Ⅵ.聖獣の愛し子
とある朝、エレナは自室で窓の外を見ていた。
先日、父の言う通りヨウ王弟殿下がフィーリア島にやってきた。ヨウとの挨拶をする機会も設けられ、その時を思い出してエレナはポッと頬を染めた。
久しぶりに見たヨウは相変わらず美しかった。
王妃教育がすすみ、さらに王都の学院の美術科へ通うようになると、庭で時間をつぶす余裕はなくなり、ヨウも忙しい身のため数年まともに会っていない日々を過ごしていたのだ。
簡単に挨拶しただけだが、それでも嬉しかった。
「久しいなエレナ嬢。元気であったか」
「はい、ありがとうございます殿下。」
ヨウは療養が主な目的でありながら、先日の婚約破棄の件、王家の対応についても色々と話してくれた。
「なっ、それでは王家はイーサン殿下を諌めるだけで婚約を結び直したいと?」
「兄上はそのつもりのようだ。イーサンは反対のようだがな。どうしてもセント家と、聖獣の愛し子との繋がりを得たいとみえる。」
「こんなことならエレナを王に会わせなければ良かった…」
父は項垂れていた。
そう、私の人生を縛りつけるのは聖獣の愛し子という肩書きだ。
そもそもそれは、大昔にフィーリア島が外国に狙われた際、白銀の毛並みを持つ大きな鳥型の聖獣が島を危機から救ってくれたことから始まる。
その後聖獣は人の姿となり、島の民、すなわちセント家の先祖と結婚し、子の中に1人必ず白銀の毛並みを持つ子どもが産まれ、その者は聖獣と同じ姿になれた。他の兄弟は変身できたりできなかったり、変身できても白銀ではなく、漆黒の色と決まっていた。ちなみに漆黒の毛並みに変身する者の、人間の時の髪色は皆ばらばらである。
そして聖獣やその子孫が島にいることで、不思議と島は常に豊かであった。
だが何百年と時がすぎるごとにその血は薄れ、しだいに白銀の髪の子は生まれなくなった。ちらほらと漆黒の方は産まれることもあったが、ここ300年ほどはまったく誕生日していない。と共に島も一時は衰退しかけた。しかし聖獣の恩恵に頼らず、島を豊かにしようと、セント家の先代たちが頑張ったおかげで、フィーリア島は持ち直し、現当主のジェームズもまた優秀で、年々島は豊かになっている。
それが突然、エレナが白銀の髪をもって産まれたため、父も母も驚いたのだ。そして変身もできた。
白銀の聖獣の加護は島にとってそれは喜ばしいことだった。しかしその力を王家が欲するだろうことも予想できた。守りたかった。しかし王家に秘密を隠し通せるとも思えなかった。誰が見てもはっきりと分かる白銀の髪。病弱の設定にしようか、社交界デビューをさせないでおこうか、いろいろ考えたが、嘘をつけばつくほど娘が成長するにつれ不自由な思いをすると考えた。そこでせめて変身出来る事は言わないでおくことにした。
9歳になるころ、王に呼ばれて王宮へ行き、エレナを紹介した。
結果、ウィリアム王はエレナが変身できないと聞いても聖獣の愛し子と謳い、その加護を目当てにイーサン王子と婚約を決めた。
「あれから8年か…」
エレナはふぅと息を吐き、侍女にお茶を頼んだ。




