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ねこの手、貸します。  作者: 白月 仄
にゃん二章 新しい日常
10/22

にのよん

 その後、彼(?)と副店長はペンギンを交えて愉しく昼食を済ませて、副店長はシャワーを浴びにお風呂場へ、彼(?)はねこカフェでの接客業に、そして、ペンギンは二人が食卓から離れた後に何処かへと去っていった。

 アタシは、また無意識が築いた隔たりを越えるための一歩を踏み出せずに、彼らと同じ空間内にいたのにひとりで昼食をとった。

 みんなと親しくなりたい想いはあるのに、どうしてもその一歩が出ない。

 あー、あと副店長にペンギンの事を聞きそびれてしまった。

 そんなことを考えながら『お店』の方に戻ると、店長に、

「あ、新人ちゃん。受付をお願いね」

 仕事を頼まれた。

 アタシは店長の指示に従って、『お店』に入ってすぐの正面にある接客カウンターの中に入り、受付業に就く。

 店長はなにやら忙しそうにあっちに行ったりこっちに行ったりしているのを目の端に捉えてはいるけど、アタシの今の仕事は『お店』の受付なので注意を出入口に向ける。

 ようは「気にならない」と言えば嘘になるけど、今はそれより優先する事がある、である。

 しかし、────

「……『こっち』には全然お客さんこないな……」

 そう、お店自体に客は来るのだけど、皆一様にこちらはスルーで、ねこカフェへと続く仕切り扉を開けてくぐっていく。


 受付に就いてから早数時間。

 ねこカフェには春休み期間中だからなのか、中高生であろう女性客がひっきりなしにやってきている。

 ──が、こちらにはいまだにお客は一人も来ていない。

 なんか暇。

 店長は昼過ぎのような忙しなさはなく、今は応接セットの手入れをしている。

 客でも来るのだろうか?

 今のところ『お店』への直接の来客も、電話での依頼も、電子メールでの依頼もないナイ無いのナッシング。

 なんか、勝手に想像していた『何でも屋』とはかけ離れている。

 アタシが想像していた『何でも屋』は“訳ありそうな依頼人が来て事件に巻き込まれたり”・“よくあるような依頼があらぬ方向へと発展して事件に巻き込まれたり”するもの。

 ………あれ? うん、これじゃまるでアタシが事件に巻き込まれる事を望んでるみたいだ……。

 …………ハァ。

 就職活動をしていた時に『何でも屋』についての資料を集めた中にあった二十世紀に出版されたライトノベルの内容にいつの間にやら毒されていたみたい。

 ………………ハァー。

 なんか今日も溜め息ばかりだな、アタシ。


 ──コロンカラン。


 また、ねこカフェのお客か。

 そう思いつつも、アタシは入店してきたお客さんに目を向ける。

 しかし、入ってきたお客さんはどうもねこカフェが目的で来たような体には見えない。

 しっかりと着こなしたスーツ姿の壮年の男性を筆頭に、仕事出来ます感なオーラを放つ女性、その後ろにスーツの上から午前中に街中で何度か見掛けた市が主催のイベントを宣伝する法被を着た男性が二人の団体さん。

 その団体さんは、ねこカフェへと続く仕切り扉の方へは目もくれずに真っ直ぐにアタシのいる接客カウンターへと歩を進めてくる。

 ……ゴクッ。

「い、いらっしゃいませ、ごご、ご用件は?」

 初めての接客。緊張で吃ってしまった。

 大丈夫だっただろうか?

 おそるおそる顔を上げてお客さんの顔色を覗う。

「こんにちは。おや、初めて見る店員さんだね。……ああ、君がこの前、店長さんが話していた新人さんですね」

 どうやら、お客さんは吃ってしまったアタシの応対に気を悪くした様子は無いみたいで、内心ホッとする。

 でも、緊張と吃ってしまったことに対する動揺で、次の言葉が出てこない!?

 どうしたら────

「いらっしゃいませ。『にゃんてSHOP』にようこそ♪

 お待ちしてました、市長さん」

「これは、店長さん。どうも。お世話になります」

「いえ、こちらこそ毎度ご贔屓にしていただき、ありがとうございます。それでは、お越しいただいて早々ですが、早速、打ち合わせに入りましょう。どうぞ、こちらへ」

 店長はそう言うと、市長他三名を応接セットへと招く。

 アタシはその様子をただぽかんと見ているだけ。

 ……はぁ。

 「暇だ」と内心で宣って余裕に浸っていたくせに、まともに接客もできなかった。

 しかも、店長の手を煩わせてしまうという体たらく。

 いくら店長のお客さんだったといえども、今現在の受付はアタシなのに……。

 ──はぁ…………。

 また、溜め息……。

「『おう、小娘どうした? 溜息なんか吐いて、幸せが逃げるぞ』」

 またも、いつの間に……。

「…………別に。ペンギンには関係ないでしょ」

「『確かにオレ様にはヒヨッ子の小娘が、初仕事で緊張してお粗末な接客になったことに滅入ったところで関係は無いわな』」

 ──なっ!?

