よんのさん
店長は足を止めて、目的地への到着を宣言する。
やっと到着か。
だけど、風景は先ほどとまったく風変わりせず、コンクリート塀に挟まれた寂れた道路が続く道の半ば。
周囲を見回しても桜の木など、全然影も形も見えない。
でも、店長はココで間違いないという自信が有りありで、アタシの頭の中ではハテナが飛びかっている。
「店長、あの……見える範囲に桜の木が全く見えないのですが……──?」
「そりゃ、セキュリティをまだ解除していないからね。まぁ、見てて」
「はぁ、そうなんですか……すみません……」
釈然とはしないけど、自信に満ち満ちている店長の瞳を見ていると、なんだか疑問を抱いた自分が恥ずかしくなる。
「ま、嬢ちゃん、気にするな。オレも『眠る森』を初めて見に行ったときに嬢ちゃんと同じような事になったからな」
「副店長……──」
「お、セキュリティの解除が始まるぞ。コレもなかなかの見物だから、見ていて損はないぞ。ほら」
副店長に促されてアタシは俯きかけた顔を上げる。
すると、────
「うわぁー、スゴい……! お父さんが見たら昂奮覚めやらなさそうな光景だ!」
「へぇ~、セキュリティを解除するだけなのに、こった演出をするのね」
「うん、郁美君が好みそうな演出だね」
「あー、それ確かに。もしかしたら、イクミンと後輩ちゃんのお父さん気が合うんじゃないかな?」
「お父さんと郁美先輩がですか? う~ん……そうですね、確かにお父さんと郁美先輩なら気が合いそうです」
「『おいおい、変態野郎とコイツの親父さんが気が合うとか、そりゃコイツの親父さんに失礼だろう!』」
「ギーペ、希にも言ったことあるんだけど、そこは“変身”って言ってあげようよ。知らない人が聞いたら誤解が生まれるから」
「『ハッ。姿形がまるっきり別者に変わるんだから、変態でいいんだよ!』」────
みんな、目の前で起きている光景の感想を漏らすも淡泊で、途中からは世間話になってる……。
アタシにはまだまだ世間話もハードルが高いので、参加する勇気が出ない。
なので、大人しく目の前で起きている光景に集中する。
店長が手荷物から八面体のクリスタルのような物を取り出して掲げると、どういう仕掛けかは不明だけどソレが輝りだし、周囲が突如、黒に塗り潰された。
青く広い空も、先ほどまで居た寂れたアスファルトの道路とそれを挟んでいたコンクリート塀の道も、見える範囲の全てが黒に呑まれて、アタシたちは黒の空間の真っ只中に!
そして、ここで先のみんなの感想が漏れた。
そこから、今度はアタシたちを取り囲むように沢山の空中投影された画面が現れた!
それらの空中に現れた画面の1つ1つは各々別途の情報を映しだしていて、その中の1つには、──
──『人間8名、猫13匹、鳥1羽の立ち入りを審議中』──
──そう表示されていた。
──ああ、本当に巨大猫は猫だったんだ。
後日に改めて自分の眼で巨大猫が着ぐるみを着た人かどうかを確かめようと思っていたのに……残念。
やがて、沢山あった画面は消えて、進行方向の前面に巨大な画面が1つ現れて、そこには──
──『立入許可』──
と、デカデカと表示されていた。
そして、間髪を入れず光が視界一杯に溢れ出して、目を開けていられなくなり瞼を閉じる。
……
…………
……………………
──パチクリ。
瞼越しにも感じていた光が消えていくのを感じて、目を開ける。
「──これ、どうなってるん……ですか?」
アタシは誰となしに問う。
目に入ってきた光景は、真っ黒空間から、今度は道として整備はなされているけれど地面は土が剥き出しの道とその道を挟む生命力が満ちて生き生きとしている感がある木々たちが連なるる一本道の林道になっていた。
確か、真っ黒空間の前は寂れたアスファルトの道路とコンクリート塀の道だったのに…………。
「な。なかなかの見物だったろ、嬢ちゃん」
「……え? あ、……はい、そう……でしたね」
あれ、副店長はどうして……──? ──……あっ!
あー、そうだった。一瞬、副店長の普段と変わらない態度に疑問が生じたけど、副店長はココとは違う場所で体験済みだったっけ。
それにしても、狐につままれたよう。
「うわぁ~、なにアレ!? スゴ~い!!」
アタシがいまだ現状への理解が追い付かないでいる中、突如、誰かの驚嘆の声があがる。
何事かと声の発声主を探すと、それは希ちゃんだった。
希ちゃんを見ると、彼女はアタシたちの進行方向──林道の終点の先を指差して、すごいハイテンション。
いったい、何だというのだろうか?
