第102話 温室実習2
次の日も、同じように温室の実習が行われた。
朝からだから、外も少し涼しめ。
だけど外よりも少しだけ、息が近かった。
(昨日よりも、慣れた)
足元の土、別のタイミングで水が掛けられていたのか、水を含んでいて色が濃い。
メイドが水を掛けたのかな。
踏まないように歩いた。
「では今日は、観察と一部の収穫です」
ソアレス先生の声。
指示は短かった。
「大きさと、色。触らなくても、分かることがあります」
列ごとに別れる。
ボクとロランスは、同じ区画。
(葉、増えてる)
昨日、水をあげたところ。
端の葉が、少しだけ外に伸びていた。
水を掛けられているから、ちょっと綺麗。
「ね」
ロランスが小声を。
「昨日より、元気だよね」
「うん」
答えは、簡単だよね。
(変わるの、早いね)
アデリナ様は、少し離れたところ。
腰を落として、真剣に見ている。
ブランカ様は、その後ろ。
ゼナイド様の列では、先生が一度だけ足を止めた。
頷く。
それだけ。
(評価じゃない)
ただ、確認。
様子を見ているだけ。
「では、こちらは収穫します」
籠が配られる。
小さくて、両手で持てるくらい。
ボクの目の前にあるのは、ナス。
食堂で見たこともある。当然前世でも。
美味しかったっけ、麻婆ナスとかナスを醤油で炒めたものとか。
(引っ張らない)
教えられたとおり、実を押さえて刃を入れる。
す、と音がした。
(切れた)
籠に入れる。
重さは、ほとんどない。
「うまいね」
ロランスが言う。
「そう?」
「葉、傷ついていない」
言われて、見直す。
確かに。
(考えてなかった)
でも、できていた。
アデリナ様の方を見る。
少しだけ遅れている。
慎重すぎるくらい。
刃が、止まる。
(大丈夫かな)
声は、かけない。
でも、近くに立つ。転んでも助けられるように。
一拍。
アデリナ様が、刃を動かす。
「取れましたわ」
それでも昨日より、手が止まらなかった。
「うん」
それだけで、十分。
籠が、少しずつ満たされていく。
同じ形、
同じ色。
でも、一つずつ違う。
(生きてる)
当たり前だけど、こうして見ると、分かる。
ゼナイド様は、収穫の籠を一度だけ見てから、何も言わず視線を戻した。
「本日は、ここまで」
籠は回収される。
収穫物は、食堂へ。
「こちらで育てたものは、明日使います」
ざわ、と小さく空気が動く。
(明日か)
今日はもう作っているのかな。
手袋を外す。
指先が、昨日と同じように少しだけ湿っていた。
「ね」
ロランスがにっこりとしながら話しかけた。
「今日も、疲れた?」
「少し」
「いい疲れだよね」
「うん」
温室を出る。
外の空気が、軽い。
(ちゃんと、終わった)
水をやって、育っているのを見た。
そして実を取った。
音楽会みたいな余韻は無い。
でも。
(地に足がついている)
それが、悪くなかった。




