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運命の時計塔  作者: ナンデス
第1章: 時計塔の秘密
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1-4.最初の旅

前回まで「エティエンヌはナポレオンの時代への憧れを強め、「時の鍵」を使ってタイムトラベルを試みる決意を固める。彼はカミーユとの議論を振り返りながら、歴史改変の影響と自らの使命を深く考え始める。」

エティエンヌの周りは、激しい戦闘の光景で溢れていた。遠くで大砲が鳴り響き、火薬の煙が空に立ち上っている。雨は土と血でぬかるんだ地面を覆い、兵士たちの叫びと怒号が彼の耳に響き渡る。馬が走り抜け、エティエンヌのすぐ近くで倒れた兵士の体が泥に沈む様子が目に入った。


「これが……戦争の現実か……。」


エティエンヌは戦場の生々しさに圧倒されながらも、心を落ち着けるように自分に言い聞かせた。彼はここに来た目的を忘れてはいけない。ナポレオンに接触し、彼を敗北から救うこと――それがエティエンヌの使命だった。


彼は戦場を見渡し、どこにナポレオンがいるのかを探し始めた。大混乱の中、ナポレオンの幕営がどこにあるのか見つけるのは容易ではなかったが、エティエンヌは本や地図で何度もこの戦場を研究してきた。おおよその位置は把握している。


「南西の高台に、司令部があるはずだ……」


彼は自分の頭に浮かんだ地図を頼りに、その方向へ向かって泥だらけの道を駆け出した。兵士たちが彼の周りを行き交い、混乱の中でエティエンヌも一瞬、その波に飲まれそうになったが、なんとか必死に道を進んだ。


数分後、エティエンヌはついに幕営の近くにたどり着いた。そこにはフランス軍の旗が立ち、将軍の近衛兵が周囲を警戒していた。彼は胸の中で鼓動が速くなるのを感じた。ついに、彼の計画が実行に移される時が来たのだ。


エティエンヌは深呼吸をし、近衛兵に向かって足を進めた。しかし、その時、彼の体が突然引き戻された。


「何者だ!」


近衛兵の一人が、エティエンヌを強く引き止めた。彼の服装は戦場の兵士のものではなく、近衛兵はすぐに彼が不審者であることを見抜いた。


「待て! 私は……私は……!」


エティエンヌは動揺しながらも、なんとか自分の目的を説明しようとした。しかし、戦場の緊迫した空気の中では、疑わしい人物を即座に排除しようとする殺気立った雰囲気が漂っていた。


「お前はどこの兵士だ! 所属と名を名を名乗れ!」


近衛兵がエティエンヌの胸ぐらを掴んで詰め寄ってきた。エティエンヌはどうすればよいか混乱し、言葉がうまく出てこない。


「私は……ただの市民だ……だが、司令官に重要な知らせがある……」


その言葉に、周囲の兵士たちはさらに怪訝な顔をした。エティエンヌの異様な様子は、彼らにとって不審極まりなかった。近衛兵はエティエンヌを放り投げるように突き飛ばし、剣を抜こうとした。


「市民だと? ふざけるな、この戦場に何の用がある!」


その時、エティエンヌの耳に、別の兵士の鋭い声が飛び込んできた。


「待て、彼を連れてこい。」


近衛兵たちが振り返ると、そこには高位の将校が立っていた。彼の指示を受けた兵士たちは、エティエンヌを拘束するのを一瞬ためらった。将校はエティエンヌを見下ろしながら、一言付け加えた。


「お前が言っていた『知らせ』、それを聞こう。」


エティエンヌは一瞬戸惑ったが、このチャンスを逃すわけにはいかないと感じた。彼は震える声で口を開き、なんとか自分の伝えたいことを絞り出した。


「……この戦いに勝つためには、右翼を直ちに補強し、プランスノワを防衛するための兵力を集中させるべきです。イギリス軍はこの数時間でプランスノワに向けて動きを始めており、もし放っておけば村は彼らの手に落ちるでしょう。彼らが村を奪えば、フランス軍の退路が遮断され、敗走を余儀なくされるはずです。それを防ぐためには、早急に兵力を再編成し、村の防衛線を強化することが不可欠です。また、イギリス軍は今、ハウゼンブルック高地に砲兵を集結させており、そこを叩けば、彼らの攻撃力を大幅に削ぐことができるでしょう。」


彼は少し息をついて続けた。


「イギリス軍の前線は一見して堅牢に見えますが、左翼に隙があります。彼らの左側は今、オランダ軍によって防衛されていますが、彼らは士気が低く、攻撃を受ければすぐに崩れる可能性があります。そこを突けば、側面を突破し、イギリス軍を分断することができるはずです。」


将校は彼の言葉を聞きながら、眉をひそめた。


兵の様にも見えないこの男が、どうしてこのような戦略的な情報を知り得るのか。彼の外見は、戦場に慣れている兵士とは明らかに違い、どこか場違いな感じすらあった。だが、その言葉には奇妙な説得力があった。 将校は一瞬、自分の直感を信じるべきか迷ったが、状況が状況だけに、この情報を無視するわけにはいかないと感じていた。


「お前は何者だ? 何故そのようなことを知っている?」


エティエンヌはその質問に答える術がなかった。彼が未来から来たことを明かすわけにはいかないし、それを信じてもらえるはずもなかった。しかし、彼の言葉には確信があった。歴史を学び、ナポレオンがどのように敗北するかを知っていたからこそ、彼はここに来たのだ。


将校の視線が鋭く彼を射抜いていたが、エティエンヌは逃げるわけにはいかなかった。

彼の目的は明確だった。ナポレオンの敗北はフランスにとって大きな転機となるだろう。

しかし、その結末を変えることで、フランスは再び強大な国として蘇るはずだ。


エティエンヌは、ナポレオンの指揮のもとでフランスが栄光を取り戻す光景を心に描いていた。

彼がここに来たのは、単に敗北を回避するためではない。

もしこの戦いに勝利すれば、ナポレオンはさらなる影響力を持ち、フランスの未来は劇的に変わるはずだ。


彼にとって、この勝利こそがフランスの再興への第一歩なのだ。

強いフランスを求め、そのためにエティエンヌは未来からこの場所にたどり着いたのだ。


「……ただ、あなたの軍が勝利するための情報を提供したいだけです。」


将校は内心で揺れていた。部下として、無名の者の言葉を閣下に伝えること自体が危険を伴う。

しかし、この若者の瞳に映る自信はただの虚言とは思えなかった。しかも、戦場の状況が悪化していることを彼自身も感じ取っていた。


何か、藁にすがるような一手が必要なのかもしれない……その考えが浮かぶたび、将校は自分が冷静さを欠いているのではないかと感じた。しかし、目の前の男が口にした情報が真実ならば、見逃せないと直感的に理解した。周囲に立つ兵士たちも緊張した様子で成り行きを見守っていた。


将校はしばらく考え込み、やがて彼に向かって頷いた。その瞬間、周囲にいた兵士たちも小さくざわめいた。彼らもまた、何かしらの変化を感じ取ったようだったが、それ以上言葉に出すことはなかった。


「わかった。だが、その真偽を判断するのは閣下ご自身だ。ついてこい。」


将校はこれが正しい決断であることを自分に言い聞かせるように、エティエンヌに命じた。

彼の決断は、戦況に影響を与える可能性を含んでいたが、同時に大きなリスクも伴っていた。


エティエンヌはついに、ナポレオンに直接接触できる可能性が見えてきた。将校に促され、彼は重い足取りで幕営の中へと進んでいった。

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