第50話 ポラリスは縛られない
お昼ご飯を食べ終わって、教室に向かっているとゼナイド様に話しかけられた。
「ポラリス、ちょっと良いかしら?」
扇子を少し開きながら、ボクへ近づいてくる。
「は、はい……」
何かしちゃったのかな。
そう思って、ゼナイド様の話を聞くことに。
「先程、ゲオルギ様とフェリックス様とご一緒に、食事をされていましたわね」
「そ、そうだよ」
ゼナイド様も見ていたんだ。
アデリナ様もちらっと見ていた感じもあったし。
「ご機嫌そうでしたけれど、あまり子息方と無防備に距離を詰めない事ですわ。貴女の評判にも、わたくしの面子にも関わりますもの」
ボクは友達みたいに接していたけれども、あまり良くなかったんだ。
そこまで気にしていなかったんだけれども。
芯星的に、男友達っぽい感じだったし。
「殿方に囲まれる令嬢は、敵を増やしますわよ。特に”心の余裕がない方”には」
ゼナイド様は一般論として話をしながら、ボクを見ていた。
ただ、”心の余裕がない方”って、まるで誰かを指しているような……
「ご、ごめんなさい……」
ボクはゼナイド様に謝っていた。
取り巻きとして迷惑をかけていると思っちゃって。
「貴女は悪くありませんわ。ただ……目立つというのは、時に罪ですの」
変な噂になってしまうのが悪いのかな。
「ボク、ゲオルギ様やフェリックス様と仲良くするの、やめる」
ゼナイド様に迷惑をかけるなら、一緒に話したり食べたりするのはやめないと。
それで問題が起きないんだったら。
「いいえ、そういう事でありませんわ。ポラリス、ゲオルギ様やフェリックス様が貴女にとって心を許せる存在であるなら、今まで通りで構いませんわ」
「でも……迷惑かなって……」
(ボクのせいでゼナイド様が困るなら……)
心の中でボクはそう考えていた。
「やめなさい、ポラリス」
ボクは顔を落として、ゼナイド様に伝える。
するとゼナイド様は扇子をパンッと閉じた。まるでボクの態度が許せないみたいに。
パンッ、と閉じられた瞬間、廊下の空気が一瞬止まったように感じた。
周囲の令嬢達も、そっと歩みを緩めてこちらを見る。
「わたくしのために交友を絶つなど、愚の骨頂ですわ」
「ゼナイド様……」
「貴女が誰と話そうと構いません。わたくしは貴女の”足枷”になるつもりはありませんの」
閉じた扇子をまたゆっくりと開いて、ゼナイド様は優しく話していった。
ボクの心が落ち着かせるような感じで。
「わたくしの取り巻きであるならーー堂々と胸を張り、誰とでも話しなさい。それを咎めるものがいれば、わたくしが黙っておりませんの」
それはゼナイド様は守ってくれるという事を意味していた。
さっきまでとは違って、ボクも安心してくる。
「まあ、距離感や節度を保てば良いのですわ。それ以外で、貴女が遠慮する必要はありませんの」
少し考えながら扇子をゆるやかに仰ぎながら話していて、ゼナイド様はボクへアドバイスをするようだった。
「ごめんなさい、変な事を言っちゃって……」
ボクはまたゼナイド様に謝る。
気を遣わせちゃった事に対して。
「謝る必要はありませんわ。貴女が楽しそうにしているのは、わたくしにとっても悪い気はしませんから」
「あ、ありがとうございます……」
「……縮こまる者は周囲の餌になりますの。貴女が縮こまる姿を見たくはありませんわ。わたくしの取り巻きは、もっと誇らしくてよろしいの」
ボクは少し背筋を伸ばしてゼナイド様を見つめる。
ゼナイド様は微笑みながら、扇子をゆっくりと畳んだ。
「行きなさいな、授業が始まりますわよ」
「はい……!」
ボクはゼナイド様に一礼して、教室へと向かっていった。
ふと視線を感じて廊下の奥を見ると、誰かの金髪が揺れた気がした。
でも、すぐに姿は人混みに紛れて見えなくなった。
多分見間違いかもしれないけれど。
教室ではロランスがもうやってきていた。早速ボクに近づいて話しかけてくる。
「ポラリスさん、ゼナイド様と話をしていたの?」
「うん」
ロランスも見ていたんだね。
「食事中……すごく見られていたよ。アデリナ様に」
「やっぱり」
気のせいじゃなかったんだね。
「……アデリナ様、今日は肩が強張っていた。あの人が緊張している時は、何かが起きるよ」
「そ、そうなんだ……」
「手袋の指先が少しだけ曲がっていた。緊張していた証拠」
「細かいね」
何も起きないでほしいけれども、難しいのかな。
というか、何が起きるんだろう。
ロランスもよく見つけるね、そういうの。
「ゲオルギ様とフェリックス様と仲良くするのは、あたしも大歓迎だよ。ポラリスさん、楽しそうだったから。一緒でもあたしは嬉しいよ」
「うん、ゼナイド様も否定しなかった」
微笑みながら、ロランスはボクに話していく。
その言葉に嘘を感じなかった。
「だからこそポラリスさん、気をつけてね?」
「うん……」
ロランスの続けるように言ったこの言葉、忠告するような感じだった。決してボクの行動を否定しない形で。
そしてアデリナ様の事を考えている上で。
「じゃあ、授業が始まるから座ろうか」
「そうだね!」
ボク達は空いている席に座って、授業が始まるのを待ったのだった。
席につくと同時に、どこからか強い視線が降ってくる。
アデリナ様だ。
令嬢を一人挟んでボクが見えるような形で座っていた。
やっぱり見ているよ……




