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ねこの手、貸します。  作者: 白月 仄
にゃん一章 『にゃんてSHOP』にようこそ!
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いちのさん


 ──コロンカラン~。


「ただいま、戻りました」

「ただいまっと。なぁ、音k……───おっと、接客中だったか、すまん。お客さま、大変失礼いたしました」

「あ、いえ……」

 ちょうど、音恋さんがオーケーの返事をしたところで、お店の扉が開かれて店員と思われる男女が店内に入ってきた。

 男性店員は入ってきてすぐ音恋さんに話し掛けるも、接客中と知るや詫びをいれて下がる。

 そして、男性店員と一緒に入ってきた女性の店員の方の顔にははっきりと見覚えがあった。

 わたしがこのお店に入った時に応対した店員の双子の妹さん。

「あ、おかえり、かなえ詩音しおんさん。依頼、お疲れさま」

 カフェフロアの方から、わたしの応対をした女性店員が出てくる。

 「あれ、あの娘たちの事が気になるの?」

 音恋さんがお客さんの視線に気付き問い掛けます。

「……えっと、一卵性の双子を初めて目の当たりにしたので、その……つい」

「そっか。

 そうだ! ちょうどほとんど店員が揃ってるから紹介するね。

 三人ともちょっとこっちに来て」

「あれ? 店長、いま接客中だろ? お客さまの事はいいのか?」

「店長~、な~に?」

「なんですか、店長?」

「はーい、注目。この子と()が今日から──仕事に就いてもらうのは明日の休業日明けの明後日からだけど───新しい仕事仲間になりました♪」

「へぇ~、よろしくね。

 あたしは夢野ゆめの のぞみ。希でいいよ」

「ボクは夢野 叶。宜しくお願いします」

「なるほど。それじゃ、よろしくな、少年とお客──いや、青年。オレは詩音だ」

「あ、ちなみに私はこのお店の店長の音恋だよ」

「これからお世話ななります。みなさん、よろしくお願いします」

「よ、宜しくお願いします」

「うんうん、二人ともよろしくね。それじゃ、あとはねこカフェのねこたちとカフェフロアにいる歌音うたねちゃん……あとその他を紹介するから────と、その前に依頼完了の手続きしないとね」

 そう言うと、音恋さんはテキパキと依頼完了証明の書類を作成する。

「それじゃ、ここに依頼が完了したことを確認する署名をお願い」

「あ、はい、わかりました」

 お客さん──改め、青年さんはスラスラと音恋さんが出した書類に署名します。

「できました」

「ありがとう。ところで支払い方法はどうする?」

「あー、カードで」

「わかったわ。じゃあ、こっち来て」

「はい」

 音恋さんと青年さんは応接セットから接客カウンターにあるレジへと移動。

「領収書は?」

「一応、ください」

「了解。それじゃ、パパッと領収書を書いちゃうからちょっと待っててね」

「はい」

 音恋さんが領収書を書いている間に青年さんは財布を取出し、財布を開いてカードを出します。

「はい、それじゃココにカードを翳してね」

「はい。ありがとうございました」

「どういたしまして。毎度あり」

 会計を済ませて領収書を受け取り、青年さんはカードと領収書を財布にしまいます。

「じゃ、カフェフロアの方に行こうか」

「あ、はい」

 青年さんが財布を仕舞うのを待ってから、先導する音恋さんに付いてカフェフロアへ。


 ──チリリーン。


 カウンター奥の店員が行き来するスイングドアとは異なり、客が通る方の仕切りのドアにはお店入口のドアベルとは違う音色のベルが取付けられており、涼やかな音を響かせる。

「いらっしゃいませ。……って、店長じゃないですか。どうしたんですか?

 もしかして、猫のことを構いたいからってお客さんのフリですか……」

 ねこカフェのカフェフロアに入ったところで、さっき音恋さんが言っていた「歌音ちゃん」であろう他の店員とは違う制服の店員が応対に出てきました。

 しかし、相手が店長である音恋さんだとわかると、詞の中に呆れが混じります。

「ちょっと、歌音ちゃん。いくら私でも、そんなお客のフリだなんてしないよ。ねこを構いたくなったら、仕事の手を休めて心行くまで────」

 音恋さんが皆を言い終わらないうちに、

「…………ハァ」

「おい、音恋。おまえ店長なんだから自分の立場を弁えろよ……」

「音恋さん、堂々とサボり宣言するのは如何なものかと……」

 歌音ちゃん、詩音さん、叶さんが態度と言葉で苦言を呈した。

「──あれ? あ、……いや、その、冗談なんだけ……ど───」

 音恋さんは冗談だと弁明をするも、

「「「……………………」」」

 三人は黙ったまま胡乱げな表情。

「──えー……。私ってみんなからそう見られてるの?!」

「「「うん」」」

「がくッ」

 三人全員が見事にハモって肯定する姿に項垂れる音恋さん。

「ひとまず、店長の事は横に置いておいて、そっちが今日から一緒に暮らす子だよね。で、そちらの方は?」

「置いとかないでよ。……まあ、別にいいけど。

 そ、こっちの子が前に言った今日から一緒に暮らす子で、彼は新しく入った住み込みのバイト君」

「そうなんですか。わかりました」

 音恋さんに紹介され、わたしは一歩前に出る。

「はじめまして、私は歌音っていいます。これから兄ともどもよろしくお願いしますね」

「いえ、こちらこそお世話になります。」

「初めまして、お世話になります」

「さて。これで一先ず、ねこたち以外の紹介は済んだね。一応、店員はあと一人いるんだけど、こっちに到着するのが夜になりそうらしいから、その時になったら二人に紹介するよ」

