表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】虚  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/134

76.軟弱者が、何しにきた

 勇者であるオレに随行したメンバーの中に、魔術師がいた。大量の魔法陣を使い分ける天才的なセンスがあり、魔力量も人間としては随一。頭ひとつ抜き出た魔術師は、魔王討伐後にオレを害悪だと非難する側に回った。バルト国の王女を妻に娶り、偽勇者を殺せと周囲を唆す。卑劣な男は、いま賢者を名乗っている。


 あいつの仕業だ。彼の血を持つのは、あの男以外にいない。忌々しい思い出と共に浮かんだ感情に、ゆらりと目の前が歪んだ。殺したくて仕方ない。あの男が元凶だ。国王より早く声をあげ、オレを罪人に仕立てた。勇者と結婚させようとする国王を牽制し、王女を口説いた魔術師レオン。アイツなら今回の件もやりかねない。死者を冒涜する行為に傷つく柔な精神を、奴は持たなかった。


 日暮れを待って、まだ追い付かないカインとアベルへの伝言を頼む。吸血蝙蝠達は同行を申し出たが、オレが断った。せっかくヴラゴのおっさんが逃した同族だ。若者を使者にして遠ざけたのに、オレが連れ戻ったら台無しだった。滅びる気はなくても、いつ滅ぼされるか怯えてきた魔族の一種族の長として、彼は一族が生存する可能性を増やしたのだ。そこまで話す気はないので、伝言係を言いつけた。


「重要な役目だから、絶対に追うなよ」


「わかりました」


「カインとアベルが来ても、ここで待て」


「……それはその……はい」


 睨みつけ魔力で威嚇したら、震えながら頷く。恐怖で縛るのが一番効果的だからな。追いかけるなよ。フォローせずに背を向け、並び立つエイシェットと駆け出した。昼間のうちに準備した抜け道の出口から侵入する。


 そういや、エイシェットのやつ何も言わなかったな。蝙蝠を脅したとき、止めるかと思ったが。


「この先、少し狭い」


 指差した彼女が、無造作に瓦礫を退けようとする。慌てて止めた。


「ちょ、崩れるぞ。先に周囲を固定してからだ」


「わかった」


 ドラゴンは丈夫なので、崩れて生き埋めになっても平気だろうが、オレは潰れる。内臓出るし、ぐちゃぐちゃだからな? 気を遣ってくれ。手を触れて朝まで支えてくれと願う。対価の魔力を与えたことで、気を利かせた大地の精霊が瓦礫を砂に変えてくれた。


「サンキュ、助かった」


 礼を言って広くなった通路を進む。薄暗い道の奥で、爛々と輝く瞳に出迎えられた。心臓が止まりそうな光景だが、相手が分かっていれば恐怖心は薄い。


「お待たせ、迎えに来たぜ。ヴラゴのおっさん」


 蝙蝠の群れに声をかけたオレは、足元の岩に躓いた。転びかけたところを、隣のエイシェットが掴む。腕が痛いぞ、こら。でも助かった。


「ありがとう」


「軟弱者が、何しにきた」


「逃げ損ねたおっさんの回収だけど?」


 喧嘩を売る口調でヴラゴに対すると、むっとした顔で牙を剥いた。伸ばされた手を跳ね除けずにいるオレに、くしゃりと顔を崩して笑う。


「いい度胸よな、我にそのように歯向かうのはお前くらいだ」


「リリィに鍛えられたからな」


 肩を竦めるオレに、ヴラゴも苦笑いして事情を話し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