前編
☆王宮
王宮の式典で、王太子が、婚約者ではない令嬢をエスコートし、ピンクブロンドの婚約者、聖女を指さし宣言をしようとしている。
皆は、婚約破棄を予想し、正に、その通りだった。
この国の王妃は、聖女が指名されるのが慣習である。
王子は、隣に、侯爵令嬢を脇にそえ。宣言する。
「聖女サリーよ。お前はこの国の聖女でありながら、炊き出しもせずに、ヒラヒラな服を着て、商会経営と称して、遊び暮らしている。
とても、この国の未来の王妃に相応しくない。
よって、婚約破棄をする!そして、侯爵令嬢イメルダを婚約者に指名する!イメルダは、貴様と違って、各国に慈愛の令嬢と名が通っているぞ!」
・・・フフフフ、俺はこの国の王太子、ルドルゴ、聖女と婚約をするのが我国のならいであるが、孤児出身のくせに、炊き出しもせずに遊び暮らしているサリーと婚約破棄をして、幼馴染みのイメルダと婚約して、愛のある国を目指すぜ!
対する聖女は、
「分ったのだからね!家に帰るのだからね!」
と言って、会場を後にしようとするが、
・・・あっさりしているが、そうはいかない。お前は聖女だ。一生、俺の書類仕事だけはさせてやる。
「待て、衛兵よ。捕らえろ。命令だ!罰として、文書業務だけはさせてやる!」
「ウゲー、嫌なのだからね!」
その時、一人のアラフォーが現われた。首の周りに肉が付き。司教服にジャラジャラと宝石をまとっている。
彼は、病気の陛下の弟にして、王都女神教会の司教シイナル司教だ。
ドスドスと前に出て、仲裁をする。
「待ちなさい。聖女は、女神教会の管轄だ。我が教会で預かろう」
「ヒィ、嫌なのだからね。スーパーダーリンはいらないのだからね!」
「困ります。こいつは、文書業務だけは出来るのです」
なら、と女神教会の業務と、王太子の文書業務、両方をする羽目になった。
結局、サリーの身柄は、王都女神教会、預かりだ。
☆王都女神教会
「嫌なのだからね。出身の孤児院で働くのだからね!」
「まあ、見なさい。サリーさん。炊き出しに集まる人達を・・・ちょうど、教会前に炊き出し民があつまっておる」
ワイワイワイ、ガヤガヤ
「あ~、炊き出し民でも、たまにはステーキを食べたい!」
「旅行にも行きたいわ!」
「この国は、外国人に冷たいデース」
・・・・
「サリー、この王都には、ステーキも食べられずに、旅行にいけなくて困っている人々がいます」
「え、ステーキも食べられずに・・・困っている人達がいるの?馬鹿なの?」
「サリー、君は聖女なのに、女神教典を忘れたのか?女神様の前では、皆、平等だ。だから、炊き出しをしているのだよ」
「そ、そんな。平等なの?じゃあ、あの人達は・・・」
「そうだよ。女神教会税でやる炊き出しでは不十分だ。王家の炊き出しもだ」
サリーは膝をついた。
「本当は、平等なのに、不当な扱いをされている人達が、こんなに沢山いる・・」
「分ってくれたね」
「はい!サリー頑張るのだからね!」
☆
ガヤガヤガヤガヤ~~~
「はい、炊き出しだからね!」
「少ねえよ!」
「もっと、良いものを食べたいわ」
「外国人にも手厚くしろデース」
・・・フフフフ、何やら、サリーは転生者、異世界の知識を利用して、聖女の分際で、商会をやっているようだが、その財を炊き出しで使わせて、私の影響力を上げてやる。
「さあ、まずは、炊き出しを配るところから、始めなさい」
「はい!」
サリーは、大人しく炊き出しを始めた。
・・・フフフフフ、これでいいか。あのピンク頭、神妙ではないか。
どれ、私は羽を伸ばそうか。
司教シイナルは、海外の女神教会に出かけた。視察という名の旅行だ。
☆一方、王太子殿下たちは、
「いいか。伯父上に炊き出しで負けてはいけない。王都市民の人気を得るのだ。増税案を作れ」
「そうよ。私は慈愛の王太子妃として、この国を愛のある国にするんだから!」
「ヒィ、もう、増税は出来ませんよ」
「だまらっしゃい。それをするのが、役人の仕事でしょう?」
「イメルダの言う通りだ。税金が余ったら、少しだけ返せばいいではないか?
