XIII.エレナは再び鳥になる
「お嬢様、王弟殿下より花束とお手紙が届いております。」
「ありがとう、花束はいつものように花瓶へお願いね。手紙は今読むわ。」
コンクールの日、想いを伝え合い夜に家まで送ってもらったあの日から、毎日ヨウからプレゼントが届く。
そんな幸せがこれから続いていくのかと思っていた。
しかしある日それは崩れていく。
エレナは父に呼ばれ執務室に行くと、そこには母もいた。そして父から話を聞いて愕然とした。
「お父様…それは本当なのですか…?」
「あぁ、すまない。怪我が治ってること、調査が進んでないことで王から城でエレナを保護すると…。イーサン殿下の独断での婚約破棄を詫びて、償いとして調査が終わるまでの保護と、改心した息子との婚約を結び直したいと。」
それは王命だった。もう逃れることはできない。
「鳥になれることをあえて言わず、時が来たら婚約がなくなる可能性に賭けて、それが叶ったと思ったのに。そんなにもこの髪色がご所望なのですか王様は!」
「愛し子へのほとんど崇拝にも近い考えをお持ちなのだろう。まさかここまでとは…。父として出来ることがなく申し訳ない。ヨウ殿下にも…」
「あなた、ヨウ殿下だって王族よ?それじゃダメなのかしら。」
母がわずかな希望から父に聞いた。
「ヨウ殿下はいずれ公爵の地位を賜り家臣になるお方だ。」
「だからダメだと…?」
エレナは今にも膝から崩れ落ちそうなのを何とか持ち堪えていた。だが内側から溢れる絶望感と悲しみに涙が止まらなかった。
「エレナ…」
母は娘の気持ちを思い苦しい表情をみせた。そして抱きしめようと一歩踏み出したが、そこでエレナは叫んだ。
「たかが鳥になれるだけよ!私には何の力もないのに!もうたくさんよ!!」
バンッと執務室の扉を開けてどこかへ走り去るエレナ。父は護衛にすぐ後を追うように命じた。
父も苦しかった。仲睦まじく婚約もそろそろかと思っていたヨウ殿下と娘の様子を思い出し、仕事机に拳を叩きつけた。
エレナは走っていた。走って走って、屋敷の庭の先に切り立った崖があるとこまで走った。
そこは普段なら、夕陽が見える絶景ポイントであり、実はヨウがよく利用するカフェのテラス席からも見える場所に位置していた。
ーーもう会えないのなら、せめてっ
お願い、居て!
崖から勢いよく飛び出したエレナの身体が一瞬、強い光を放ち、その光が収束した時にはもう白銀の鳥の姿になっていた。
そしてカフェテラスの方をチラリとみると、ヨウがテラスの椅子から驚いた顔で立ちあがり、こちらを見ているのを視界の端でとらえた。
ーー良かった、見てくれた。さようなら…
エレナはそのままカフェに背を向けて飛んで行った。
そしてその姿を森の中からデイビットも目撃していた。
「こりゃ驚いた。あれが聖獣の愛し子か。やっと見つけた。」
そう言って不敵な笑みをうかべていた。




