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小学生男子だった僕、悪役令嬢の取り巻きに転生したのに、舞踏会で料理を食べてただけで王子様に選ばれました  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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第43話 アデリナ様の隣

 ロランスが隣に居てくれた授業は、家庭科の座学だった。

 でも、小学校で受けていた授業とは同じようで違っていて、微妙に難しかった。

 家庭科は家庭でも、貴族の家庭を学ぶようなものだから。

 どこかの貴族の家に嫁いだ時に、ちゃんと奥さんとして出来るようにするため。

 こんなの……縁が無いと思っていたんだけどね。


「今度は……王国史の授業だね」


 無事に終わったので、もう一つの授業を受けるために別の教室へ。

 空いている席に座って、授業が始まるのを待つことにした。

 他の令嬢がボクを見てひそひそと話しているみたいだけど、気にはならなかった。


「この授業は、アデリナ様も受けるんだ」


 教室にアデリナ様がやってきていた。

 確かに王国史だから受けるよね。

 会話してから一つ授業を挟んでいるし、お昼ご飯は食べたのかな。


「えっ……?」


 ボクが座っていた場所の隣に、アデリナ様が座ってきた。

 どうしてここに座るんだろう。まだ空席があるのに。


「ちょうど空いていましたので」


 理由をつけているけれども、ボクの隣に座りたいだけじゃん。

 ボクを狙っているかのように。


(空いているからって、ここに座るの!?)


 ドキドキしながら、授業が始まった。

 間が空きすぎるのも大変だけれども、アデリナ様が隣に座っているのも大変だって。


(何でチラチラ見てくるの……?)


 授業中、アデリナ様はボクを時々見ていた。

 そんなに見る必要あるのかな?

 寝ているわけじゃないし、そこまで気にしなくても良いけれど……


「ポラリス嬢、この聖女はどう思いますの?」


 授業で取り上げた聖女の事で感想を訊いてきた。

 王国史だと主要な聖女の事も取り上げる。

 でも、そんなのすぐに答えられないよ。


「く、苦労しているなって……」


「そうなのね」


 ボクに何を期待しているの。

 そこまで凄い人物じゃないよ、ボクって。

 こんな調子は授業が終わるまで続いていた。


「有意義な授業でしたわね」


「う、うん……」


 アデリナ様は授業が終わったら、そうボクに言っていた。

 そうだろうけれど……

 話しているアデリナ様は、微笑みながら、冷たさを持った目で。


「まぁ、随分と”丁寧な監視”ですことーーアデリナ・レーゲンスブルク様?」


 空気が、ひやりとした。


「っ……!」


 教室の後ろから、ゼナイド様がやってきた。

 同じく授業を受けていたみたいだけれども、様子を見ていたのかな。

 扇子の端でアデリナ様の肩の高さを軽く示しながら、その微笑み完璧な”悪役令嬢”のもの。


(ゼナイド様も見ていたんだ……ボクやアデリナ様を)


 アデリナ様は気品を保ちながらゼナイド様を見ているけれども、その指先にはわずかな緊張が走っている。


「……ごきげんよう、ゼナイド様。この授業も無事に終わりましたわね」


「そうね。ポラリスの動向が気になって、昼食後に”待ち伏せ”して話しかけるくらい気にしている貴女も、授業が無事に終わるのは喜ばしい事ですわね」


(えっ……!? あの会話、見ていたの!?)


 ロランスから聞いた可能性はありそうだけど、”待ち伏せ”っていう事は、そうじゃないみたい。

 どこで見ていたんだろう。

 ボクは気がつかなかったけれど。


「ぐ、偶然ですわ。たまたま会っただけですわ」


 少し火花が出始めているような。


「偶然? それは良い言い訳ですわ。まるで、恋敵を引き止めた主役のようでしたけれど?」


「……っ!」


 アデリナ様の睫毛が微かに震えた。

 ゼナイド様は近づいていって、アデリナ様と一対一で話せるようにしていた。

 いつの間にかボクは部外者のようになっていった。


(えっ、守ってくれてる……?)


 ゼナイド様は扇子を口に当て、柔らかく、しかし刺すように。


「殿下の”お心”を気にされるのは結構ですが……その前に、自身の”余裕のなさ”が周囲に見えていますわよ?」


「……私に余裕がないですって?」


「ええ。今の貴女、とても”聖女候補になろうとする者”には見えませんもの」


 口に当てているからあんまり分からないけれども、嘲笑するように微笑んでいるようだった。


「……!」


 アデリナ様の瞳に、一瞬だけ怒りと羞恥が揺れていた。

 でもゼナイド様は追撃をしなかった。

 むしろ、ふっと声を柔らかくしてこう続けた。


「勘違いなさらないで。貴女は優秀で、美しく、気高い。だからこそ”焦り”が醜く見えるのですわ」


 アデリナ様の目が見開かれ、言葉が詰まる。


「……私は、焦ってなどーー」


「ならば、ポラリスに”試すような質問”を投げかける必要はありませんわよね?」


 ゼナイド様の言葉はアデリナ様に突き刺さるような感じだった。


「っ……!」


(こ、この人……全部見てた!?)


 アデリナ様の表情から、完璧な微笑が崩れた。

 でもゼナイド様は最後に、優雅に頭を下げた。


「聖女候補の選定は遠くない時期にありますわ。無駄な駆け引きで品位を落とさないことですわ、アデリナ様」


「……忠告、感謝しますわ」


 アデリナ様は悔しさを隠し切れない微笑を作って、教室を後にした。

 制服の裾が揺れるたび、焦りと嫉妬の余韻が残っていった。


「……ご迷惑をおかけしましたわね、ポラリス」


 ゼナイド様はアデリナ様の方向から、ボクへと向き直った。

 今度はボクとゼナイド様との会話になっていった。


「ぜ、ゼナイド様……ぼ、ボクあのとき……!」


「知っていますわ。だからこそ、わたくしが”代わりに刺してあげた”のですわ」


 さっきまでのアデリナ様に見せたものじゃなくて、優しさも入った微笑みをボクに見せてきた。


(悪役令嬢……! 本当に悪役令嬢みたいだよ……!)


 ゼナイド様は軽やかに扇子を閉じ、優しげな瞳で告げる。


「安心なさい。貴女が近づく者が不当な意図を持つならーーわたくしが全部、摘み取って差し上げますわ」


「えっ!? あ、ありがとうございます……!」


 ゼナイド様はくすりと笑い、優雅に振り返る。


「さて、今日の授業も終わりですわ」


 そう言いながら教室を出ていった。


(……この人、本当に怖いのに、何で安心するんだろう)


 そんな疑問を抱きながら、寄宿舎へ戻る準備をしていく。


(怖いはずなのに……どうしてだろう。二人とも、どこか優しいって思っちゃう)


 ボクはゼナイド様もアデリナ様も、違う優しさがあるように思えた。


「……ねえ見た? 今の言い合い……」


「ポラリス嬢って、何者なの……?」


「あれって完全に三角関係……?」


 様子を見ていた令嬢達が噂話をしていた。

 二人だけじゃなくて、ボクも話の中に入りながら。


(三角関係って……ボクも入っているの!?)


 噂話を聞きながら、顔をちょっとだけ紅くする。

 それからボクはゼナイド様の後で教室を出ていった。


「……っ、私、何をしているの……焦っているのは……私……?」


 アデリナ様が鏡の前で独り言を呟いていた。

 でも、ボクにはどうしても話しかけられなかった。

 その横顔は、あの完璧な微笑みとはまるで違って見えた。

 見てはいけないものを見た気がして、ボクはそっと歩き去った。

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