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「私は君を愛していない~コウノトリが私たちの子供を連れてきました!え?これって普通じゃない?~」

作者: 青猫

この小説を開いてくださり、ありがとうございます。

楽しんでいただけると幸いです!


「最初に言っておきたいことがある」



そう言って結婚式の夜、つまり初夜に自分の妻となる人物と向き合っている男。

彼の名前はティルス・ジェンバート。ジェンバート公爵家の当主である。

彼が重い腰を上げて結婚するという話は、社交界中をざわめかせた。

仕事一筋で、一切浮ついた話の聞かない彼が、結婚を表明したのだ。

枕を濡らす令嬢は数知れず。

一体誰が、彼のハートを射止めたのか、ということが、社交界の話題を占めた。



しかし、結婚式の日、現れた結婚相手に、参列者の多くは首を傾げた。

なぜなら彼女は、社交界でまさに結婚相手だと噂されていたような令嬢たちではなく、さらに多くの貴族たちが面識を持たない令嬢だったからだ。

サラハート公爵家の三女、ルミエル・サラハート。

サラハート公爵家の箱入り娘と言われる彼女がどうやってティルスの心を射止めたのか。

その答えは、二人だけが知っている……。



そんな噂の渦中にいる二人は、初夜に向き合っていた。



「まぁ、なんですの?」



おっとりとした雰囲気のルミエルは、じっとティルスを見つめている。

ティルスは、スッと頭を下げる。



「私は君を愛していない。すまないが、この結婚は愛ある物ではない」



その言葉に、ルミエルはきょとんとした後、手を叩く。



「まぁ!でしたらこれは、『白い結婚』ですの?」



そう尋ねてくるルミエルに、ティルスはギョッとして答える。



「い、いや、そういう訳では……!」



「でしたら、私を隠れ蓑に、実は平民の方と……!」



「そういう訳でもない!誤解を招くような発言をして悪かった!」



そう言って、ティルスは事情を説明する。



「実はな……その、君を選んだのは……くじでなんだ」



「はい?」



——くじ。くじとは、抽選のくじでしょうか?

ルミエルは、首を傾げた。



「その、あちこちから『結婚しろ』とせっつかれていてな。家柄と、性格、そして素行が問題ない令嬢の中から、適当に選んだんだ。だから、私は君を愛しているから求婚したわけではない。……だからその、すまない」



大分申し訳なさそうな表情をしているティルスにルミエルはやはり首を傾げる。



「……よくわかりませんが、結婚とはそういう物なのではないのですか?」



「……それが、社交界でも話題になっていてな。その、君が私を惚れさせた、と」



そう言うティルスに、ルミエルはまぁ、と手で口を覆う。



「私、ティルス様にお会いしたの、今日が初めてですわ!」



「私もそうだ」



ティルスはそう言うと、ルミエルの手を取る。



「でも、だからと言って、今後愛さないということは無い。仕事人間とも言われる私だが、君を愛せるように努力しよう」



「……ええ、はい、ありがとうございます」



しかしその言葉を受け取ったルミエルはやや眠そうであった。



「すみません、朝からバタバタしていたもので……少し眠くて」



ルミエルがそう言うと、ティルスはハッとする。



「あ、あぁ、すまない。続きは明日話そう。寝る場所は……?」



「ここで大丈夫です。私たち、もう夫婦でしょう?」



そう言うとルミエルは寝室のベッドにもぐりこみ、すうすうと寝息を立て始めた。



「……それもそうだな……おやすみ、ルミエル」



ティルスも納得したように、同じベッドに入り込み、眠った。





——朝。

もぞもぞと背中の方で動く感覚にティルスは目が覚める。

誰かいるのかと思考し、昨日はルミエルと一緒に寝たことを思い出す。

向こうも起きたのかと思い、ティルスはルミエルの方を見る。



——知らない子供がいる。

女の子で見た目は2,3歳ぐらいだろうか。

どこかで見たような容姿をしているが、どこでだったかは思い出せなかった。


女の子は少し身じろぎすると、ぱちりと目を開ける。


そして、ティルスの方を見て、にっこりと笑うではないか。

やがて、少女は口を開き、予想外の事を口に出す。



「おはよう、パパ!!」



パパ。——パパ!?



