1-2.カミーユとの議論
前回まで「エティエンヌは、古いパリの時計塔で不思議な鍵を発見する。この鍵が単なるアンティークではないことに気づくが、彼はまだその力を知らない。」
次の日、エティエンヌはパリの中心にあるカフェで、友人のカミーユ・ルノーと向かい合っていた。カミーユはソルボンヌ大学の教授で、フランス革命とナポレオン時代を専門に研究している歴史学者だった。長年の付き合いがあり、エティエンヌが何か奇妙なことに巻き込まれた時は、いつもカミーユに助けを求めていた。
「冗談だろう、エティエンヌ?」カミーユはコーヒーを飲みながら、笑いをこらえようとした。「時を超える鍵? 本気で言ってるのか?」
エティエンヌは小さな金属の鍵を机の上にそっと置いた。それは、昨夜彼が時計塔で見つけた「時の鍵」だった。複雑な彫刻が施されているその鍵を見て、カミーユも少しだけ表情を引き締めた。
「この鍵を見つけたんだ。あの古い時計塔の中で。いつもなら笑い飛ばすけど、昨夜、妙なことが起きた。古い時計が勝手に動き出して、時間が……まるで止まったように感じたんだ。」
カミーユは興味深そうに鍵を手に取り、じっくりと観察した。彼は慎重な性格で、証拠を重んじる。歴史の謎を解くことに情熱を持っているが、こうした「超自然的な」話には懐疑的だった。
「君が興奮しているのはわかるけど、これはただのアンティークかもしれない。確かに面白い模様だし、古そうだけど、タイムトラベルなんて荒唐無稽だろう? 歴史学者の立場から言わせてもらうけど、もし本当に過去に干渉できる力があるのなら、何が起こるか予測もできないよ。」
エティエンヌはテーブル越しに前のめりになった。彼の瞳は、カミーユの言葉に反して情熱で燃えている。
「カミーユ、聞いてくれ。僕は単におもしろ半分でこの話をしてるわけじゃない。昨夜の経験は本物だった。この鍵は、何か特別な力を持っているんだ。もし僕が正しいなら……僕たちは過去に行って、歴史を変えられる。考えてみろ! ナポレオンがワーテルローで負けなかったら、フランスの歴史はどう変わると思う?」
カミーユは深いため息をついた。彼はコーヒーカップを置き、エティエンヌの目を真っすぐに見た。
「君が何を言いたいのかはわかる。でも、仮に過去を変えられるとしても、それが良い結果をもたらすとは限らない。歴史は複雑なバランスで成り立っている。ナポレオンがワーテルローで勝っていたら? 彼は再びヨーロッパ全土を掌握しようとするだろう。そしてそれが新たな戦争を引き起こし、無数の命が失われるかもしれない。」
エティエンヌは反論しようとしたが、カミーユは話を続けた。
「君は歴史がどう動くか知っているかい? 一つの小さな出来事が、どれだけ大きな影響を与えるかわからない。ナポレオンが負けたことでヨーロッパは比較的安定した時代に入った。あの時、彼が勝っていたら……全てが崩壊していたかもしれない。」
「だからこそ、やるべきなんだ!」エティエンヌは声を荒げた。「僕たちは未来を変えられる。フランスを、ナポレオンの栄光の時代に戻せるんだ! 僕はその力を持っている。」
カミーユは静かに彼を見つめた。彼はエティエンヌの情熱を理解していたが、同時に彼の無謀さにも気づいていた。
「エティエンヌ、君の気持ちはわかる。でも、もし本当に過去に行けるのなら、慎重に考えなくちゃいけない。僕たちは歴史に干渉すべきではないかもしれない。」
彼の言葉は、エティエンヌにとって冷や水を浴びせられたようだった。だが、エティエンヌの内なる情熱はまだくすぶっていた。
「それなら、僕一人でやるよ。」彼は冷たく言い放った。「カミーユ、僕が正しいかどうか、証明してみせる。」
カミーユはしばらく黙って彼を見つめ、ため息をついた。そして、静かに首を振った。
「気をつけて、エティエンヌ。過去に手を出すということは、想像以上に危険だ。君が何をするつもりかは止められないけれど、少なくとも十分に考えて行動してくれ。」
エティエンヌは黙って頷き、立ち上がると鍵をポケットにしまった。そして、そのままカフェを後にした。
彼の心の中には、すでに次の行動の計画が出来上がっていた。彼は「時の鍵」を使って、ナポレオンが敗北した運命の日、1815年6月18日、ワーテルローの戦いへ向かうことを決めたのだ。
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