「『それより、小娘。小娘は何か音楽は出来るか?』」

 「それより」って、なによ?! それに音楽??

「『あー、先に言っておくが、ちゃんと他人様に聴かせられる楽器演奏もしくは歌のにぃちゃんみたいな唄だからな』」

 はい? 他人に聴かせられるって、それに歌手をやっている副店長くらいの唄とか要求が高くない?

「『当たり前だろ。客に聴かせるんだから』」

 は? 一体全体、ペンギンは何を言っているのか……──?

「『わからない、か? ホント、小娘は脳足りんだな。オレ様がさっき言った通りのそのまんま、カフェにいる客に聴かせるんだ。現在のところ、ねこカフェの主な客層は猫好きとケーキ目当ての十代から二十代前半の婦女子だ』」

 そりゃ、大抵の女子は可愛いモノと甘い物は好きな傾向があるし。

「『だが、それだけでは足りぬのだ!! このオレ様のぷりちーさを世に知らしめる為の足掛かりとしてはっ!! そこで新たな客層を得る為に目を付けたの音楽だ。歌のにぃちゃんと叶、二人もプロがいるのだから活用しない手はない』」

 へえー、叶ちゃんもなにかできるんだ。そういえば、午前中に会ったときに手に小型のケースを持っていたっけ。アレの中に楽器が入っていたのかな?

「『だがしかし──……またか、小娘。自分の考え事に没頭してオレ様の話を無視するとは……』」

 いや、ちゃんとではないが、聞いてはいるよ。

「『のようだな。それはそうと、オレ様がヒトの表層思考を読み取れるからと“喋る”ことをしないのは如何なものかと思うがな!』」

 ん? アタシが“喋る”ことをしない……?

 いったい、ペンギンはなにを言っているのだろうか?

 ちゃんと、会話は成立していたじゃ……………………ア……レ……?!

 アタシ「ペンギンには関係ない」って言った後に、“言葉”を口にしたっけ……?

 ……

 …………

 ……………………。

 ──……ッ!?

 そういえば、今日の昼食の時も。それに、お風呂場に乱入してきた時も、アタシの考えてたことにペンギンは当たり前に口出しをしてきていた!

「『な。これで、脳足りんな小娘でも理解出来であろう。ま、こんな些末なことはどうでもいい。で、だ。話を戻すが、小娘は何か他人様に披露できる音楽の芸はあるのか?』」

 うわ、スゴくムカつく!

 でも、今のアタシにこのペンギンを見返させる術はない。そう、アタシには今現在、ペンギンが言った音楽の芸能を持ち合わせては──

「──ないです……」

「『だろうな。まったく、免許だ資格だは大量に持っているのに、芸術に類する技能は何一つ“履歴書”には無かったからな。まぁ、端から小娘に期待などしていなかったがな!』」

 は? 「端から」って……。なら、アタシに声を────

「『“もしも”ってことがあるかもしれないからな。尤もオレ様の見立て通り、無かったわけだが……』」

 んなーっ、腹立つ!!

 なんなのよ、このペンギンはッ!!!!

「『ん? なんだ、小娘。もしかして、怒か? 怒なのか? ハッ! 小娘が怒ったところで恐くも何とも無いわ!!』」

 あー、もう、頭に来た!

 こうなったら──


 ──がしっ!!


「『──クッ、卑怯……だぞ、小娘! 口では敵わないからと暴力に訴え出るとは!!』」

「いや、アタシはなにも……」

 そう、アタシはまだペンギンに触れてさえいない。

 なのに、ペンギンの体が宙に浮いている!?

 頭に上った血も突然の状況に平常運行へと戻っていく。

 そして、宙に浮いたペンギンを注視していくと、頭部を鷲掴みにしている人の手が目に入り、さらに視線を上にあげるとそこには、

「──ギーペ。一昨日、希さんに言われたよね? “時と場所柄と場合を弁えろ”って。忘れてないよね?」

 朝に垣間見たときよりも、さらに冷たい視線の彼(?)の顔があった。

「『…………フンッ。オレ様を誰だと思っている?! 鳥の中で最もぷりちーなペンギンの中でも更にぷりちーな、このギーペ様が鶏と同じ頭の出来なわけがないだろう!! 当たり前だ!』」

「なら、わ・か・る・よ・ね?」

「『……ハイ、スミマセンでした』」

「まったく、ホラ、行くよ」

「『待て!』」

「ん、なに?」

「『何故、オレ様の頭部を鷲掴みのままなのだ?』」

「今忙しいのはわかるよね。だから、余計なことをさっさとかたをつけるのに最善の手段を用いてるだけだよ」

「『……なら、せめて抱っこで──』」

「持ち直すひまも惜しいから、却下」

「『…………ケchiイいィィーーッ!? 指がめり込ん────』」

 ──……なんだったのだろうか、結局。

 突然やってきて、アタシを馬鹿にして、ペンギンは一体何がしたかったのだろうか?

 アタシはそんことを思いながら、彼(?)に吊(連)れていかれるペンギンを見送る。



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