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最後の一曲

 最後の一曲が終わった。

 シャンデリアの光が煌めいて、余韻を残す旋律が消えていく。


 ボクは緊張で足が震えていて、息が少し上がっている。

 汗が首筋を伝う。その感触が、どこかくすぐったい。

 ああ、まだこの身体に慣れてないんだっけ……

 それでも最後まで殿下の手を離さず、踊りきったのだった。


(あ、終わった……!)


 色々な意味でね。

 だけど……


(倒れそう……でも倒れたら余計に恥をかく……!)


 緊張と集中しすぎて、内心フラフラ。

 でも絶対に倒れてなるものかと、必死に立っていた。


 会場は静まり返っている。

 人々の視線が、リュカ殿下とーーその手を握っているボクに集中している。


「……まさか、あの子が」


「最後に踊るのはアデリナ様かゼナイド様とばかり……」


「あの子って、取り巻きの娘じゃなったの?」


 囁きが飛び交う。

 噂好きの令嬢達が一斉に視線を注ぐ中心に、ボクは立っていた。


(お願いだから……目立たないようにしてきたのに……! なんでこうなるの!?)


 アデリナ様は、きゅっと唇を噛み締めている。

 彼女は一番最初に踊った誇りもあるんだけれど、最後の一曲こそが『決定打』なのを知っているから。

 その瞳には驚きと屈辱、そして嫉妬が浮かんでいる。


(ヒロインから……余計敵対されちゃうよ……)


 一方でゼナイド様は、取り巻きに過ぎないボクが殿下に選ばれたことに対する怒りと裏切りの気持ちで見ている。

 扇子で口元に当て、静かに笑っているーーでもその笑みは冷たい。

 ロランスは何かを考えていた。


「……面白いじゃない。ポラリス」


 低く囁くその声は、氷の刃のようだった。


(やばい、ゼナイド様の”怒り笑い”出た! これ、確実に後で呼び出されるやつだ!)


 リュカ殿下は、そんな空気をものともせず、ボクの焦りも気にせず、にこやかに言葉を続ける。


「皆の前で宣言するつもりはまだない。だがーー」


 殿下ははっきりとボクを見つめていた。


「私は彼女を選んだ。それだけは確かだ」


 ざわっ、と会場が揺れた。

 アデリナもゼナイドも、その場で言葉を失った。

 けれど殿下の目は、どこか”確信”を帯びていた。


(……何、この目。まるで、ボクの何かを知っているみたい)


 でも、何を思っているんだろう。ボクにはまだ分からない。

 それにしても殿下はこの様子、ゼナイド様は怒り笑い。

 どう考えても……


(……完全に終わった。ボクの平穏ライフは、ここでゲームオーバー確定だ……!)


 ボクは男の子だったんだよ。

 何でこんな事に……

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