「……それは私の事かな?」



隣のルミエルを起こさないように小声で話しかけると、女の子はうんうんと頷く。


ティルスは頭を抱えた。

そうこうしているうちにルミエルも目が覚めたようで、目の前にいた小さな女の子を見る。

女の子は「ママ!」と叫んだ。

ルミエルは「まぁ!」と声を上げた。

そしてこちらも、思いもよらぬ一言を叫んだ。



「コウノトリさんが子供を連れてきてくれましたわ!!」



——あ、えあ?

ルミエルから発された衝撃の一言にティルスは頭が真っ白になる。



「ちょ、ちょっと、ルミエルさん」



「なんでしょう?」



ルミエルはきょとん、と首を傾げる。



「子供って、どうやってできるかご存じで?」



「どうって……男の人と女の人が一緒に寝ると、コウノトリさんが運んできてくれるんでしょ?」



ティルスは頭を抱える。

まさか、ここまで箱入りの娘だとは思ってなかったからだ。

しかし、今ここで、小さい子供もいるのに、説明しても良いかと悩む。



ティルスはとりあえず、メイドを呼ぶことにした。

とりあえず、この子の世話をするには二人では無理であり、なおかつこの状況がおかしい事をメイド達からルミエルに伝えてもらえれば……という期待もあった。



メイド達が部屋に入る。

彼女たちの目を引いたものは、同衾しているティルスやルミエルではなく、やはりその中央にちょこんと鎮座する小さな女の子である。

その女の子はルミエルにぎゅっとしがみつきながら、メイド達の方を見ている。



メイド達は何かを察したように女の子に駆け寄った。



「まぁ、ルミエル様!!もう子供ができたんですね!!」

「かわいい女の子ですね!」



「あ?」



——どうしよう、ここにも無知な人たちがいる!

ティルスは頭が痛くなってきた。

このままではより一層収拾がつかなくなってしまう。



「すまないが、執事長はどこにいる?」



ティルスは、既婚者に助けを求めることにした。執事長は、最近孫が生まれたこの公爵家の古株である。

しかし、そんな彼の考えもむなしく、



「執事長ですか?それだったら昨日、先代様達と旅行に出かけましたよ?ティルス様がご結婚されると聞いて、家の世代交代も兼ねた長期休暇だそうです」



「め、メイド長は?」



「同じです」



「騎士団長」



「えっと、結構古株な人たちはみんなついていってるそうです。『今まで頑張って来てくれたから、少しでもねぎらいたい』という先代様の御意向もありまして」



「嘘だろ……」



「お手紙でしたら、数日はかかりますが、おそらく届くと思います」



「……いや、大丈夫だ。ルミエルたちの世話を頼む。私はちょっと外の空気を吸ってくる」



ティルスは、胸中を絶望で占めながらも、上手いこと隠して庭に出た。



「いや、これどうしたらいいんだ?」



冷静になってみようと深呼吸もしてみるが、やはりどこか落ち着かない。

……そもそもあの子は何なんだろう……?

自分の子供であるとは到底考えられない確固たる理由が彼には一つだけあった。

そう、彼は未経験だったのだ。



少しの間ボヤーっと雲を見つめていると、向こうからルミエルが駆け寄ってくる。傍には女の子も一緒である。



「ティルス様~!」


「パパ~!」



一見すれば微笑ましい家族であると思うだろう。

しかし、これは夫婦になって一日目の男女と突然現れた幼女の図なのだ。



「ど、どうした?」



ティルスは戦々恐々としながら、ルミエルと女の子に声を掛ける。

すると、ほわほわとした様子のルミエルが、答える。



「それが、この子、名前がまだないんですって。だからつけてあげないとって」



「名前?」



——そういえば、女の子の名前をまだ聞いていなかったことを思い出す。



「そう!私は、ぜひ、アカネがいいと思うんです」



「アカネ?」



聞いたことのない響きの名前だ。

なんだか、嫌な予感がしたティルスは、恐る恐るルミエルに問う。



「それは、どうしてそんな名前に?」



そう言うと、ルミエルは目を輝かせて答える。



「そうですね!アカネというのは、東洋に咲く、花の名前なんだそうです!近年、他国との貿易も盛んになって来ていますし、ぜひどこにいっても通じる名前を!と思いまして」



——それ、うちの国で通じないんじゃないかな……?

