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殿下との授業

 いつもより風が冷たく感じた朝だった。

 何かが起こる前の静けさって、きっとこういうのを言うんだろう。

 その”波乱”は、殿下という形で本当にやってきた。

 食事会は昼だから、それまで授業を受ける。

 この日の最初に行う授業は、魔法史学。ボクはいつものように……授業を受けようとしていた。

 でもそこに殿下が授業を受けに来た。


「おはよう」


「殿下! おはようございます」


「本日もご機嫌麗しくて、光栄ですわ」


 扉が開いた瞬間、教室の空気が変わった。

 まるで風が通ったみたいに、みんなの姿勢が一斉に正された。

 リュカ殿下は公務があったり、個人授業があったりして、毎日学院にはやってこない。

 そういった事情から、学院にやってくる日は多くない。

 やってくる日に関しては、学院は大騒ぎになる。

 殿下にアピールしたいから。婚約を狙うために。


「お、おはようございます……!」


 ボクは近くにやってきた殿下に挨拶をする。

 裾を軽くつまんで頭を下げた。こんな挨拶の仕方は、ポラリスに転生してからだけど。


「やあポラリス嬢、元気かい?」


 その声は優しいのに、どこか探るようでもあった。

 ボクの反応を、確かめているみたいに。


「は、はい……元気です。で、殿下にそう言っていただけて恐悦至極です」


(本当は確実に元気じゃないし……胃が痛くなってきた感じもするし……)


 ボクが見せているのは引きつりそうな笑顔で、元気とは遠いかもしれない。

 昨日からの洗礼で、疲れ切っているから。


「さて、隣に座っても良いかな?」


「と、隣ですか!?」


 何でボクの隣に座っちゃうの……

 これじゃあ、修羅場がより酷くなるって……


「ああ。ここしか無いみたいだからね」


(だからって……そこは……)


 他の令嬢達がざわめいている。

 実を言うと、教室は昨日に引き続いて、ボクが座る辺りには不自然なほどの空席が存在している。

 他は令嬢達がつめつめで席に座っていて、空席との境界には昨日に引き続いて閉じられた扇子が置かれている。

 ボクはそこに座れって言われているようなもの。

 干渉するなって。

 先生もちらりと見ていたけれど、何も言わなかった。

 学院では”貴族の空気”が、正義よりも強いらしい。

 だからこそ、ここだけ数人が余裕で座れる状況になっていた。


「で、殿下、お席でしたら別の場所を……」


 令嬢の一人が殿下に話しかける。

 流石に自分達で作ったとはいえ、殿下がボクの隣に座られたら逆効果だから。

 彼女達にとっては殿下が隣に座ってもらえれば、最高の気分になるし。

 ボクにとっても、他の席に移動してもらえれば気が楽になる。

 余計な心配をしなくていいから。


「いいよ。そんなわざわざ用意してもらわなくても、遠慮はいらないからね」


「そうですか……失礼しました」


 結局、殿下はボクの隣に座ってしまった。

 様々な意味でドキドキしながら授業を受けることに。


(板挟みじゃん……ボクはどうしたら……)


 離れた隣に居る令嬢が扇子を置いたために、ボクと殿下だけの空間を擬似的に演出していた。気づいて扇子を片付けていたけれど。

 その代わり、ボクに突き刺さる視線が昨日よりも痛い。

 明らかにちらちらとボクを腫れ物みたいに見ているし。


「ポラリス嬢、この聖女の名前って、誰だっけ?」


 殿下が聖女の絵を指さして、訊いていた。


「えっと……ナランフレグ・レミュリアです」


 覚えていて良かった。

 間違っていたら、恥ずかしいだけじゃすまないから。


「ありがとう、そうだったね」


 言葉は何とか出てきたけれども、顔は紅くなっている。

 殿下の顔が近いし、ボク自身が女の子として高揚しちゃっているから。


(早く終わって……休憩したい……)


 視線と隣の殿下で緊張しながら、この魔法史の授業を終えていったのだった。

 ああ、次は食事会。

 昼の鐘が鳴ったら、また戦場が始まる。

 この授業のことも言われるよ……

 どうやって上手く言えば良いんだろう……


(小学生男子だったボクが、王子の隣で授業とか無理だから! 保健室に行きたい……!)

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