アタシは目を凝らして希ちゃんが指差す先に焦点を合わせる。
「……ウソ、信じられない……!?」
林道の終点のその先、そこは拓けた広場のようで陽の光りが射していて明るい。
そして、そこの地面は遠目ながらにも淡いピンク色──サクラ色──が一面を覆っていた。
さらに、そのサクラ色の地面に上から同色の紙吹雪きのようなモノが、ゆらゆらと揺れながら絶えず舞い降りてきている。
近付いて視ないと確信ができないけど、まさかアレらは────
──桜の花弁──
あんなに沢山の花弁、普通なら雨風でくすんだり何処かへと攫われていったりで、一定ヵ所にあんなに綺麗なままで在るだなんて、不思議にも程がある──…………いや、不思議には程が無かったっけ? まあ、いいや。……とにかく、散り落ちた花弁が汚れることなく一定ヵ所に降り積もっている様は驚愕である!
「ほら、みんな、突っ立ってないで、あそこまでレッツらgo~だよ♪」
店長は元気溌剌と先頭をきって、サクラ色の広場へと歩きだす。
みんなも店長に続き、アタシも後れないよう足を動かす。
広場へと近付くにつれて、林道の木々の青々しい葉で隠れていたモノが徐々にその姿を現す────
──それは、荘厳にして──
──鮮烈で──
──得も言われぬ艶を湛え──
──聳え立つ──
──大樹なる桜──
アタシは白昼夢の中にいるのだろうか?
さっき、狐につままれたようと述べたけど、それ以上に今は現実感が抜けている……。
「──…………これが…………、『永遠桜』──」
「GOAL~♪ いや~、それにしてもスゴい幻想的だよね! 想像を遥かに超えてるよ♪」
「そうだな。ここまで感銘を受けるとは……思わず見惚れちまうな」
「はい、ホント絶景です!」
「綺麗~♪」
「────流るる刻を忘るれて 悠かに桜花は咲き狂う 其は『永遠に花咲く切なき桜』 いと美しきなり────か。…………そうね、まさか説明文句そのままとは恐れ入ったわ」
「……うん、そうだね」
「『──こいつは…………!?──』」
「マジ、スゲェー!」
みんな、広場に踏み入ったところで立ち止まり、感嘆の言葉を口にする。
それだけ眼前に存在する桜は圧倒的。
「──さて、花を愛でるのは一旦これくらいにして。きびちゃん、荷物の中からレジャーシートを出して適当にあそこら辺に敷いてちょうだい」
「……あ、はい、ただいま」
うん、もう少し桜を観ていたいと後ろ髪がひかれる思いだけど、やはり花見といえば宴会だよね。
対人コミュニケーションが不得手なアタシだけど、宴会は大好きだ!
花より団子で何が悪い?! ──いや、悪い筈が無い!
アタシはすぐさま荷物を地面に置いて、その荷物の中の一番上に入れらているレジャーシートを取り出して、どこら辺に敷こうかと思案する。
──う~ん、オーソドックスに樹の根元付近がいいだろうか? でも、花を観るアングルとしては在り来たりだし、他の人達がいないのだから桜の樹の全体を見渡せられるポジションの方がいいかもしれない。
よし。決めた。
アタシはレジャーシートを持ったまま、桜の花弁が絨毯のごとく敷き詰められた上を進み、自分としては桜の樹が一番好く見える位置でレジャーシートを広げる。
「きびさん、お手伝いします」
「ありがとう、歌音ちゃん」
歌音ちゃんの協力を得て、おかげでレジャーシートをやり直し無しで上手に地面に敷く。
風で捲れないよう四隅に重石を置いて、と。
「うん、ばっちり」
「おー、きびちゃん、いい位置にポジショニングしたじゃない♪」
「あ、はい」
かけられた声に振り返ると、そこにはハーネスから解放された猫たちを抱っこ(?)している店長。
──うわ~、猫だらけだ!