この子が誰であれ、流石に名前としては不適格だと判断するティルス。

どう考えても、名前の響きで周囲から浮く可能性が高く、今後苦労する。

ティルスは、しかし、少女の名前に適切で、かつ、この子に相応しいであろう名前を考える。



「……アンジェ。私はアンジェがいいと思うなぁ……?まるでこの子、天使みたいに可愛いだろう?それに、天使のように優しい人間に育ってほしいと思う」



そう、提案するようにルミエルに聞く。

アンジェという名前は、この国で使われる方の名前である。

当たり障りのない、それでいて、この子にぴったりの名前。

そう考えたとき、フッと頭の中に浮かんできた。



「それに、名前は、その子がどうあってほしいか、意味を絡めて作る物だと思うんだ。君はどう思う?」



将を射んと欲すれば先ず馬を射よとばかりに、女の子に目線を合わせ、問いかける。

女の子は、アンジェ、という名前を、何度も口の中で復唱している。



「あんじぇ、あんじぇ……アンジェ!わたし、アンジェがいい!」



女の子、いや、アンジェがぴょんぴょんと全身を使って喜びを表現している様子に、「アカネ……」とぼやいていたルミエルも頬を緩め、「それじゃ、アンジェにしましょう!」とティルスの意見に賛同してくれた。



そこで、ハッとティルスは閃く。



「それでは、出生届を出しに行かなければな」



——出生届。

貴族が自分の嫡子を証明するための手続きである。

近年、魔法学の理論により、親子の魔力波長の類似性が明らかにされた。

それを用いた魔力鑑定により、親子かどうかの診断ができるようになった。

これは、血縁を重んじる貴族社会、もとい国にとって非常に都合の良いものとなった。



ティルスとルミエル、そしてアンジェは、そんな出生届を発行する王宮貴官省を訪れていた。

——ここでなら、この子が私たちの子でないことを証明できる。

ルミエルは落ち込むかもしれないが、この子の出自を調査し、適切な場所にやらねば、誰も幸せになれない。

……まぁ、でも養子縁組をして、本当の家族になる、というのもアリではある。

私としては、結婚をした時点で目的は達成できたからな。



そんな事を考えつつ、ティルスは手続きを進めていく。

——ただ、今日は少し省内が騒がしい。

聞こえてきた話から推測するに、どうやら神託が下りたらしい。



——三年後、勇者がこの地に誕生する。

なるほど、三年後のベビーラッシュを警戒して、どうするべきかを緊急で会議しているということか。


まぁ、私たちには関係ないことだな、と考えるのをやめ、できるだけ早く手続きができるように口添えしつつ、その時を待つ。



少し待つと、鑑定室と呼ばれる部屋に案内される。

ここで、魔力の波長を検査。

そののち、親子かどうかの審査を行うらしい。



少し退屈そうなアンジェをなだめつつ、しばらく部屋の中で検査された後、部屋から出された。

後は、鑑定結果と、手続きの結果を知らせてくれるらしい。



うとうとしているアンジェを背中に乗せ、ルミエルと語らいながらその時を待つ。



「アンジェは、きっと将来凄い子に成長しますよ!私の勘がそう言っているんです!」



愛おしい目でアンジェを見るルミエルに少しだけ胸が痛みつつも、ここではっきりさせておかなければ、今後家が荒れる原因になりかねないと、心を鬼にする。

しかし、ここでふとアンジェの顔を見て感じた。



「それにしても、アンジェはティルス様に似て、きれいな藍色の瞳をしてますね」



——アンジェの顔つきは、母上のものと似ている。それに、ルミエルのものとも。



「鑑定の結果がでました」



そう言って役人がこちらに何枚かの書類を持ってくる。



「アンジェ様はジェンバート公爵様、公爵夫人様の両方の波長と一致しておりました。二人のお子様であると判明いたしましたので、ここに、アンジェ様をジェンバート公爵家令嬢と証明いたします」




——帰り道。

ティルスは再鑑定を願ってみたが、「メンテナンス直後だったので、特に異常はないと思いますが……」と取り合ってもらえなかった。

これ以上は、自身の不貞等の線も疑われかねなかったので、止む無く帰ることにした。



それにしても、とティルスはアンジェを見やる。

——私の娘なのか?本当に?

