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小学生男子だった僕、悪役令嬢の取り巻きに転生したのに、舞踏会で料理を食べてただけで王子様に選ばれました  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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第56話 一緒に受ける魔法史

 教室に入ると、すでに教室へやってきていた子息や令嬢達はボク達を見て廊下以上にざわざわしていた。

 一瞬会話が途切れた後にまた再開したり、書いていたペンが止まっていたり。

 特にボクを見る視線は、色々な感情が混じっているのがより分かった。


「とうとう殿下と一緒に入ってくるの?」


「これって、婚約近いんじゃない?」


(違うから! ただ一緒に歩いただけだって!)


 ボクが思っていることも、絶対に信じてもらえないだろうね。

 それくらい、騒いでいるから。

 アデリナ様はもう座席に座っているけれど、昨日よりも表情が硬くなっていた。それにボクをはっきりと見ている。

 ゼナイド様は後ろの方でボク達を見ていた。いつものように冷静な表情で。


「さて空いている場所はどこかな?」


「あっちとか……」


「そうだね、そこにしようか」


 アデリナ様よりも離れている場所にして、座ることにした。

 でも、隣にいたのはロランス、そして殿下。

 ボクが提案した場所に座ったんだけれども、雰囲気的にボクも座っていた。他の場所に座れそうになくて。

 守るようにロランスも。


(変なサンドイッチだよ!)


 他の人だったら嬉しいかもしれないけれど、ボクにとっては修羅場の予感しかないよ。

 周りの子息と令嬢達はボクを見てひそひそと囁き始める。視線が痛い……


「やっぱりポラリス嬢は狙っているのよ」


「そうよね」


(狙っていないって……!)


 何でこんな事ばっかり噂するんだろう。

 授業が始まる前に疲れそうだよ。


(ああ……また噂されているよ……)


「気にしなくていいよ。みんな、君のことに興味があるだけさ」


 殿下は周囲で噂話をしているのを見て、気にしていない様子で、ボクを安心させるかのように優しく微笑んでいた。


「興味って……そんな……」


「君は優秀だからね、自信を持っていいよ」


「えへへ……ありがとう」


 殿下に褒められて、照れながら笑っちゃう。すると殿下が少しだけ目を細めた。


(いま、殿下ちょっと嬉しそうだった……?)


 ボクと話していると楽しいのかな。


(あれ……? 後ろの気配が……)


 そう思って後ろを振り返ってみると、アデリナ様がいつの間にか後ろの席に座っていた。

 さっきまで違う場所だったのに。

 いつの間にやってきたの。


「……ごきげんよう、ポラリス嬢。今日も……殿下と仲がよろしいですわね」


「えっ……」


 するとアデリナ様はボクにだけ聞こえるような声で、囁いてきた。

 もう一度振り返ると、アデリナ様は微笑んでいるけれども、目は笑っていなかった。


(何でそんな表情を……)


「お二人が気になって仕方なかったの」


 アデリナ様がそう言っているけれど、大丈夫なのかな……


「ポラリスさん、後ろは気にしない方がいいよ」


「うん……」


 悩んでいたけれども、ロランスは気付いているのかいないのか分からないような感じで、ボクに耳打ちしてきた。

 気にしないでって言われても、気になっちゃうんだけれども。

 とりあえずこのまま授業を受けていくことにした。

 ロランスの足が、いつの間にかボクの机側へ寄って守るようにしていた。

 ブラガ教授が魔法史の授業を行っていく。

 殿下が時々ボクを見ていた。

 ちょっと恥ずかしいな。もしかしたら……いや、絶対後ろも見ているんだけれども。

 魔法史は何回も受けているけれども、結構難しかったりする。 

 今日は魔法による大きな事件を扱っていた。


「では今日は”魔法大災禍”の要因について復習しよう」


 殿下は姿勢を正して、教科書を開いていた。

 やっぱり殿下の姿勢は綺麗だね。こういったのも教育もしているのかな。


「ポラリス嬢、この章は読んできた?」


「えっ……あ、あの……半分寝ながら……」


 寄宿舎の部屋で一応読んだけれども、ほぼ寝ぼけながら。

 疲れていたし……


「寝ながら!?」


 殿下が小声で笑っていた。

 隣の席からロランスが「ちょっと……!」という視線を送ってくる。


「でも……読んだ……ことは読んだよ……?」


「それでもえらいよ。君らしい」


 ”君らしい”という言い方に、胸がじんわり温かくなる。

 と、教授が質問した。


「ではーー魔法大災禍の”直接的な引き金”は何だったか。バルカナバード嬢」


「えっ、ボク!? あ、あの……魔力が……暴れちゃった……から、です……?」


 教室がざわついた。

 間違えちゃったかな?


