転生してみると思ったより「こんな感じか」って感じだった
(コーヒーの香りがする…)
普段飲んでいるペットボトルのものより、深く炒られた濃い香りがした。
(普段? いや俺はいつもこの豆を買ってきていて…)
思考が繋がっていくのと同時に、視界の焦点が合い、意識が現実に戻る。
視界に写っているのは、店内に雑多に並べられた戦闘用の道具。
湯気のたっている少し大きめのマグカップ。
栞の挟まれた本。
聞こえてくるのは、店の前を通り過ぎていく足音。
斜め向かいのパン屋の景気の良い声。
落ち着いてはいるが、寂しさを感じさせない街の音。
ひじ掛けに手をつき、ゆっくりと店番の椅子から立ち上がった。
あらためて店内を見渡し、一呼吸を置いてから、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「そうか、転生したのか」
あまり混乱はなかった。
小さいころの記憶がふと蘇ったような感覚に近い。
湧き出た記憶の時系列がわからなかったので、前世界の記憶は、前世のものだったのだろうと納得した。
転生前後の人格についても違和感はなく、
例えば、「子供の頃を思い出すと物怖じせずに人と会話していたけど今は無理だな」といった感覚に似ている。
道具屋をしてきた記憶を思い出すと、やけに真面目な生き方をしているなと感じるので、この人格は前世、つまり異世界から引き継いできたものなのだろう。
転生した今の年齢は27歳。
魔力を持っていなかったので、誰でも使用できるような武器や道具の整備、販売をして暮らしていた。
さて、ここから何をしていこうか。