私たちは外遊する!各国の主要な孤児院にお金を配って、良い気持ちになるから、資金を用意しておけ!」
かくして、王太子とイメルダは、外遊に出かけた。
☆数ヶ月後
シイナル司教は、外遊先から、聖王国に緊急に呼び出された。
・・・ほう。炊き出しと寄付が認められて、大司教に任じられるのか?
とほくそ笑むが、待ち構えていたのは聖騎士だ。
「拘束!しろ」
「ヒィ、何故じゃ。一国の司教を、許されませんぞ」
「黙れ!邪教審判を受けろ!」
シイナルは拘束をされ、会議室に連行された。
・・・
法王は開口一番、
「シイナル司教よ。禁教、民主主義を説いているのではないか?」
とたずねた。
「そんな間違いです。そんな教え説いてませんよ!」
「フ、なら、これを見ろ。貴国の王都の惨状だ」
魔道映写機で上映されたものは、サリーが映っていた。
☆
場所は王都女神教会前広場、夕方、大勢の炊き出し民が集まっている。
サリーは民衆を前にして、壇上に上がっている。
手をカクカクシカジカと動かしながら、演説をしている光景が映し出された。
『あえて、言おう!貴様らは【カス】であると!ステーキを食べられない者は、コロッケーを食べればいい。旅行に行けないものは、散歩をすればいいと他人は言うかもしれない。しか~~~し』
民衆から、どよめきが生じる。
ザワザワザワザワ
サリーはためて、腕を腰で組み。踵を返して、壇上を練り歩く。
ザワザワザワザワ
また、クルッと回って、右手で拳を高く上げ
『だが、私は、約束する!貧民もステーキを食べて、旅行に行ける国を約束する!女神教会シイナル司教の元、5年で、平等な国を目指す!貧民も貴族の服を着られて、外国人に暖かい国を目指す!留学生は国の宝だ!』
『『『サァリー!サァリー!サリー!サリー!』』』
・・・・
「ヒィ、こんな教えを説いてません。私は、人気取りのために、炊き出しをしろと命令しただけです」
「本当に、そうかぁ?」
「ええ、ばらまき王子に対抗して、私は人気を得たいだけです!」
「ふ~ん。外国人を受け入れたのは?」
「それは、知り合いの商会にもうけさせるためです!技能講習といいながら、安く使いたいだけです!そして、商会に献金をしてもらいます。そのためには、不良外国人が善良な市民に迷惑を掛けてもどうでもいいです」
「理にかなっているが、クソだのう」
数時間後
シイナル司教は解放され、一人で、自国に戻るように、命令された。現状を何とかしろとの事だ。
☆王都
・・・何だ。王都の・・貧民が少ない。いつもは並んでいる賭博魔道店の前の列がない。
それに、何だ。ピンク色の腕章をつけて歩いている者がいる。
足並みを揃えて、軍隊か?
「「「!護国!繁栄!豊穣!発展!平等!勤労!」」」
「おい!そこの者!何故、ブタを連れ歩いている!」
「ヒィ、悪気はありません!」
・・・何だ。何故、ブタを荷車に乗せて運んでいる者を咎めているのか?
「・・・何だ。今日、王都に来られたのか、シイナル司教がブタと似ているからと、馬鹿にしている訳ではないな。行って良し」
「気を付けられたし、いくら、ブタと似ているからって、ブタと言われたら、シイナル司教殿は気分を害されるかもしれない」
「許可書を出そう。見えるところにはっておくのだ。シイナル司教の肖像画はあそこにある。確認しろ。決して、ブタと似ていると言ってはいけないぞ」
「はい、畏まりました。はあ、確かにブタにそっくりだ!」
ピンクの腕章をつけた者が指さす先には、大きな肖像画がはられていた。
シイナル司教の肖像画だ。
・・・ヒィ、まるで、馬鹿にしているみたいじゃないか?
サリーめ。どうしてくれようか。
シイナルは、教会まで急いだ。
最後までお読み頂き有難うございました。