、よろしくお願いします……!」


 ボクも返事をして、補講を受けることにした。

 緊張して、思わず背筋が伸びた。


「まず質問です。大災禍はなぜ起こったのか、殿下」


 ブラガ教授が殿下に問いかける。


「……魔力の制御への軽視、そして王家内部の誤解が積み重なり、暴走を招いたーーとされています」


 殿下、やっぱり正確だ。


「では、バルカナバード嬢は?」


「え、えっと……魔力が、心の中で暴れちゃった……から、だと思います……


 教授が一瞬、目を見開いた。


「……核心を突きましたね。魔力暴走は”原因”ではなく”結果”です。その根本には、人の心の乱れがある」


「やっぱり……そうなんだね」


「君は面白いね、ポラリス嬢。直感が鋭い」


 殿下が優しく微笑む。

 胸がどきりとする。なんでそんな顔で褒めるの……?

 教授は古い魔方陣の図を取り出す。


「封印魔術は”断絶”ではなく”調和”です。古代文明は力を誇示するために魔法を使いましたが、現代魔法は心の安定を重視します」


 教授の視線が自然と殿下へ向く。


「王族は特に、精神が揺らぐと魔力も揺らぎますから」


 殿下は小さく息を呑んだ。


「……肝に銘じます」


(殿下でも……悩むこと、あるんだ)


 ふと、アデリナ様の震える手を思い出す。

 心が乱れたら魔力も震える……やっぱりあの人、大丈夫じゃないよね。

 教授が分厚い古文書を開いた。


「今日は特別に”共鳴魔法”について触れましょう。本来は儀式魔術で、二人の魔術を重ねて安定させる技法です」


「二人で……重ねる?」


(なんだか……すごく照れる言い方だよ……)


 殿下が不意にこちらを見る。


「ポラリス嬢。よければ、簡単な実験をしてみませんか?」


「えっ……い、今……?」


「安心しなさい。手を軽く重ねるだけです」


 教授が苦笑まじりに促す。

 机を少し寄せ、ボクと殿下は向かい合って座った。

 殿下が手を差し出す。


「……少し失礼」


 そっと、殿下の手の上に自分の手を置く。その瞬間ーー


 あたたかい。


 魔力がふわっと触れ合う感じがして、胸の奥が温かくなる。

 指先から、細い光の糸のようなものが流れ込んでくる感覚がした。

 触れたところから静かに満ちていく。

 まるで殿下の心にそっと触れてしまったみたいでーー息が止まりそう。

 殿下は深くゆっくり息を吸い、ボクに合わせてくれた。


「怖くないよ。呼吸を合わせて……」


「う、うん……」


 数秒。

 空気が静まり返ったように、周囲の音が消えていく。


「……共鳴、成立です」


 教授の驚いた声。


「せ、成……立……?」


 ボクの声も驚いていて、あまり出ていない。

 殿下の指がほんの一瞬、わずかに震えた気がした。

 それが嬉しさなのか驚きなのかは……分からなかった。


「この安定度……王家でも滅多にありません。バルカナバード嬢、あなたは”魔力の波長”が非常に素直だ」


「そ、そんな……」


 何故かボクの言葉は、驚愕した感じ。


「君は優秀だよ。私も驚いているくらいだ」


 殿下が柔らかい目でボクを見る。

 その距離が、やけに近い。


(う、うぅ……これ以上見られたら……心臓が……!)


 ドキドキと心臓が鳴っているのが分かる。

 そんな状態でボクの顔は紅くなっていた。


「では、本日の補講はこれで終わりです。殿下、バルカナバード嬢……お疲れ様でした」


 教科書などを片付け、ブラガ教授が出ようとした時……


「……この共鳴の深さは、王家にとっても少々……意味を持ちすぎます。あまり公にはしないように」


 そう言い残し、教授は静かに教室を出ていった。

 教授が退出すると、部屋は急に静かになった。


「……ポラリス嬢」


「な、なに……?」


 殿下が少し照れたように微笑む。


「今日は楽しかった。君と学ぶ時間は……思った以上に心地よい」


「えっ……そ、そんな……!」


「できれば……また来てくれないか?」


(そっ……そんな優しい声で言われたら……!)


「は、はい……!」


 思わず返事をしてしまう。

 殿下の顔が嬉しそうに綻ぶ。


 その瞬間ーー


 廊下の向こうで、制服のスカートの裾がわずかに揺れるのが見えた。

 あまりこの教室へは来ないはずなのに。


(今の……アデリナ様……?)


 ほんの一瞬だった。

 一瞬だけ、視線が交わった気がした。

 まるで、泣き出す寸前のような……それでも必死に笑おうとする人の目。

 気のせいと思いたい。

 でも、誰よりも繊細な”気配”が残っている。

 胸が強く痛んだ。


(見られちゃったのかな……)


 胸の奥に、ひんやりした不安が広がっていった。

 殿下と一緒にいた時間は確かに嬉しかった。

 でも……そのせいで誰かが傷ついてしまうなら。

 その思いだけが、胸の奥に重く沈んで消えなかった。

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