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黒兎少女  作者: 武智城太郎
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生贄(2)

 和人は自宅の居間で、家族とともに夕食をとっていた。

 専業主婦の母親と小学四年の弟の三人。医療機器メーカーに勤める父親は、今夜も残業でまだ帰宅していない。

 テーブルに並んでいるのは、サンマの蒲焼きにロールキャベツ、カボチャの煮付け等。庶民的な食卓である。

 母親は息子たちのコップにお茶を注ぎながら、

「和人、顧問の先生から、最近部活に出てないって連絡があったわよ」

「あんなのやめた。顧問に気に入られてるグループが調子に乗ってるだけだから。たいして上手くもないのに」

 不貞腐れたようにこたえる。

「二中のサッカー部ってあんまり強くないよね」

 弟は軽口を叩きつつ、リモコンを手にしてテレビをつける。

「だったら学習塾に行く? みんな通ってるんでしょ。中間試験の結果もあまり良くなかったし」

「みんなじゃないし、そんなの行かなくても自分でやれるし」

 ブスブスとカボチャの煮付けを箸先でくだいていく。

『──先週末、白山市内の小学校で、飼育小屋のウサギが何者かに殺されているのが見つかりました』

 テレビから流れてくる、男性キャスターの深刻そうな声。

 和人はハッと箸をとめる。

 面白そうな番組をさがしていた弟の指も止まっている。

『事件があったのは市立白山第二小学校で、調べによると二八日朝、飼育係の児童が、小屋の中で飼っているウサギ五匹がすべて死んでいるのを見つけました』

 画面には、小学校のウサギ小屋が映されている。

「ぼくの学校だ! ウサギが殺されたこと言ってる!」

 弟は無邪気にはしゃいでいる。

「………」

 和人は無言で、食い入るように画面を見つめている。

『ウサギには、ボウガンのものと思われる矢が複数本刺さっていました』

「こわいわねえ。二人とも気をつけないとダメよ。変な人を見かけたらすぐに逃げてね」

 母親は憂慮で顔を歪めている。

『金網の一部はペンチで切り取られており、犯行時に損壊したものとみられています。また小屋には、犯人が書いたと思われる落書きがあり──』

 和人が書き残したシンボルマークがテレビ画面に大映しになる。五芒星の中央部分に〝殺し〟を意味するKの文字を書き足したものだ。

『白山市教育委員会では「このようなことが起こり誠に残念。学校施設管理の徹底を図るとともに警察の協力をお願いしたい」と語って──』

「あ、池の水全部抜くやつやってる!」

 さっさと飽きてしまった弟は、バラエティ番組にチャンネルを変える。

「二人とも、冷める前にロールキャベツ食べちゃって」

 和人は平静を装いつつ、一人、興奮の中で震えていた。

 やっぱりおれはすごい! 

 他のやつらとはわけがちがう! 

 凡人とはかけ離れた才能と知能が備わっている! 

 特別な存在だ!

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