「……正解だ。理由の言い方が非常に素朴ですが、本質を突いています」


(よかった……!)


 殿下が小声で囁く。


「やっぱり君は面白い。回りくどい説明よりも真っ直ぐだ」


「えへへ……でも、本当に合っているのかなって……」


 顔を紅くしながら、嬉しくなっちゃった。


「合っているよ。君の直感は侮れない」


 と、後ろからより冷たい感覚が感じた。

 振り返ってみると、アデリナ様はさっきよりも強張った顔でこっちを見ていた。

 筆記していた手が一瞬だけ、止まっている。

 胸がざわりとするような、悲しいような、切ないような表情だった。


(あ……やっぱりボク、少し気にされているのかな……)


 教授が黒板に図を描き始めると、殿下が少し身を寄せて言った。


「昨日、一昨日は王宮に居たけれど、君は元気だった?」


 やっぱりそうだよね。

 殿下は忙しいから。


「うん、元気だったよ。殿下のこと、心配してたけれど……」


 昨日とかは、結構アデリナ様の事ばっかりだったけれど……


「……心配してくれていたのか。嬉しいよ」


 殿下が優しく微笑む。

 その微笑みに胸がドキリと跳ねる。


(ああ……なんでこんなドキドキするの……)


 ボクは男の子だったのに。

 そのとき隣でロランスが……


「殿下、近い……!」


 と小声で呟いていたのをボクは聞き逃さなかった。

 やがて授業は順調に終わった。


「今日のポラリス嬢の答え、良かったよ」


 殿下は授業が終わったら、嬉しそうに話しかけていた。


「本当に……? そんな……」


「もし良ければ、午後の”魔法史補講”も一緒に出ないか?」


「ま、魔法史の補講……? えっ、一緒に……!?」


 周囲の令嬢が一斉に振り向いた。

 気配が刺さってくるみたいだった。

 でも、補講ってそんなのボクは今まで受けた事ないけれど……

 殿下は軽い声で言っているのに、内容は重い気がする。殿下と一緒に受けるって……


「忙しくてあまり受けられなかったからね」


 やっぱり殿下のために設けられたんだ。

 王子としての仕事があるから、なかなか学院に来られないし。


「無理にとは言わない。でも君と話すのは楽しい」


 殿下が少しだけ視線を下げて、穏やかに言う。


「君は歴史の捉え方が……普通じゃない。だが、それがとても魅力的なんだ」


「み、魅力的って……そんな……!」


 顔が一気に熱くなる。

 なんかポットを頭に載せたら、すぐに沸騰しそうな……


「ポラリスさん、息して! 息して!」


 と小声で焦っていた。


「そんなに照れると、こっちまで照れるよ」


(て、照れちゃうよ!!)


 そこへ、静かに教室を出ていこうとしていたアデリナ様が立ち止まった。

 横顔は美しいまま、でもほんの一瞬だけ胸を押さえるように、指がわずかに震えた。


(アデリナ様……)


 その表情を見て、ボクは少しだけ胸が締め付けられた。


「ポラリスさん……」


 ロランスが小さめの声で話しかけてきた。


「どうしたの?」


「……アデリナ様、殿下よりポラリスさんを見ている時間の方が長かったよ。昨日からずっとそう」


 やっぱりそうなんだ。

 どれだけボクを見るんだろう。

 さっきロランスが気にしないでって言っていたし、殿下の事が気になったからほとんど見ていなかったけれど、ロランスは見てくれたんだ。


「ポラリス嬢、どうする?」


 考えていると、殿下が誘いの返事を訊いてきた。


「はい、行きます!」


「ありがとう。じゃあ待っているからね」


 そう言って、殿下は教室を出ていった。

 次の授業は別の教科なんだね。


「こっちも行かないと授業に遅れちゃうよ」


「そうだね」


 ボク達も教室を出ていって次の授業へ。

 だけど足取りは、いつもよりほんの少しだけ重かった。

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