表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】虚  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/134

97.守れるのは一人だけだ

 女神の祠を調べたが、どうやって転移したのか。痕跡は見当たらなかった。ここを逆に利用して入り込む方法は使えない。だが祠を残すことで、また侵入される危険があった。話し合った結果、この祠を破壊する案は却下される。人間のために、魔王城の敷地内にあるものを壊すこともない。封じればいいのだ。


「出口の穴を閉じたら、中に入った奴、どうなるんだろうな」


 純粋な興味で呟いたところ、恐ろしいことを考えるなとエルフの婆さんに叱られた。転移に使う空間は特殊で、一種の異次元だと認識される。その空間に閉じ込められたら、時間が停止して死ぬことも出来ないと考えられていた。実際に閉じ込められて戻った奴がいないので、事実は不明だ。


 巨人族は、引き千切られて何処かに落下すると伝わったらしい。どちらにしても余り良い結果ではない。まあ人間相手なので、出口は封じることにした。魔術により人間が転移する可能性はゼロだ。魔術の仕組みとして、転移は考えられない。ならば、この祠と対になる何かに、魔力を持つ者が触れたら作動した可能性があった。


 出口を縛り上げて、魔力で囲った。徹底的に隙間を塞ぎ、二重三重に封じたところで安堵の息をつく。エルフの婆さんや獣人達の顔色も、目に見えて改善した。殺人犯がうろつく夜中の住宅街で、自宅の玄関の鍵が閉まらないのと同じだ。鍵を新調すれば安心できた。これでオレも出かけられる。


「バルトにしっかり報復してやるから、まあ吉報を待っててくれ」


「吉報以外寄越すんじゃないよ」


「お前なら楽勝だろ」


「せいぜい脅して苦しめてやれ」


 エルフの婆さん、巨人、獣人とそれぞれの代表が手荒に送り出す。リリィとイヴは塔の上階にいて、綻んだ結界の修理をしながら見送ってくれた。エイシェットは魔王城の上をぐるりと周り、同族がいる方角へ一声鳴いた。返ってくる声を受け止めると、夕暮れの空をゆったりと飛ぶ。


「バルトはもう少し南だ」


 方角を示して、置いてきた双子を思い浮かべた。カインとアベルは魔王城の防衛ラインとして残ってもらう。オレの気持ちが安定するから、そう言い聞かせた。実際は違う。もう親しい人を失いたくなかった。


 エイシェットだけなら、オレの命に代えても逃す。空を飛べるし、圧倒的な火力を誇るドラゴンだ。それに加え、番という関係もあった。オレが置いていったら、無理しても追いかけてくる。知らない場所で危険な目に遭わせるくらいなら、隣で守った方が安心できた。


 双子は魔力量の違いがなければ、オレより戦闘能力が高い。守るなんて烏滸がましいのだろう。だが……彼らは地上を駆ける森の王だ。獣の頂点に立つフェンリルである以上、地上で戦うことになる。直接人間と接して、その卑劣な罠にかかりでもしたら? 想像するのも恐ろしかった。


 せめて片方は連れて行けと唸る彼らに、魔王城の守護として残って欲しいと頭を下げた。危なくなったら呼ぶことを条件に、ようやっと許可される。


 くくっと喉を震わせて笑うと、エイシェットが不思議そうに喉を鳴らした。ぐる? 尋ねる響きに答える。


「カインもアベルも、まるでオレを幼児のように扱うんだぜ。おかしいだろ」


 同意するエイシェットの首筋を撫でながら、オレは滲む涙を拭った。笑ったせいだ、悲しくなんてない。ヴラゴのおっさんの仇を取りに行くんだからな。自分に言い聞かせ、前を睨みつけた。左に沈んでいく夕日が最後の赤光を消し去る。暗闇が冷気を連れて訪れた。


 ――弔い合戦だ、派手に行こう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