2-5.新たな手立て
前回まで「フランス軍が側面での成功に気を取られる間に、プロイセン軍が到着し始め、ナポレオン軍は予期せぬ二正面作戦を強いられる。」
戦場の混乱が頂点に達していた。プロイセン軍とイギリス軍の挟撃により、フランス軍は崩壊の危機に瀕している。エティエンヌは、もはやこの流れを変えることができないと悟った。ナポレオンの敗北が確実なものとなり、エティエンヌの中で重くのしかかる無力感は、彼の足を次第に戦場から遠ざけていった。戦場の音は、彼にとってまるで遠くの音楽のように聞こえ、現実感を失わせていた。
フランス軍の士気は失われ、逃げ惑う兵士たちが周囲を取り巻く。その様子を見て、エティエンヌは過去の自分の行動がどれほど無意味であったかを痛感する。彼の目の前で歴史は着実に進行し、彼の介入はむしろ事態を悪化させた可能性があった。彼は思わず目を閉じ、苦痛を伴う思考から逃れようとしたが、すべてが終わりを迎えつつあった。
「もうここにはいられない……」
そう呟きながら、エティエンヌは一歩、また一歩と後退し、遠ざかっていく砲煙の向こう側で崩れ落ちるフランス軍を見つめていた。目の前に現れる未来が恐ろしい。しかし、その真実を確かめる必要がある。彼は静かに「時の鍵」を取り出し、それを握りしめた。冷たい金属の感触が彼の手の中でずっしりとした重みを持ち、彼の心の中の葛藤を象徴しているかのようだった。
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**2000年代、パリ。**
エティエンヌは目を開けた。まばゆい光に一瞬目がくらんだが、次第に視界がはっきりしてくる。冷たい空気を感じ、彼は時計台の中に立っていることに気づいた。空気の冷たさは、彼の心に凍てつくような感覚をもたらした。
深呼吸をしながら、彼はふと塔の窓から外を見下ろした。夕暮れのパリが広がり、遠くにはノートルダム大聖堂のシルエットが霞んで見える。「戻ってきた……ちゃんと戻ってきたんだ」と彼は安堵し、胸をなでおろした。しかし、その安堵は一瞬で不安に変わった。何かが違う。窓から見える景色は、彼が知っているパリに似ているが、微妙に違っているように感じる。エティエンヌは視線を凝らし、もう一度外を見たが、大きな違いはすぐには見つけられなかった。
「いや、何かがおかしい……」心の中でそう呟きながら、エティエンヌは塔を飛び出し、急いで街へ向かった。彼の胸には不安が渦巻き、過去の記憶と新たな現実との乖離に戸惑いを感じていた。
階段を駆け下り、古い木の扉を押し開けると、彼の足は瞬く間に石畳の道を進んでいった。夕暮れの空気が冷たく、パリの街に漂う独特の匂いが鼻をかすめる。通りに出ると、エティエンヌは慌てて周囲を見渡した。建物は以前と変わらないように見えるが、やはり何かが違う。歩きながら彼は周囲の変化を探した。
しばらく歩くと、ふと目についたのは通りを走る車の数が以前よりも少ないことだった。多くの人々が電動スクーターや自転車で移動している。以前は聞こえていた馬車の音も、人々の活気ある喧騒も、今ではどこか静まり返った空気に包まれていた。エティエンヌは、その静けさに違和感を覚え、心に一抹の不安がよぎった。
「本当にこれがパリなのか……?」不安に駆られながら、さらに街を進むと、目の前に広がるシャンゼリゼ通りが彼を驚かせた。街路樹は残っているが、建物はどれも新しく、どこか冷たいモダニズム建築が目立つ。壮麗な装飾が失われ、機能的で無機質な雰囲気が漂っていた。彼は思わず、その光景に目を奪われ、懐かしさと共に悲しみが胸に押し寄せる。
彼はさらに広場へと向かい、そこで巨大なモニュメントに目を留めた。以前は見たことがない形だったが、それでもどこか知っている気がした。碑文を読み取ると、そこには「ナポレオン一世、戦略家にして平和の守護者……」と刻まれていた。彼は驚愕し、心の中に新たな疑念が湧き上がった。
「これは……僕が変えた世界なのか?」
エティエンヌは戸惑い、すぐに再び街の様子を見に行こうと足を速めたが、どこか疲れを感じ始めた。変わったパリにいることが信じられないまま、しばらく街を歩き続けたが、思考がまとまらない。「僕が行った小さな関与で、そんなに変わるはずがない。結局僕は戦争を変えられなかったじゃないか」と心の中で葛藤する。
エティエンヌはふと、友人の顔を思い浮かべた。カミーユ、彼は今どうしているのだろうか。彼はこの世界に存在しているのだろうか、予想外に変わってしまった現実に不安が込み上げてくる。彼が危惧していたことはこの事だったのだろうか。友人を思うたびに、心の奥に渦巻く孤独感がさらに強まっていった。
彼は再び街の様子を見ながらも、心の奥に渦巻く孤独感を振り払うことができなかった。「とりあえず家に戻ろう……」そう呟きながら、彼は自宅の方向へ向かって歩き始めた。周囲の変化に目を向けつつも、彼の心の中では未来への不安が広がり続けていた。心に抱えた焦燥感が、彼をさらに急かせていた。
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