両腕肩と頭の上に1匹ずつの計5匹と上着にある大きなポケットから顔を出している2匹と、半数以上の猫が店長に。
流石、愛しているだけのことはあるのだろう。猫たちも店長によく懐いている。
「それじゃ、みんな、お花見の準備開始だよ!」
店長の号令が響き、シートの上に次々とお弁当のお重やランチボックスにお菓子やおつまみ、更に猫たちとペンギンの分も並べられていく。
そして、取り皿や紙コップなどの食器類に各種飲み物も出揃う。
瞬く間に宴会──もとい、花見の準備が整う。
「じゃあ、次は乾杯の用意だよ♪ きびちゃんは何にする? ビール・日本酒・ワイン、それともジュース類がいいかな?」
「えっと……、それじゃ、ビールでお願いします」
「OK、ビールだね」
──カチッ。プシュー……。
店長は缶ビールを開けると、アタシの紙コップになみなみに注ぐ。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。さて、私もビールにしようかな」
「あ、お注ぎします」
「ありがとう、きびちゃん」
店長から缶ビールを受け取り、今度はアタシが店長の紙コップになみなみとビールを注ぐ。
みんなもそれぞれ紙コップに飲み物を注がれ終えて、あとは宴会の開始の合図をいまかいまかと待ちわびてい…………る?
ん? んん?? んんん???
これは……いったい──どういうこと?
みんなが飲み物を手に持って立ち上がり、正面に見える桜の樹の前に立ち並ぶ。
しかも、それだけじゃない。猫たちとペンギンまでもがそこに加わり、アタシたちと向かい合う。
──そう、彼(?)と大学生さんもまたアタシ同様に困惑の表情を浮かべていた。
店長たちは何を────?
「──オホン。本日は日和りもよく、絶好のお花見日和です。ですが、──」
アタシと彼(?)と大学生さんの視線が店長に向いたのを合図に、店長が口上を述べだす。
「──お花見はついでです。──」
──はい?
お花見がついでって、さんざん花見って言っていたのに店長は何を言いだしているのだろうか?
「──今回、一席を設けたのは『私たち』に新たに加わった三人の仲間にあらためて歓迎の意を表わし、さらなる親睦を深めるためです!」
──え……、それって……───
「──せーの、────」
──「『にゃんてSHOP』にようこそ!」──
──あ……。
………………………………………………………………………………──はらり…………。
──涙──
そう、涙。たぶん──ううん、それは確かに、嬉し涙──。
胸の中に溢れる温もり──。
──……ああ、暖かい。────
「──ほら、きびちゃんもこっち」
アタシを手招きする店長。
ふと、隣を見ると、すでに彼(?)と大学生さんは店長たちの方へ行っていた。
あの輪の中にアタシも入って────────
「『────いいんだよ! まったく、なに怖じ気付いてるんだか、小娘は! ほれっ!!』」
──どげしっ!
「うわっ! ……と、と……。あ!?」
いつの間にやらアタシの後ろに回り込んでいたペンギンが、踏ん切りのつかないアタシをみんなの方へと蹴押す。
アタシはたまらず、数歩たたらを踏んで前のめりになりかける──
──パシッ。
「大丈夫、きびちゃん」
「はい、ありがとうございます、店長」
──が、店長に助けられた。
「もう、ギーペ、なにやってるの?!」
「『なにって、小娘がとろとろしてたから、オレ様が背中を押してやったんだ!』」
「……あのね、ギーペ、ドロップキックのどこが背中を押すになるのよ?!」
「『ハアァ~?! あのな、オレ様はぷりちーなペンギンだぞ! ヒトとは身長差があることがわかんねーのか、猫女は?!』」
「……あら、そうだったね。ゴメンね~、ギーペ」
「『──な!? 今、オレ様の事を────』」
ありゃりゃ、店長とペンギンのいつもの言い合いが始まっちゃった……。
「──まったく、音恋もギーペもよく飽きないもんだな。そう思うだろ、嬢ちゃんも?」
「へ? ……あ、はい、そうですね、副店長」
なんだかな~。これじゃ、普段みたいだ──……あ!
──ああ、そういうことか……。
そう──これが、現在のアタシがいる“日常”。
鈍ちんだなアタシは……。
気付かないうちにみんなに歩かせてもらっていたのに────勝手に足を突っ張って立ち止まろうとしていたなんて……。
それに、さっきもペンギンに背中を押して──蹴押してもらって、また一歩を踏み出せた────。
──約1ヶ月前に感じて思ったことは間違いじゃなかった。やっぱり、この暖かい人たちと共に過ごしていくことで、アタシはほんの少し変われたのだから────────
────でも、だからって甘えたままじゃ、本当の意味では歩き出せたとは言えない。
まだまだ、みんなに手助けしてもらわないと歩けないアタシだけど、いつか自分の意志だけで歩き出せるよう、これからも────
──────頑張っていこう!




