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ねこの手、貸します。  作者: 白月 仄
にゃん三章 桜花見祭り
15/22

さんのさん

 混乱する人々の合間を縫って、あの場を脱出したわたしたち。

 一息吐けるところまで移動したところで、わたしは迷子の子改めタクト──移動中に名前を聞いた──に“誠心誠意まごころをもって”さっきの事についてよーく“言い聞かせ”、ようやく通常運転に戻って文句を言い出した新人さんには音恋さんから許可を得ていることを告げて黙らせた。

「──それで、タクトはパパとママがはぐれたときの集合場所とかは決めていたの?」

「しゅうごうばしょ?」

「……えっと、集まるところ、って言えばわかる?」

「それなら、おおきなサクラの木!」

「大きな桜の木か……」

 道を聞かれたとき用に忍ばせていた此処のパンフレットを取り出して開いて見るも、そこには複数の大きな桜の木の紹介があった。

「えっと、どの桜の木なのかわかる?」

 タクトに開いたパンフレットを見せて確認してもらうが、

「…………わかんない」

 芳しくない答えだ。

 う~ん、さすがに全部の箇所を廻る余裕はないし、

「ねぇ、その桜の木の近くに目印──気になったモノとかはなかったかな?」

「気になるもの?」

「そう」

「……うーんと、うーんと、あ! イカのたこやきやさん!!」

「イカのたこ焼き?」

「うん! イカのたこやき!」

 うん、イカのたこ焼き……ね。なんのこっちゃ。

「……えーと、他にはない?」

「うーん……、そうだ! サクラの木がネジネジだったよ!」

 桜の木がネジネジか……。

 これはヒントになるかも?

 あらためてパンフレットに目を通して、紹介されている大きな桜の木の中から捻れがあるものに絞り込む。

 すると、ビンゴ!

 タクトが言った捻れがある桜の木が二つあった。しかし、どっちだ?

 ……………………ええい、ままよ!

 片方に行って見付からなかったら、もう片方に行けばいいのだから、どっちかと無駄に考えるのは止める。

 それよりも、音恋さんと約束した制限時間を気にしないと。タクトに説教するのに十分近くも費やしてしまったのだ……。残りはもう二十分とない。

 しかも、時間的にはそろそろ目玉の催し物が行われる頃だ。見れば、それを目的の人たちの移動で人混みの密度も高まっていて、目的地を前に足踏みをさせられては目も当てられない。

 ──急がないと。

「よし、タクト、新人さん、行くよ!」

「うん!」

「あ、ちょっと……、もう」

 わたしはタクトが人混みの中ではぐれないように彼の手を取り、近い方の捻れた桜の木へと歩きだす。


「そういえば、さっきの人たちって、男の子──こういう場合は男の娘って言うんだっけ?──のスカートの中に興味があるだなんて、ショタ趣味──でいいのかな?──なのかしら……」

 捻れた桜の木へと移動を開始したわたしたち。

 進行方向が同じ人の流れに乗り順調に進む中、新人さんが唐突に先程の事で呟く。

 正直、新人さんの呟きに対していろいろと訂正のツッコミを入れてもいいのだが、どういう理由かは定かではないのだけど音恋さんたちから「新人ちゃんが自ら気付くまでは勘違いを正しちゃダメだよ!」と言われている。

 まあ、別に勘違いされていても、わたしとしては気にする事ではないし。いいか。

 あー、そういえば、いまので思い出したのだが、詩音さんと青年さんも、最初はわたしの性別を勘違いしていたのだそうだ。

 なんでも、詩音さんはわたしの上依うわぎがぶかぶかで体型がわからず判別する材料が見た目だけだったため、わたしのことを「少年」と呼んだのだとか。さらに、そのときにわたしが訂正しなかったことが起因となって、あの日の夜──新人さんが到着するよりも前──に一騒動が起きたのだ。

 経緯は割愛するが、オチを言うと、詩音さんと青年さんと、何故か歌音ちゃんまでもがバスタオル一枚で正座させられて、音恋さんにこっぴどく叱られた──特に詩音さんが──。

