第37話 夜のお茶会
「微妙に眠れない……」
目を閉じたのはいいけれど、何となく眠れなかった。
眠れそうって思ったのに。
「ポラリスさん、まだ起きてる?」
と、ドアを叩く音。
ちょっとだけ眠れなかったタイミングで、ロランスの声がする。
「どうしたの? ロランス」
ドアを開けてロランスを出迎える。
ロランスは私服姿になっていた。
「もしポラリスさんが良かったら、寄宿舎の中庭でお茶会が開かれるみたいだけれど……来ない?」
「お茶会?」
いつもだったら寝ている時間。
基本は規則もあるから夜中にお茶会とかはほとんど無いけれども、今日は特別なのかな。
実技試験が終わったから。
「どうかなって……」
「もちろん行く!」
夜風に当たってしばらく会話していたら、眠れそうな気がしたから。
「服は自由だから、好きなようにね」
「うん!」
ボクは上に制服を羽織って、中庭へ向かう。
もうちょっと何とかしたら良かったけれども、思いついたのがこれだから。
寄宿舎の中庭は藤棚と薔薇のアーチに囲まれた小さい広場がある。
その下には淡い色をした布が掛けられたテーブルと椅子が。テーブルクロスには、学院の紋章が刺繍されていた。
この時間は魔法灯が優しい光を出していて、広場を明るくすると同時に、虫除けを行っていた。中庭には淡い音楽が流れている。
魔法灯が光るたび、花の香りが微かに舞っていた。
それぞれの椅子には令嬢達、それにアデリナ様やゼナイド様がいて、盛り上がっているように感じた。
服装は様々で、制服や私服もあるしナイトローブも着ている令嬢だって。
「もう始まっているんだね」
「そうですわ。さあさあポラリス、お好きな席にね」
ゼナイド様に促されるように、ボクは空いている場所へ。
とはいえ、アデリナ様やゼナイド様が近い席になっているけれど。ここしか空いていなかったから。
この場所は緊張しちゃう……かな?
席の前には紅茶のカップが置かれていて、近くにあったティーポットから紅茶を入れる。
「ポラリス嬢、試験はどうだったの?」
席に座ると、早速アデリナ様が訊いてきた。
気になっているんだ。
でもアデリナ様って、一位か二位なんだろうけれども。
「ダンスはバッチリ!」
「という事は、即興演技に関しては失敗だったのね」
ゼナイド様が皮肉を言ってきた。
でもこう言う感じなんだけれど。ゼナイド様って。
「えへへ……」
ボクは苦笑いしながら頭をぽりぽりと搔いた。肯定するわけでも否定するわけでもなく。
ちょっとだけ恥ずかしくなったから。
「ポラリス嬢、殿下に対してあんな言葉が出てくるなんてね」
アデリナ様が言っているのは、ボクが”お子様”って言ったこと。
やっぱり話題になっちゃうのね。
「でもボク、緊張したんだから! 試験だからって婚約って言われちゃったから」
しかも本当にしようとしているって思いたいくらいのトーンだったし。
「もしかして、ポラリスと本当に結ばれたがっているのかもしれませんわね」
ゼナイド様が考察するように考えていたけれども、殿下は本気じゃないよね?
それを聞いていたアデリナ様の笑顔が、少しだけ固くなっていた。
どうしてなんだろう。
「冗談……だよね?」
「まあ、分かりませんわ。ですので、これはこの辺りで……」
状況を察したのか分からないけれども、ゼナイド様はこの話を終わらせる。
うん、それが良いよ。
「そ、そうですわ。実技試験は終わったんだから……もうちょっと別の話をね」
アデリナ様が苦笑いをしながら、話題を切り替えようとしていた。
何となくコンビネーションが良いのかな。
「紅茶の味はどうですの? ポラリス」
「美味しいね」
甘さは丁度良い。砂糖を追加したのもあるけれど。
「やっぱり試験が終わったから、紅茶の香りが甘く感じるわ」
「昼は息も詰まるようだった……今はお菓子が美味しいね」
ボクは甘くて美味しいお菓子を食べて、会話に参加する。
「あなたはどんな状況でも食欲があるのね。ある意味、才能だわ」
「もちろん。ボクの生きがいだから!」
こんなに食べられるんだから、今のボクって。
食べておかないと。
「ふふ、ポラリスさんのそういう所、好きだよ」
ロランスがにっこりとしながら、ボクに話しかけてきた。
ちょっと離れた場所だけれども、はっきりと会話は出来ている。
「あなたも頑張ったそうね」
「そうなんですよ。アデリナ様やゼナイド様には遠く及ばないけれど」
表情を変えないまま、ロランスは返答していた。
こんな風に話せたら良いよね。
「殿下と話したかったよね? ロランスも」
「いえいえ、そんな……あたしはまだまだ話せる立場じゃないですから」
顔を赤くしながら返事をするロランス。
恥ずかしいのかな。
「まあ、殿下はいつも試しているから。ロランスも気をつけなさいよ」
「そうですね。頑張ります」
ロランスは微笑みながら意気込んでいる。
それが彼女の良いところかな。
「次に殿下と会うとき、また試されるのかしら」
ふと、アデリナ様は呟いていた。
やっぱり結ばれたいって思っているのかな。
「試されるより、何も後ろに無いときに、話してみたいな」
いつも殿下って、何かを見ているから。
ボクには何があるんだろうね。分からないや。
「その発想、貴族の常識からは外れてる。でも……嫌いじゃないわ」
ゼナイド様は微笑みながら、じっくり見ていた。
夜風が薔薇のアーチを揺らし、テーブルに花弁が落ちる。
ちょっとだけボクはそれをつついた。
「ポラリスさん、紅茶どう? おかわり持ってくるよ」
「ありがとう!」
ロランスがちょっとだけ表情を戻しながらも、にこやかにティーポットを手にしていた。
どうしたのかな?
「殿下は……いつも興味深い方を見られますわね」
「ええ。本物の光を追うのが殿下の癖ですから」
アデリナ様の笑顔がぴくりと固まった。
火花が出ていない。
(え? なんか怖い……)
ちょっとだけ、冷や汗が出そうだった。
「……今夜くらいは、競い合うのはやめましょう」
でもすぐに火花は消えた。
「う、うん。ただの友達として」
(良かった……)
「……ええ、月が綺麗なうちは、ね」
こうしてしんみりしながら、お茶会はさらに盛り上がる。
やがて夜がさらに深まっていくと、お開きになっていったのだった。
寝室に戻るとボクはすぐに眠っちゃった。
夜風が気持ちよかったからかな。




