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ねこの手、貸します。  作者: 白月 仄
にゃん三章 桜花見祭り
13/22

さんのいち

 ──市が主催の『桜花見祭り』が行われている、清美グランドパーク。

 遊園地や動物園をはじめとしたレジャー施設に、国体の会場にも幾度か選ばれたことのある各種スポーツ施設、さらに大規模のカルチャー教室までをも擁する、巨大な公園。その土地面積は清美市の市街地と同等──詰まり、市の約半分が公園になっているのだ。

 因みに、ギーペが孵化まれ育った水族園も此処に在るのだとか。

 もちろん、元来の公園としても数多の自然を擁し、春・夏・秋・冬の旬の花木がエリア別に植えられている。

 そして、今日と明日、『わたしら』が働く仕事場はそのうちの一つである春のエリア。

 今現在、歩道沿いに植えられた桜並木は花を満開にして、頭上をサクラ色に染め上げている。

 イベントの催し物の開始時間にはまだ早いというのに、既に桜の木の下やその周辺には場所取りのレジャーシートと見張り番の人ばかりか、朝っぱらからドンチャン騒ぎをしている人たちまでもいる。

 おそらく、ドンチャン騒ぎをしている人たちは昨晩からのぶっ通し組だろう。

 着いた早々、この光景を見たわたしは内心で「やっぱ、いろいろとトラブルが起きるんだろうな……」と、予感する。

 イベント自体は今週月曜日からの七日間。

 しかも、イベントの目玉の催し物が用意されている今日明日の土日は市外からの観光客が詰め掛けるのは必至だとかで、運営側の人手も足りなくなることも有り得ると言う事で、『わたしら』のようなところにヘルプが来たわけだ。

 現に実行委員が着用している法被ではなく、わたしらと同じく運営側の者であることを示す腕章を着けている人たちがちらほらと散見できる。

「はーい、みんな注目! それじゃ、改めて仕事内容を説明するよ」

 音恋さんの呼び掛けに、叶さん・希さん・青年さん・わたしと──アレ? 彼女の名は……?

 おかしいな、思い出せない……。

 出会ってから今日まで、「新人さん」としか呼んでこなかったし、音恋さんたちも名前ではなく、各々の呼び方をしていたし……。

 ………………………………うん。思い返しても、やっぱり彼女の名が出てこない。

 ………………そういえば、彼女と初顔合わせした時も、音恋さんからは「この娘がお昼に言った、もう一人の店員の新人ちゃん。仲良くしてあげてね♪」と紹介されたっけ。

 ……。

 …………。

 ………………ま、名前くらい後でもいいよね。

 そんなわけで、わたしらは音恋さんの呼び掛けに応え、話を聞くため彼女に注目する。

「希と叶、少年と新人ちゃんでペアを組んでもらって、交代でイベント会場範囲内の見回りをしてもらいます。酔っ払いの暴徒や不審人物を見付けたときは、これから渡すインカムで即時通報して。

 次に、迷子を見付けたときは即刻身柄を確保して。身柄を確保したら周囲に保護者が居ないかの確認ね。それで保護者が見付からなかったときはインカムでの連絡後、運営本部ココに併設してある迷子センターまで連れてきて。

 ここまでで何か質問は?」

 ふるふる。

 特にはないのでわたしは首を振って、音恋さんに合図する。

 叶さんたちにも質問はないようで、希さんが話を先に進めていいと合図する。

「それじゃ、さっき言ったインカムを渡すね。連絡したいときは、耳部分のカバーを二回触れると私のインカムに繋がるから、覚えておいて。」

 音恋さんから各々にインカムが渡される。

 早速、装着してちゃんと機能するかを確かめる。

 ──こつこつ。

 軽く人差し指でカバー部分を二回叩くと──

『はいは~い、動作確認オーケーだね』

 ちゃんと、音恋さんのインカムに繋がった。

「はい、そうですね」

 動作不良なし、と。

「あー、それと、暴徒や不審人物を即座に取り押さえないと周りに被害が及ぶような、もしもの緊急事態用にコレを渡しとくね」

 ──ん? これは!?

 そう言って音恋さんがわたしに渡してきたモノには見覚えがあった。

 ヘッドセットと一個の球、それにヘッドセットから伸びるコードが繋がっているボックス状の小型の機器。

 間違いない。玩具から暴徒鎮圧向け且つ大方の人でも十分に扱えるようにした改良型の『踊る(saltatio)妖精(nympha)』だ。

 詳しい事を話すとなるとかなり長くなるのでそれなりに省くが、わたしのお父さんが勤めている会社で、お父さんが中心となって心血を注いで研究開発した玩具の成れの果て。

 一応、わたしもコレの基になっている『オリジナル』をお父さんから貰って持ってはいるけれど、とても十全に扱える代物ではない。

 もともとは『念動力の超能力者気分になれる玩具』として開発販売された玩具。その性能は最初のモノは床面から球を数ミリ浮かす程度だったけど、バージョンを重ねていくたびに浮かせられる高さが上がっていき、()()()を除いてその球を浮かす高さは約三十センチにまで到達した。

 しかし、如何せん遊び方が『ただ球を浮かすだけ』なので、販売初期は物珍しさで売れていたが以後は右肩下がりどころか急な下り坂。終には会社側から次のバージョンの初回製造分をもって開発販売の終了を通達されたのだ。

 そんなおり、お父さんが勤めている会社がとあるグループ企業に買収されて、そのグループ企業の傘下に入った。

 そして、どういう経緯かは不明なのだけど、そこの会長さんが何を思ったのか気前よくポケットマネーでお父さんがやっていた玩具開発に糸目をつけずに出資し、完成したのが『踊る妖精』。

 この『踊る妖精』、まさに金に糸目をつけていないだけはあって、その性能はそれまでのバージョンとは天と地ほどの差。

 それ故に、扱いどころか販売価格までも玩具の領域を逸脱してしまってしまい、正規品として製造された十二セットの内、当初は二セット──厳密には違うけど──しか売れなかったのだ。

 ところが、とある動画が去年の夏頃にネットに投稿されたことで、それを契機に『踊る妖精』への周囲の見方が変ったらしく、瞬く間に在庫の十セットが完売したそうだ。

 さて、それなりに省いたつもりだけど、少し長かったかな? まぁ、とにかく、そんな理由で公安維持組織のお偉いさんの目に留まった『踊る妖精』はお父さんが目指した『超能力者気分になれる玩具』から、最新鋭の暴徒鎮圧の道具へと半ば強制的に改良されることと相成った。

 その第一号が、現在、わたしの手の中にあるモノ。

「扱い方は知ってるよね?」

「はい、大丈夫です」

 わたしは手の中にあるモノの中からヘッドセットを取り装着し、そこから伸びるコードを解し、コードをボックス状の機器に接続して、その機器をベストのポケットへと入れる。球はすぐに取り出せるようボックス状の機器を入れたのとは逆のベストのポケットに忍ばせる。

「それじゃ、みんな、頑張っていこう!」

「「「おー!」」」

「……お、おー」


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