 まぁ、その時のわたしはなんでそんな事態になったのか、理解が追いつかなかったのだけど……。

 ちなみに、詩音さんのわたしの呼び方をそのままにしているのは別にそのままでも困らないから。

 ただ、このことがどうやら新人さんに勘違いをさせたのだろうと、今更になって気付いた。

 そんなことを考えながら歩いていると、ふと気に掛かるものが視界に入る。

 一つは目的地の捻れた桜の木。もう一つは──


 ──『イカのたこやき』と書かれた暖簾を垂らす出店屋台──


 マジに在ったのか……。

 タクトはまだ年端もいかない子どもだから、もしかしたら見間違いか記憶した情報がごちゃ混ぜになったのだろうと、半分思ってた。

 なにしろ『イカのたこやき』だ。普通なら冗談にしか聞こえない。

 しかし、タクトの見間違いや情報がごちゃ混ぜになっていたなどではなく、本当に実在していとは……。

 その屋台の傍らを通り過ぎる際に、少し気になったので横目に覗いてみると、見るからには普通のたこ焼き屋に見えるのだが、ただ唯一メインの具であるタコの足が……………………『げそ』に置き代わっていた!!

 これなら、せめて『イカ入り明石焼き』とかにした方が分かりやすいと思うのだけど……。

 そんな感想を抱きながら食指を擽る匂いに足を停めることもなく、捻れた桜の木の元へと向かう。

 それにしても、二者択一とはいえ、いきなり当たりを引けたのは喜ばしいが、問題はここからだ。

 目的地の桜の木のところにタクトの両親が居るかどうかだ。わたしらとしては居てもらわなくては困る。

 人の流れが着々と進み、ついにわたしたちは目的地の桜の木の前へと辿り着く。

 『干支桜えとざくら』。パンフレットの紹介文によれば、品種改良した大木に育つ十二本の桜の木がまとまってひとつの巨大な樹を像どっている。のだそうだ。

「さて、タクトのご両親はどこかな……と」

 桜の樹の周囲を見渡すが、タクトに似た大人の人は一人も見付からない。

 どうやら、ここから見える範囲にはいないようだ。

 さすがはパーク内で二番目の大きさを誇る桜の樹だ。幹にあたる部分の太さが十二本の木がまとまっているだけあって、めっちゃ太い。ちなみに一番目は樹齢千年以上の枝垂れ桜だとパンフレットには記載されている。

 わたしらは反時計回りに桜の樹の周囲を進み、タクトのを両親を捜す。

 ……。

 …………──!?

 およそ半周したあたり、桜の樹を座ってゆっくり眺めるために設けられたと思われるベンチのところにその人たちはいた。

 ──まるで、捨てられた子犬のような悲しい目をして狼狽えている男女。

 近づくにつれて顔もはっきり見えてきて、その人たちの各々の顔の一部のパーツがタクトの顔のパーツと相似している。

 これは高確率でタクトの両親の可能性がある。

 しかし、当のタクトを見てみると、これといった反応を示してない……?

 普通というか、大抵の子どもなら、親を見つけたら駆け寄っていくだろうに、タクトはそうする気配は皆無。

 ──もしかして、違うのだろうか?

 わたしがそう不安を感じたちょうどその時、わたしたちはその人たちの前に到着した。

「……」

「「……」」

 無言で見つめ合うタクトとベンチに座る男女。

 ……………………………………

 両者の間に沈黙が落ちる。

 だが、タクトが二人を注視して立ち止まっていることから、この人たちがタクトの両親で間違いがなさそう。

 ならば、この無音の空間は一体────────?

「──パパ、タっくんが──」

「──ああ。ママ、タクトが──」


「「未来のお嫁さん候補を連れてきたッ!!!!」」


 ──はいぃ??

 タクトの両親(確定)は突如、沈黙を破ってそう叫んだ!

 ──なんなの、この人たちっ?!

 つい数瞬前までのタクトの事を案じていた姿は何処へやら。

 ……まあ、いわゆる切り替えの早い人たちなのだろう。そう納得しておく。

 しかし、────

「パパとしては、ボーイッシュな娘の方がタクトにはいいと思うけど、ママはどうだい?」

「そうねー、ママもパパの意見に賛成だわ。もう一人の娘の方はなんでもそつなくこなせそうだけど、舅や姑をいびりそうで将来に不安が────」

「────お言葉ですが……────────」

 ────何処をどう捉えれば、タクトがお嫁さん候補を連れてきたと見えるのだろうか?

