ろくのいち
──ゆるりと流れる春風に
ゆらりゆらりと
ゆり揺れて
踊り舞う花びらは
櫻華絢爛 春爛漫
淡き桃色に 花染めて
春の訪れ 報示す
旅立ちの別れ
歩み出したその先で
新たな出会いに
めぐり合う
ゆるりと流れる春風に
ゆらりゆらりと
ゆり揺れて
踊り舞う花びらは
桜花絢爛
春爛漫────
────紡がれた旋律は不思議と心に染みて、身体が内側からポカポカしてくるような気がする。
暦の上では間もなく夏に入る今日この頃。
桜で花見をする時期は疾うに過ぎているというのに、眼前にある巨大な桜の樹はいまだに淡い桃色の花を満開にしていた。
ただ、不思議なことにその桜の樹の下には、咲き誇っている数多の花に匹敵するくらいの桜の花弁が絨毯を広げていた。
「ホント不思議、永遠桜って────」
「そうだよね。まるで夢現つの中にいるみたいだよね~」
「ああ、ソレ、なんとなくだけどわかります。なんだか現実離れしてますよね、この場所は……」
「うんうん、……────」
わたしの零した呟きが発端となり、この場に居合わせている女性陣は会話を再開して、奏でられた旋律の余韻に浸っていた場の雰囲気をあっという間ににぎやかなものへと変えていった。
「少年、どうだった我が妹の歌声は?
素晴らしかっただろう?」
「えーっと、……はい、心が洗われる様で耳に心地好かったです」
「そうだろう、そうだろう。オレの自慢の妹だからな!」
「『ほうぅ、お前にも歌のねぇちゃんの唄の良さがわかったか!?』」
「ちょっと、バカにしすぎだよ、ソレ?!」
「『そうか? お前はまだまだガキなんだから、妥当な評価だとオレ様は思うがな』」
「……あのねっ! 鳥のクセして生意気!」
わたしはおちょくってきたその鳥に「怒っているぞ!」というポーズをするも、
「『フッ、お前まだまだだな。そんな見え透いたポーズに鳥の中で最もぷりちーなオレ様が騙されるとでも思ったか!』」
なんだか、一部訳の分からない言い分でいなされてしまった。
──しかし、思えば此処『清美市』にやってきたあの日、わたしは此処で過ごしていく日々がこんなにも予想していた以上に楽くて素晴らしいものになるだなんて思いもよりませんでした───────