第16話 授業間の会話
「ポラリス嬢、また会ったね」
「リュ……リュカ殿下! こ、こちらこそ……!」
(タイミングがヤバい……!)
廊下に出ると、リュカ殿下と出会ってしまった。
さっきふと見えたのと様子が同じだから……やっぱり、見ていたのって、リュカ殿下だったんだ。
「授業が終わったんだね」
「は、はい……」
「今のは王国史の授業だったっけ」
「そ……そうです」
時間割か何かを思い出しながら、ボクに話している。
「聖女クレリア、あの人も”偶然”から歴史を動かしたそうだ」
リュカ殿下はボクが答えていた聖女の事を、思い出したエピソードを言うようにボクへ話していた。
そんなのがあったんだ。
しかも何かを考えているように。
(偶然……またその言葉)
もしかして、リュカ殿下は偶然が好きなのかな。
と言っても……偶然なんてそこまで何度も起こらないはず。
だから……そこまで狙ったって、ね。
「……偶然に聖女が選ばれるというのも、あるかもしれないな」
考えたようにぽつりとリュカ殿下は言っていた。
ボクを一瞬見ながら。
「へぇ~。そんな事、過去にもあったの?」
「まああったよ。聖女コキア、様々な状況が重なった結果、偶然選ばれたんだよ」
「そうなんですね」
「でも、詳しく話すと時間がかかるから、これでね」
「は、はい……」
「そうそう、聖女が選ばれるのは、神ではなく”人”の意思だとしたらーー君はどう思う?」
リュカ殿下はそう言って、そのまま行っちゃった。
何だったんだろう。
分からないけれども、とりあえずはボクと話したかっただけと思いたい。
(それにしたって、どうしてボクを見ていたんだろうね……)
しかもあんな問いかけをして、去っていくなんて。
殿下はボクに何を伝えたいんだろう。
「ポラリス、何を考えているのかしら?」
「ゼナイド様!」
今度は別の教室へと移動していた、ゼナイド様と出会ってしまった。
雰囲気はいつも通りなのかな。
「貴女も同じ文芸学の授業ではなくて?」
「う、うん……」
そうなんだよね、次はボクもゼナイド様と同じ授業を受ける。
だからここで立ち止まったままだったら、おかしいから。
「そういえば貴女、先程リュカ殿下と話していらしたわね」
文芸学の教室へ向かおうとした時、ゼナイド様がさっきの事を言ってきた。
「あ、それは……」
もしかして昼食会後の会話も見ていたのかな。
(どう答えよう……急に尋問が……)
「まあ、下手に聞いては問題になるでしょうから。内容は訊きませんわ」
「ほっ……」
良かった。どんな会話をしたのかって訊かれたら、答えづらかったし。
ゼナイド様に嘘が通用しそうに無いから。
「ねえ……ゼナイド様、さっき殿下は聖女の偶然について話していて……」
でもボクはさっきの会話の事をゼナイド様に伝える。
だって、ボク自身が気になっているものだから。
「変わった話題ね」
「偶然、聖女が選ばれるというのも……」
「まるで貴女へ言っているのかも知れないわね」
「ぼ、ボクに……?」
「でも、偶然なんてありえないわ。貴女が舞踏会で殿下と踊った時のように」
ボクが聖女に……そんな訳ない。それも偶然だなんて……
でも、ゼナイド様は偶然はないって、はっきりと断言していた。
「そうだよね……」
「とりあえずポラリスが選ばれる可能性は、皆無に等しいから安心しなさいな」
(安心させているのか、皮肉を言っているのか……どっちか分からないよ……)
「うん……」
ゼナイド様の言葉に、頷く。
ボクを思って言っているんだろうって。
「話は変わるけれど……来週の実技試験、合格するためにわたくしが貴女を稽古をつけてあげますわ」
「ほ、本当……!?」
不安だったんだ。急に模範組へ入れられたから、プレッシャーが凄いし……
今までだって合格ギリギリだったから。
「明日から放課後に個人練習をしますわよ」
放課後ということは、大変になりそう……
余計に疲れちゃいそうだね。
でもゼナイド様の親切だから、絶対に受けないと。
「あ、ありがとうございます……」
ボクへ気を遣ってくれるのは、嬉しいけれども、どんな厳しい感じになるのかな……
不安な気持ちも出てきていた。
「さてと、そろそろ遅れますわね」
「そ、そうだよね……」
「偶然なんて言葉は、敗者の慰めにしか使われないのよ。覚えておきなさい」
「はい……!」
ボク達は文芸学の教室へと向かっていった。
(ああ、何とかなるよね……? ゼナイド様の稽古は……)




