1-3.歴史への憧れ
前回まで「エティエンヌは、友人である歴史学者のカミーユ・ルノーに「時の鍵」の話を持ちかける。カミーユはその話に対して懐疑的で、歴史改変のリスクについて議論するが、エティエンヌは行動を起こそうと固く決意している。」
エティエンヌはカフェを後にし、パリの狭い路地を歩いていた。日が沈み、街灯の明かりが彼の影を長く伸ばしていた。カミーユとの会話が頭の中で何度も繰り返される。彼は確かにカミーユの忠告を理解していた。歴史を変えることには計り知れないリスクが伴う。だが、それでも彼の心の奥底には、ナポレオン時代への強い憧れが燃え続けていた。
エティエンヌにとって、ナポレオンは単なる過去の偉大な人物ではなかった。彼はフランスの栄光そのものを象徴する存在だった。フランス革命の混乱を乗り越え、世界にフランスの力を誇示し、改革を推し進めた彼の姿に、エティエンヌは深く感動していた。ナポレオンがワーテルローで敗れたことにより、フランスはその勢いを失い、再びヨーロッパの諸国の中で埋もれてしまった。彼はその歴史を、どうしても変えたかったのだ。
「もし、ナポレオンが勝っていたら……」その思いが、エティエンヌの心に強く響く。
彼は時計塔へと向かう道を進みながら、カミーユの言葉を振り返っていた。「歴史は複雑なバランスで成り立っている。君が一つの選択を変えることで、すべてが崩れるかもしれない。」
それでも、彼は信じていた。もし過去に行き、ナポレオンを助けることができれば、フランスの未来は再び輝かしいものになると。彼が変えようとしているのは、ほんの一瞬の出来事、ワーテルローの戦いでの敗北だ。ほんの小さな助言が、戦争の結果を変えるかもしれない。それだけのことで、世界の運命が一変するはずだ。
エティエンヌは自宅に戻り、昨夜のように「時の鍵」をじっくりと観察した。その冷たい金属の感触が、彼の手に馴染む。これはただのアンティークではない。昨夜の出来事が、何か特別な力がこの鍵に宿っていることを証明していた。
彼は机の引き出しから古びた紙を取り出した。それは、ナポレオンの戦歴や軍事戦略を研究した彼自身のノートだった。そこには、ワーテルローの戦いに関する詳細な地図や戦術、さらにはナポレオンの部隊配置についても記録されていた。
「これが、僕が歴史に持ち込む知識だ。」
エティエンヌは決意を固めた。彼はただ、過去を見に行くだけではない。ナポレオンに助言を与え、歴史の運命を変えるのだ。彼はこの鍵を使い、1815年6月18日、ワーテルローの戦場にタイムトラベルするつもりだった。
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数日後、エティエンヌは夜遅くに再び時計塔を訪れた。街の静寂が彼の決意をさらに強くする。塔の頂上にある大時計の下で、彼は「時の鍵」を握りしめた。これから起こることに対して、期待と不安が入り混じっていた。
彼はゆっくりと時計の中心部に近づき、鍵を時計の内部に差し込んだ。カチリという音が鳴り、歯車がゆっくりと回転し始めた。その瞬間、部屋の空気が急に冷たくなり、まるで時間が止まったかのように感じた。
「さあ、始まる……。」
エティエンヌは心の中でつぶやいた。
時計の針が急速に回転し、周囲の風景がぼやけていく。次の瞬間、彼は激しい音を感じ、足元がぐらつくような感覚に襲われた。まるで世界そのものが一瞬にして変わったかのようだった。
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エティエンヌが目を開けると、そこはもはや現代のパリではなかった。彼が立っているのは、雨に濡れた戦場――1815年のワーテルローだった。銃声と馬の蹄の音、そして兵士たちの叫び声が彼の耳に飛び込んできた。
「これが……ワーテルローか……。」
エティエンヌは息を呑んだ。これまで書物や地図でしか見たことのない歴史の場面が、今、目の前に広がっている。彼はその景色を見ながら、心の中で自分に言い聞かせた。
「今こそ、ナポレオンを救う時だ。」
エティエンヌは決して普通の観光客として過去を見に来たのではない。彼はこの歴史の分岐点で、フランスの運命を変えるためにここにいる。そして、この場で彼の役割を果たすため、彼はナポレオンの元へと急いだ。
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