 ──間違いない。この人たち、天然だ!

 もしかして、タクトの強がりは両親の天然さが原因なのかも……。

 それにしても、新人さんはどうも話をややこしくするのがお好きなようだ。タクトの両親のさっきの発言に噛み付き、今現在進行形で抗議をしている。

 でも、相手が悪い。タクトの両親は持ち前の天然で新人さんの抗議の言葉を悉くいなし、暖簾に腕押し、糠に釘だ。

「────それに、そもそも彼は────」

 しかも、話を拗れさせる才でもあるのか、過剰に燃料を投下しようとする始末……。

 ──はぁ……まったく……。

「──もう、新人さん。冗談発言になにをマジになってるんですか?」

「いや、僕たちは冗談じゃ──」

「──冗談、で・す・よ・ね?」

「…………はい、じょ冗談ですよ、お嬢さん方──」

「ほら、こちらの方も冗談だとおっしゃっているんですから、新人さんは真に受けすぎだよ」

「──ッ!? アナタね……───」

「──もう少し、余裕を持ちましょうよ、新人さん。…………ね」

「……………………ハイ」

 うん、素直なことはいいことだ。

「……ママ、どうやら僕らは選択肢を間違ったかもしれないね」

「……そうね、パパ。いびられた方がまだいいかもしれない、なんて思える笑顔は初めて見たわ────」

 まだ言うか、この人たちは……。それにしても、非道い言われようだな……。わたしはただ、希さん直伝の“誠心誠意まごころをもって”お話をしただけなのに……。

 さて、また話があさっての方向に進む前に、本題に入らないと。

「──コホン。ところで、お二方はタクト君のご両親で、間違いありませんよね?」

「ああ、そうだよ。タクトは僕ら夫婦の自慢の息子さ!」

「ええ、タっくんは何処に出しても恥ずかしくない自慢の子どもよ!」

 念の為の確認作業。両親の次はタクトの方。

「タクト、この人たちがタクトのパパとママであってる?」

「うん。いきなり変なことを言いだしたから、ホンモノのパパとママだよ!」

 ……変わった判断基準。──でも、両者の確認が取れた。

「よかった。

 あー、後れ馳せながらわたしたちはタクト君に“はぐれたお二方を捜す”手伝いを頼まれ者です」

「まあ……、そうだったんですか!?」

「なんと!? これはとんだ勘違いを……──すみませんでした」

「いえ、お気になさらず」

「お姉ちゃん、パパとママをいっしょにさがしてくれて、ありがと♪」

「うん、どういたしまして。また、パパとママがはぐれないよう、しっかり見ておくんだよ」

「わかった!」

「それでは、わたしたちはこれで」

 最後にタクトの頭を撫でたあと、三人に会釈をして、踵を返しわたしは歩きだす。後ろから聞こえてくる家族の賑やかな会話を背に受けて、ほっこりした気分になりながら。

 ふぅ……。これで依頼達成かな。

 ──こつこつ。

『──はい、こちら店長。どうぞ』

「こちら、見回りB班。保護した迷子の子を無事に親御さんの下に送り届けました」

『そう、お疲れさま』

「はい! では、わたしたちはすぐに運営本部そちらに戻ります」

 音恋さんへの報告を終えて、ホッと一息吐いたとき──、

『あ、ちょっと待って!』

 音恋さんから待ったがかかった。

「──? はい、なにか……?」

 一体なんだろう?

『確認したいんだけど、今どの辺にいるの?』

「はい、干支桜の側です」

『そう、なら悪いんだけど、これから言う地図座標に行ってもらえる?』

「はい、それは構いませんが、どうしてですか?」

 まあ、トラブルであることは察しがつく。

『酒に酔った花見客同士が喧嘩をしてね、今現在鎮圧中なんだけど……──』

「はぁ、えっと、それって……?」

『──まさか、そんな危ない真似なんてさせないよ。たぶん、二人が着く頃には鎮圧されていると思うから』

「なら──?」

『希からの報告で、暴れている酔っ払いの人数が多いらしいのよ。それでね、鎮圧後にスムーズに警備員の人たちが酔っ払いたちをしょっ引けるよう、周辺の整理を頼める?』

「なるほど。了解しました」

『ありがとう。それじゃ地図座標を教えるね────────』


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