43.王都への進路を拓け
エイシェットに頼んで、黒い森から王都を目指して攻撃を仕掛ける。途中の村や町は焼き払った。空の覇者と言われる強大なドラゴンのブレスを前に、抵抗など無意味だ。魔術師が抵抗する前に炎は町を舐め、剣士や弓矢を扱う者が動き出す前に村は灰になった。
ここで容赦や慈悲なんて不要だ。魔族を殺す手伝いだと知りながら村を開拓する農民、罪がない少女や子供を虐殺する剣士、彼らに罪がないわけないだろ。罪と罰はセットだからな。お前らは自らの言動の結果に責任をとっているに過ぎない。
「きゃぁ!」
「お母さん!!」
泣き叫ぶ子供が炎を避けて走る。それを見ながら、オレは攻撃を仕掛ける連中を淡々と切り裂いた。人間なんて、全員死ねばいい。子供を守ろうとする男を、強烈な風の刃が襲った。
「風よ、排除しろ」
指さす先で腹を割かれて内臓を散らかす男、それを助けようと駆け寄る女。仲間同士だと助け合うくせに、お前らのために戦ったオレは切り捨てられた。あの痛みと苦しみは、数十倍にして返してやりたい。だから誰も助けない。完全な焼け野原になるまで、焼き払った。
料理の際に肉を焼くといい匂いがする。なのに人間を丸ごと焼き払うと、鼻をつく異臭が立ち込めるのはいまだに不思議だった。髪や皮も一緒だからか? 顔を顰める臭いを防ごうと、マスクがわりに布を巻きつける。母親に抱きついた子供の亡骸を見ても、心は痛まなかった。もうそんな感傷に浸る時期は終わっている。
ぐるるっ、喉を鳴らすエイシェットを褒めながら王都の壁に炎を浴びせる。焦げて真っ黒になった塀に焦る兵士を数人、風を浴びせて落とした。高い壁の下まで落下した兵士は、綺麗な赤を散らす。爪を引っ掛けた風を装ったエイシェットが高い声で鳴いた。
「ドラゴンか!?」
「なんてことだ。早く魔術師を呼べ」
黒い森から1本の焼けた道を拓いたドラゴンの背で、オレはいくつかの仕掛けを施す。意識が頭上に向いている隙に、イヴが用意した印を塀や塔に刻んだ。ぐるりと旋回するエイシェットが威嚇の声をあげる。
「ふん、やっと魔術師のお出ましか。遅いっての」
王都を守る塀には一種の結界が施されている。空飛ぶ魔族や火矢の攻撃を防ぐ目的があった。オレはもちろん、エイシェットも破れる程度の膜だ。その膜は体を守る魔力の膜と同じ構造だった。
そう……この結界もどきを維持するため、魔族は魔石を奪われてきたのだ。これは魔王が負けてからの話ではなく、それ以前から行われていた非道な振る舞いだった。あの頃のオレは何も知らず、日本でイメージする聖女の結界みたいな感覚で感心してたっけ。
魔力を注いで魔石を活性化させる魔術師を横目に、エイシェットに次の作戦決行の指示をする。ぐるりと王都の塀を旋回しながら、すべての門や塔に目印を刻んだ。これが座標となり、この国を滅ぼす日に効果を発揮するはずだ。
膜を破って侵入できないフリを装い、周囲の町をいくつか襲撃して引き上げた。だが周囲に亜竜と呼ばれるワイバーンを配置する。外へ出た獲物は食べてもいいと許可したエイシェットに従い、彼らは目を輝かせて獲物を探すだろう。
さあ、予定通り籠城してくれ。お前らが飢えて苦しみ、ワイバーンの餌になる未来を選ぶまで――気長に付き合ってやるよ。