「はi──」

「『──ちょっと、待ちやがれっ!!』」

 突如、この場に渋くてダンディーだけど内に暑苦しさを内包した声が轟き、わたしの音恋さんへの応答を遮った!

「『さっきから黙って聞いてりゃ、オレ様のことを“その他”扱いするばかりか、終には居る事自体無視とか何様のつもりだ?!』」

 しかし、この場に轟く謎の声の主の姿は見当たらない。

 いまこの場には、音恋さん・詩音さん・叶さん・わたし・歌音ちゃん・青年さんの六人しかおらず、希さんは仕切りドア向こうの接客カウンターにいる。

 つまり、この場には透m────

「何様って、形式上では飼い主様になるのかな?」

 だが、音恋さんたちには謎の声の主の正体はわかっているようで、わたしと青年さんのように声の主を探す素振りはない。

「『はぁあ~? なーに言ってくれちゃってるのかな、この猫女は!?

 オレ様の飼い主は歌のねぇちゃんと水族園で一羽溢れたオレ様を深い懐で受け容れてくれた歌のにぃちゃんだけだ!

 ──ところで、お前ら! お前らは一体何処を見ている? それともお前らの目は節穴か?』」

「……え!? いや、その、そう言われても……」

「……あんたが何処にいるかとんと見当が……──」

 音恋さんに文句をつけていた謎の声が、唐突にわたしと青年さんに矛先を向けてきた。

「『──お前ら、いい加減にしろ! 下だ!!』」

 辺りを見回すも見付けられないわたしと青年さんに業を煮やしたのか、謎の声の主がわたしと青年さんの視線を誘導する。

 そして、謎の声に従いわたしと青年さんが視線を下げた先には、

「──えっと、何処?」

「──あん? いないじゃないか!? 騙したのか?!」

 ペンギンがいるだけだった。

 青年さんが依頼をしたあたりだったか接客カウンターの裏側から出てきて周りをうろちょろしていたのを視界の端には捉えていたが、これといって気には留めていなかった。

「『オレ様を目にしておきながら気付かぬとは……やはり、お前らの目は節穴だったか──いや、現実を受け容れられないといったところか』」

 あぁ……、まさかとは思ったけど、そのまさかとは!!

 しかし、

「へー、ペンギンって、ヒトの声真似が出来たんだ!」

「『阿保か、小僧。ペンギンが鵡や九官鳥のように声真似ができるわけないだろう!!』」

「じゃあ、なんで──?」

「『──なんで、ヒトの言葉が喋れるのか。か?』」

 青年さんがみなを言うより先に青年さんが言おうとしていたことを言い当てるペンギン。

「『フンッ。小僧、これから大学生のくせに無知だな。

 だが、オレ様は優しいからな、特別にお前らに教えてやる』」

「いや、そこは偉ぶるところじゃないと思うんだけど……?」

「『猫女は黙ってろ! オホン。では、教えてやろう。オレ様がヒトの言葉を扱える秘密を。

 それは、ズバリ『代声機だいせいき』を用いているからだ!』」

 『代声機』!?

 確か、お父さんからちょろっとだけ聞いたことがある。

 声を失った人のために開発された物だ。

 装着者の脳波を読み取って機械が予め設定しておいた音声で失った声の代わりになって言葉を紡ぐ装置。

 ペンギンをよくよく観察すると、その体躯には首輪のような形をしたメタリックな光沢を放つ機械を身に着けていた。おそらく、それが『代声機』なのだろう。

「へぇー、なるほど。そうだったの……?」

 あれ?

