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小学生男子だった僕、悪役令嬢の取り巻きに転生したのに、舞踏会で料理を食べてただけで王子様に選ばれました  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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105/108

第105話 学院祭準備1

 翌日。

 いつも通りに午後の授業が終わった後、鐘が少し違う感覚で鳴った。

 今日はいつも通りじゃないんだね。


(そうだよね)


 廊下に出ると、人の流れがいつもと違っている。

 同じ方向に向かっているけれど、急いでいない。

 教室ではなく、講堂。

 椅子が並んでいて、前の黒板にはまだ何も書かれていない。


(白い)


 ボクはロランスと並んで座った。

 アデリナ様は一列前。

 ブランカ様はその隣に。

 ゼナイド様は、中央より少し前に。

 誰も話さない。

 ざわざわもしていない。


「学院祭準備について、説明します」


 担当の教授が前に立つ。

 声は事務的だった。


「本日は概要のみです。具体的な役割分担は、後日行います」


(決まらない日だ)


 これからだよね。

 まだ生徒達は分からない感じなのだから、当たり障りのないような感じで説明しているだけだと思う。

 教授は黒板に文字を書いていく。


 ・期間

 ・参加形式

 ・各学年の関与


 どれも、まだ仮。

 はっきりとしていない。


「出し物については、各学年で相談してください。本日は意見提出は求めません」


 言い切っている。


(今日は、聞くだけなんだね)


 誰も手を上げなくて、質問も出てこない。

 ゼナイド様は、姿勢を崩さず聞いている。

 ペンも動かさない。

 ただ、覚えているだけ。

 黒板も見ていなくて、教授の声を聞いているだけだった。


(まあ今は、動かないか)


 ロランスが、小さく身を乗り出す。


「ね」


「なに?」


「今日は、肩すかしだね」


「うん」


 その通りだった。

 準備なのに、何も始まらない。

 むしろ今日は軽い感じで、徐々に強くなっていくのかも。


「次回、具体的な案を持ってきてください」


 それで終わりだった。

 拍手も、ざわめきもない。

 椅子を引く音が、ぱらぱらと鳴る。

 皆、立ち上がった。


(終わったね。早かった)


 廊下に出てみる。

 空気は、さっきと同じだった。


「忙しくなると思ったのに」


 誰かが言った。


「まだ、だね」


 別の誰かが返した。

 ロランスが、歩きながらぽつりと呟いた。


「決まらない時間って、長く感じるよね」


「うん」


 アデリナ様は、前を見て歩いている。

 表情は、変わらなかった。

 でも、少しだけ呼吸が深い。


(考えてる。凄いな)


 ゼナイド様は、まだ取り巻きに何も言わない。

 声も、指示もない。

 もしかしたら、この後にあるかもしれないけれど。


(まだ、舞台を見てる)


 中庭を通る。

 風が吹いた。


(何も決まらなかったね)


 でも。

 何も決まらなかった、という事実だけが残ってた。

 ボクは、案を出す側じゃない。

 決まったものを受け取る側だ。


「ね」


 ロランスが話しかけた。


「嵐の前、だね」


 彼女がそう言うときは、だいたい当たる。


「そうかも」


 学院祭は、まだ遠い。

 でも、準備は始まってしまった。

 何も決まらない最初の日。

 それが、一番落ち着かない日だった。

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