第35話 試験後、寄宿舎での会話
試験後、授業も無いので、ボク達は寄宿舎へと戻っていく。
ドレスはもう脱いでいて、メイドにクリーニングをお願いしていた。
また別の機会で行われる舞踏会で使うからね。
「これが……ボクなんだ」
ふと、鏡をのぞきこむ。
ボク……”ポラリス・バルカナバード”が映っていた。
昨夜の夢の中で見た”江坂芯星”の面影は、もうそこには無かった。
けれども不思議とーー彼の笑顔が、胸の奥で息をしている気がした。
これがボク。誇れるボクなんだ。
もう、鏡に映るのが怖くなかった。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
寄宿舎に戻ったら、すぐに食堂へ。
もうお腹が空いちゃっていた。
食堂では試験が終わった令嬢達が、感想とか反省点とかを話している。それに、ボクの話題でも。
けれども、ボクを腫れ物みたく扱っていなかった。
「あー、緊張したぁ……でも、楽しかったかも」
ボクは目の前に並んでいる白パンに季節のスープ、鴨のローストと葡萄のソース、それに魚介のパイ包み焼きに舌鼓を打っていた。
全部美味しく感じる。
安心と達成感で、どんどんお腹の中に入っていく。
「でしょ? あたし、途中で”婚約”って聞いた瞬間、息が止まったもん!」
ロランスが目の前に座って、鴨のローストを食べていた。
やっぱりロランスもお腹が空いているんだね。
「ボクも止まったよ!」
「でもね、ポラリスさん。今日は本当に、綺麗だった」
「え……」
ロランスの方が綺麗だと思っていたけれども……
見ている方とは違っているのかな。
「あの光の中で、他の誰でも無い、”ポラリスさん”が踊ってた」
「そうなの……?」
「うん。ゼナイド様が言ってたでしょ。”芯を忘れなければ花は散っても美しい”って。今日のポラリスさんは、まさにそれだったよ」
食べる手を止めて、ロランスの話を聞いていた。
それくらいロランスって興味深い話だったから。
「……芯を持つ、か。ほんと、ゼナイド様って凄いよね」
「うん! だからね、誇って良いんだからね!」
「まあ、まだまだ時間がかかりそうだけれども……」
「ポラリスさん、食べて食べて! 今日は豪華だから!」
「も、もちろん!」
ロランスに促されるみたいに、食べるのを再開していく。
美味しいから、どんどん食べていく。
鴨のローストは、香りが良くてジューシー。
魚介のパイ包み焼きは、魚の味とパイが濃厚で風味が口の中で広がっていく。
お腹が膨れるまで、ボクは口に運んでいく。
「こんなに良いのが食べられるなんてね」
「まあ、聖女様のおかげかもしれないね」
そうかもしれない。
でも、今夜は、神様じゃなくてーー
自分に『よくやったね』って言ってあげたい。
一旦、試験が終わったから、今日はじっくりと眠れそう。
寄宿舎の窓の外には、満ちかけの月。
扇子を胸に抱きながら、ボクは静かに目を閉じた。




