第109話 学院祭準備5
数日後の授業前。
ボクは教室へ行ってみると、令嬢達の雑談に、同じ単語が何度か出てきていた。
「人が多そう」
「見やすい方がいい」
「移動、大変そう」
ボクが聞き取れたのは、断片的な部分だけ。
詳しく聞くっていうのも、恥ずかしいから。
誰も『学院祭の話』とは言っていない。
だけどボクは学院祭の話だって分かった。
(あれ、数日前に”決めなかった話”ばかりだ)
やがて授業になっていくと、雑談は中断して授業に。
いつも通りに授業は流れていく。
アデリナ様も何を考えているのか分からないけれど。ボクの隣で授業を受けていた。
ゼナイド様はより分からないけれども。
(今日は、決まるものと、自然に決まってしまうものがあるのかな)
三回目の話し合い。
授業後に指定の教室で行われるのは同じで、机は円形になっている。
「今日、また温室で収穫されたらしいですわね」
話し合いの直前、令嬢の一人が話していた。
そうだったんだ。
実習じゃないから行っていないけれども、また採っていたんだね。
「だから今日の昼食にナスが出ていましたのね。あれ、美味しかったですわ」
思い出しながら呟いた令嬢。
確かに出ていたね。
ボクも食べたけれども、美味しかったよ。
「学院祭でも、ああいうの出せたら良いですわね」
野菜だから、収穫のタイミング次第で傷みそうだよね。
前世でも売っていたりするけれども、冷やされていたりするし。
「まあ、難しいですわね」
やがて話し合いが始まった。
沈黙の時間は起こらないで、会話が続いていく。
話に出てきたのは場所だった。
講堂や食堂、中庭や温室前とか。
「中庭は広いですわね」
「温室前だと通りやすそうですわ」
提案しているのは、人が自然と集まる場所に偏っていく。
朝にしていたあの雑談はやっぱり、場所についてだったんだね。
「室内でしたら雨でも使えますわ」
「講堂なら、より多くの人が来られますわ」
候補がいくつも出ていく。
確定はしていないけれども、その先を話しているような。
「ね」
隣に座っているロランスが小声で話した。
「なに?」
「もう”何をやるか”より”どう動くのか”の話してない?」
「だね」
ボクは頷いた。
とは言っても、ボクもロランスも話し合いには参加していないけれど。
「人が多いなら、入口と出口は分けた方が安心ですわね」
アデリナ様がそう発言した。
出し物じゃない、企画でもない。
だけれども、運営から見た視点としての発言。
様子を見ていたゼナイド様は、まだ動かなかった。
「”人と場”は、もう動き始めているようね」
でもそれだけを呟いた。
指示をしなくて、褒めない。評価もしない。
だけどーー今起きているのが正解のルートというのは分かった。
(じゃあ、急がなくても、大丈夫そうだね)
誰も否定しないし、誰も反論しない。
決めなくても、もう動いていた。




