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8.悪魔の証明を求めた

 復讐する権利なんて、あるんだろうか。でも……助かった魔族の命を消され、オレ自身も殺されかけた。友人と信じたエイブラムが、オレに嘘をついていた。ふと気になる。


 オレに嘘を吐けないと言ったのはリリィ。それが真実と仮定した場合、なぜ説明を侍女に任せたんだろう。騙してオレを利用するのか? いや、今のオレに利用価値はない。ならば事実か。混乱する頭を整理しようと目を閉じた。


 暗い視界を埋め尽くすのは、あの日の光景だ。オレと戦った魔王の死、そして彼を助けようと必死で食い下がった魔族の顔。裏切られたとオレを睨んだ側近のあいつは、どうしただろう。魔王自身は理解してくれたけど、オレは魔族から見て裏切者なのに……復讐するなら権利じゃなくて、義務だ。彼らの無念を晴らすために、オレの命を使い切る覚悟があるかどうか。


「今の話が真実だという証拠は?」


 悪魔の証明みたいだ。騙してない証拠を提示しろ……それは無実を証明しろと同意語だった。自分で口にして恥ずかしくなる。ここまで親切にされたのに、恩を仇で返すに等しいな。


「あ、その……やっぱり」


「構わないわ、教えてあげたらいい」


 リリィが頷くと、猫耳の侍女はするりと服を脱いだ。太めの肩ひもがあるスカートがすとんと落ちる。白いブラウスに黒いリボン姿になった彼女は、躊躇いなくブラウスのボタンをはずした。反射的に両手で顔を覆う。


「な、なにをっ!」


「よく見てください。これが証拠です」


 指の隙間から確認した侍女の肌は、人と同じで滑らかだった。かろうじてブラウスで隠れる胸の中央に、剣が切り裂いた痕が残っている。鋭い刃物で切り裂かれたのだろう。すっぱりと切れた痕は、そのまま綺麗に塞がっていた。何か刃物が傷つけた痕跡……まさか?


「エイブラムが傷つけた痕です。母も父も殺され、私は仮死状態で姫様に拾われました」


「この屋敷で働く侍女も双子も、すべて人間に親を殺された孤児よ」


 リリィが思わし気に溜め息を吐く。尻を乗せたテーブルを降りて、彼女はオレの背中に回り込んだ。するりと手がオレの首に触れる。ぞくっとした。緊張したオレの肌が粟立つ。振り払いそうになる手を握り締め、ゆっくりと深呼吸した。


「……オレに力はないぞ」


 殺された子供や目の前の侍女のために、オレに戦えというならそれもいい。気づかずに罪人を友人として扱い、魔族を苦しめた罰なら受け入れようと思った。でも……オレには戦う力がない。死ににくい体だけでは、騎士や王侯貴族に勝てなかった。

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