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【完結】虚  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第二章

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81.現場の判断で臨機応変

 捕まえた獲物を掴んだエイシェットが、鋭い爪にぶら下がる生き物に首を傾げる。まあいいかと大して気にせず舞い上がり、悲鳴を無視して運んだ。いろいろ人道的に問題はあるが、彼女にしたら捕まえた獲物を横取りしようとした犯人なので、落下して死んでも自業自得と考えたらしい。


 正直、オレも同じ結論に至っていた。そのため宥めることもせず、そのままドーレク方面へ飛ぶ。運よくアーベルラインの家畜だった牛を捕まえた。焼印でどこの国か判別出来る。2頭必要なので、豚も捕まえた。その上で、オレが豚と猪が交配したらしい猪豚を発見して、剣を突き立てて確保した。


 これだけあれば足りるだろう。血は吸血種が飲むので、牛と豚は殺さずに持ち帰る。死んだ猪豚の血は諦めてもらうしかないが……エイシェットの足元に猪豚を転がしたところで、奇妙な子どもが攻撃してきた。矢を短剣のように握り、突き刺そうとする。


 結界膜があるので無視し、作業を終えたところでエイシェットに回収してもらった。その際に、クソガキが肉についてきてしまったのだ。


 ぐるる? 落とす? と尋ねる彼女に「面倒だから放っておけ」と言ったのはオレだ。腹が減っていたし、どこかで落ちると思っていた。魔族の子なら保護するが、どう見ても人間だった。


「牛と豚は殺さないようにな」


 死体の血じゃ飲めないから。そう言い含めたオレの目に、まだぶら下がるガキが映った。結構根性あるな。矢を口に咥えて両手でしがみ付く子どもごと着陸したエイシェットは、警戒しているのか。ドラゴンから人化しない。


 威嚇する声を出してオレを庇おうとする。ぽんぽんと尻尾を叩いて前に出る頃には、フェンリルや蝙蝠達に囲まれていた。怯えて泣き出す子どもに対し、面倒だとしか思わない。


「食料確保とは言ったが、コレか?」


 ヴラゴのおっさんが、眉を顰める。


「生き餌に、わざわざガキを攫ってくる必要はないだろ。量が少ないし、泣くとうるせえし」


 喉を鳴らして、勝手についてきたと唸るエイシェットが口の端に炎をチラつかせる。焼き殺す気のようだ。


「エイシェット、食事前にやめてくれよ。オレが食えなくなるだろ」


 人の焼けた臭いは最低だし、それを見た後焼いた肉を食うオレの気持ちを考えろ。そう告げると、仕方なさそうに炎を引っ込めた。牛や豚はすでに蝙蝠達の餌として供給され、フェンリルが器用に猪豚を解体していく。血生臭い状況に、さらに大声で子どもが泣いた。


「うるさい。さっさと行け」


 叫んだ直後、飛んできた矢が子どもに刺さった。首を貫いた矢は、ドーレクの方角からだ。咄嗟に結界膜を強化し、周囲に警戒を促す。フェンリル達はもちろん、ドラゴンにも矢は刺さらないだろう。だが、蝙蝠には致命傷になる可能性があった。


「エイシェット、頼む」


 ぐるるぅ。誇らしげに喉を震わせたエイシェットが移動し、蝙蝠の群れを背に庇う。じっと目を凝らすオレの横で、ヴラゴが呻いた。


「門を破ったらしい」


 ぞろぞろ出てくる人影が見えるらしい。彼の言葉を信じ、オレはにやりと笑った。


「予定より早いが、まあいい。逃げる方向を誘導するか」

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