Ⅴ.フィーリア島での生活(ヨウ視点)
青い空に白い雲。
眼下に広がる深いエメラルドグリーンの海。
ヨウは今、フィーリア島のとあるカフェのテラス席に座って本を読んでいる。
風が強くて本のページが勝手に捲れていきそうなのを指でしっかり押さえるが、今日は風がやたらと強い。ヨウは本を閉じてテーブルに置き、背中を椅子につけ、ぐーっと伸びをして空を仰いだ。
「ふぅ。この島は美しいな、やはり最高だ。」
ヨウは疲れていた。
ここ最近はスランプに陥り、絵が上手く描けない。表現する力が落ちてしまった。
いや、相変わらず技術は高いままだが、周りの若い才能あふれる者たちの台頭が凄まじく、近年のコンクールでは賞を逃すことが多くなった。
「俺の時代は終わったってことかな…。」
目をつむり静かに呟いたその言葉を拾うものがいた。
「それでしたら結婚でもされたらどうです?イーサン殿下の結婚が決まれば王族籍を抜け、公爵の位を授かるでしょう?当初は放浪画家になるなど仰ってましたが、きちんと奥様になる方と国の為にお仕事なされば良いかと。」
「トーマス…お前ってやつは…今も一応仕事はしてるぞ。療養と言ったのに兄上からはフィーリア島とセント家の偵察など言いつけられて、いい迷惑だ。」
トーマスはヨウ専属の執事兼護衛の有能な男だ。
幼い頃から共に過ごしたため、実の兄より信頼できる兄弟のような存在だ。
「イーサン殿下の婚約破棄の件ですよね。エレナ嬢には同情いたします。婚約破棄しておいて、王家はまだセント家との繋がりに固執してらっしゃるようで。」
「ううむ。兄がそこまで聖獣の血に執着するとはな…エレナ嬢が聖獣の愛し子だと判明した9歳の時から、すぐにイーサンとの婚約を決めたしな。」
エレナ嬢、この島に滞在してから初めてセント家を訪れた時、王宮の庭で一緒に過ごして以来、久しぶりの再会をした。相変わらず白銀の長い髪は綺麗で、その髪の色で聖獣の愛し子と定められた女の子。
ヨウはくだらない、とため息をついた。