 でも、そうなると別の疑問が浮かんでくる。

「『──どうして、ペンギンがヒトの言葉を熟知しているのか、か?』」

 ──コクコク。

 今度はわたしが詞にするより先に言わんとしていたことを言い当てられてしまったが、なんだかよくわからないがそんな気がしたので別段驚く事もなく、わたしはペンギンが言ったことが正解であると首肯する。

「『フッ、素直なことはいい事だ。よし、これまた特別にその問の答えを──』」

「──あ! 特異進化個体」

 テレビの動物バラエティー番組の特集でやっていたのを思い出した。

 通常個体とは比ぶべくもないほどの高い知能とそれに依って備わった知性を有する動物の個体に付けられた呼び方。

 それが、


 ──特異進化個体──


 だが、わたしはそれらを「調教されたタレント動物」なのだろうと捉えていた。

 現在、こうして目の当たりにしなかったのなら、その考えのままであったのは間違いない。

「『ほう、少しは物を識っているようだな。』」

「──いや、前にテレビでやっていたのを思い出しただけなんだけど…………」

「『…………………………………………まあ、いい。オレ様は懐が深いペンギンだからな。

 そういえば、お前らにオレ様の名前を教えていなかったな?』」

 ああ、確かにペンギンの名前は聞いていない。

「うん。あんたが突然会話に割り込んできて御託を並べてたから、紹介の場はなかったね」

「『フン、皮肉だけは一丁前だな。だが、オレ様は寛容だからそんな些細なことで目くじらを立てたりはせんから安心しろ。

 では、お前らにオレ様の名前を教えてやろう!

 鳥の中でも最もぷりちーであるペンギンの中でも更にぷりちーなこのオレ様の名は────────』」


「──その人鳥ペンギンの名前はギーペっていうのよ。口は悪いけど、根は善い鳥だから仲良くしてあげてね」


「『────………………………………おい、オレ様のセリフを横取りするなよな、希!』」

「そう言われてもね~……、何もないなら横槍なんて入れないわよ」

 先ほどまで接客カウンターのところにいた希さんが若干のイラつきを孕んだ笑顔でこちらにきていた。

「『おいおい、その目が笑ってねぇ笑顔はやめてくれ。特に希のはマジで恐えぇーから……』」

「だったら、time place and occasion.を考えてくれるかしら? “営業時間中”って言えば理解出来るでしょ?」

「『……あ、はい。オレさm──いえ、わたくめが悪うございました』」

 うわっ!

 自分が怒られているわけではないのに本能的に畏縮してしまう。

 これがかつてネットで流行った『まぢ怒』なのだろう。

 うん、希さんをまぢで怒らせないようにしよう。

 そう肝に銘じたわたしだった。

「──さて、それじゃ詩音さんはとっとと休憩して休憩が終わったら書類整理、歌音ちゃんは持ち場に戻って、音恋さんは後輩ちゃんと後輩君へのにゃんこたちの紹介は後回しにして仕事に戻る!」

「“後輩君”?」

「そうよ。貴方は仕事の後輩になったんだから後輩君。イヤなら、別の呼び名を考えるけど?」

「いえ、滅相もないです。後輩君で構いません。はい」

 希さんの雰囲気に呑まれた青年さん。

「そう。

 じゃあ、もう少ししたらお客さんがたくさん来る時間帯に入るから、みんな頑張っていきましょう!」

 みんなにテキパキと指示を出して場を仕切っている希さん。

 ちらっと、本来は場を仕切る立場であるはずの店長である音恋さんはと見てみると、

「おー!!」

 どうやら気にしていないようで、威勢よく声を上げていた。

「あ、そうだ! 後輩ちゃんと後輩君悪いんだけど、休憩室でギーペのことをみててくれる?」

「はい、いいですよ」

「あ、はい!」

 今のところわたしと青年さんはお店の邪魔にしかならない。

 いい暇潰sh──じゃなかった、なのでどうやって時間を潰すかを考えようとしたが、その手間が省けた。

「『ちょっと待てや希! なんで、ねこカフェNo.2のオレ様が引っ込まにゃならんのだ!!』」

「だからよ。ここ“ねこカフェ”。で、アンタは“人鳥”。おわかり?」

「『ハッ! オレ様のぷりちーさは格別だからな! 猫との戯れが目的で来た客であろうとも、虜にしてしまうのは致し方ないことだ。諦めろ!!』」

「はぁ~……、埒が明かないわね。もう強行手段よ!」

「『何をするつもりだ?!』」

 どうやら希さんは徒に時間を費やすつもりは毛頭ないようで、手っ取り早い手段にでる。

 希さんの実力行使宣言に身構えるギーペ。

 わたしは他のみんな同様、成り行きを見守る。

「後輩君、確保!!」

「え!? あ、はい!」

 ──がしっ!

 突然呼ばれて一瞬戸惑うも、青年さんは身体が反射的に命令を実行した。

「『放せ、小僧!!』」

「!?」

 ジタバタ暴れるギーペ。

 しかし、わたしはそれよりもギーペの『声』が一瞬だけ変わったことに驚いた。

 その『声』は威厳というか威圧感が半端無く、堪らず畏まってしまいそうだった。

「放しちゃダメよ、後輩君。

 それじゃ、詩音さん後はお願い」

「了解したよ、希ちゃん。

 んじゃ、少年、青年、行くか」

「はい」

「はい」

「『待て、小僧。オレ様はまだ希との話し合いが───』」

「────うわ!? 暴れんな!」

 青年さんは暴れるギーペをなんとか抑えながら、わたしと一緒に詩音さんの後に続く。

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