魔力鑑定はかなり正確であり、過去に叔父の息子を当主の息子として偽ろうとした家があったらしいが、当主のものと魔力波長が一致せず、その叔父は、家乗っ取りの罪で処刑されたのだとか。



本当に親子レベルのものでしか一致しない以上、この子はティルスの娘ということになる。



女性経験など、一度もないというのに、子持ちの父親か……。

そう考える一方で、謎は多いが、自分の子である以上、きちんと育て上げなければという決意を新たにするティルス。



そんな時、突然馬車が止まる。

ティルスは馬車から顔を出す。

そこには、ならず者たちが馬車を取り囲んでいた。



——襲撃か!?いったいなぜ!?



「二人は馬車の中に。決して外に出ないでくれ」



そう言って、武器を持って外に飛び出すと、ならず者たちは、やけに統率のとれた様子で襲い掛かってきた。

もちろん、護衛もいるが、それでもじりじりと押されていく。

なんとか、一時体勢を整えようと、剣をふるった時、ならず者たちの服の中にちらりと見えた物があった。

ティルスはそれを見て、納得したように叫ぶ。



「貴様ら、ファルモ侯爵家の手の者か!!」



ならず者たちはぎょっとしつつも、それでも笑ったまま答える。



「あぁ、そうさ。俺たちはファルモ侯爵家の命令で来た」



ファルモ侯爵家は、我儘な娘がいると評判の家で、何度も釣書を送ってきていたが、断っていたのだった。



「何の為にこんな事をする!?」



ティルスがそう言うと、ならず者集団の中で命令をしていた男は笑いながら言う。



「どうせこの場で全員始末するんだ、教えてやろう。——お嬢様は、手に入らなかったお前ごと、結婚相手を殺すように命じている」



そう言って、男たちは情け容赦なく剣を振り下ろす。

こちらも護衛はいるが、多勢に無勢、どんどん追い詰められ、馬車の前まで来てしまった。

このままでは、皆、殺されてしまう。

なんとか、娘と妻を守るため、一歩踏み出した、その時。



「パパをいじめるなー!!」



そう言って、アンジェが馬車から飛び出してきた。



「アンジェ!!」



そして、ルミエルも。

しかし、アンジェの手には、似つかわしくない、輝かしい剣が握られている。

——待て、あれ、聖剣では?


アンジェが一振り剣を振り下ろすと、その衝撃波でならず者たちは皆吹き飛ばされた。

ティルスたちは皆、呆然としていた。

しかし、すぐにハッとすると、「ならず者たちを縛り上げろ!」と命令し、すぐに護衛も動いた。



アンジェは、こちらに振り返ると、ニコニコと笑った。



「アンジェ、すごい?」



ルミエルは、その様子を見て、アンジェに駆け寄る。

箱入りの御令嬢がこんなものを見て、大丈夫なのだろうかとティルスは不安に包まれる。

が、



「アンジェ、強いのね~!将来は剣士様かしら!」



とアンジェを抱きかかえ、賞賛するルミエル。

まさかの反応に肩の力が抜ける。

——それでいいのか、ルミエルよ。


そして、その一方で頭が痛くなってくるティルス。

——聖剣を持つのは勇者しかいない。

でも勇者は三年後に誕生するはずでは?

しかし、アンジェに魔王を倒してもらうのか?

こんな小さい女の子に?



色々と考え、悩んだのち、とうとうティルスは考えるのをやめた。



——アンジェはきっとすごい人物になる。

剣が使えるようだし、強い剣士に師事させて、伸び伸びと成長させるか……。





(アンジェ視点)


——おそらのうえで、パパとママをみていた。


パパは、いっしょうけんめいにおしごとして、やさしいパパ。

ママは、とってもやさしくて、ふんわりしてるママ。


パパとママにあえるのはずっとさきだよってはねのついたひとたちはいってたけど、まちきれなくなってあいにきちゃった。



ママは、わたしのことぎゅーってしてくれた。

パパは、すこしこまってたけど、わたしのこと、やさしいめでみてた。



これから、ずっといっしょにいれたらいいな。


面白かったら、ぜひ、評価等をお願いします!

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― 新着の感想 ―
面白そうなお話ではあるけれど、童話かホラーか解らないまま途中で打ち切られているように感じました。
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