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37.肩書より取説が欲しい

 異世界でもゲームや小説じゃないから、ステータス画面なんて便利なものはない。あったら、称号欄に「魔王を倒した(元)勇者」と「魔王(代理)」が追加されたと思う。このカッコ部分が微妙だけどな。


 自分が魔王になるために、前魔王を倒した最低勇者みたいじゃないか。いや、ある意味間違ってないか。イヴリースと戦って倒さないと帰れない。その言葉を信じて、友人に剣先を向けたんだから。


 ぐるる、小首を傾げるエイシェットを撫でる。屋根の上に腰掛けたオレの隣で、くるっと尻尾を腰に巻きつけてる姿は可愛いと思う。同時に、ここに今……イヴリースがいたら最高なのに、なんて考えた。オレが殺したのに図々しいよな。早い段階で帰ることを諦めればよかったんだ。


「魔王代理か。荷が重いぜ」


 エイシェットの尻尾が巻きついているので、転げ落ちる心配はない。ごろりと屋根に寝転がった。ドラゴンは爬虫類と認識してたから、変温動物で冷たいと考えた時期もあったが……よく考えたらおかしいよな。氷や水の攻撃を得意とするドラゴンがいるのに、恒温動物じゃなかったら死んでる。極寒の山頂に住むドラゴンを見た時は、なんで動けるのか首を傾げたもんだ。


 ほんのり温かいエイシェットの尻尾は、撫でるとざらりと鱗が手に触れる。攻撃を弾くときは硬化するが、普段は蛇くらいの柔軟さがあった。これもある意味、当然だろう。剣を弾く硬さのままじゃ、尻尾を巻いたら自分を傷つける。フェンリルの毛皮と同じだった。


「何を遊んでるのよ。人間の国を潰すから早くいらっしゃい」


 ふわりと空中に浮いた美女が、腕を組んでオレを見下ろす。昨日は村を2つほど焼いたんだし、少し休むくらい……ん? 国を潰すと言ったのか。ばっと起き上がった拍子に、ずるっと滑った。エイシェットが支えてくれたので、落ちずに済んだが。


「……パンツ、見えてんぞ」


 見上げる位置が変わったので、予想外の物が見えてしまった。可愛いピンクの三角が視界に飛び込み、直後に凄まじい攻撃を食らう。支えが消えて強烈な衝撃で屋根にめり込んだ。


「……くっ」


 魔法を使う間がなくて、魔力の膜だけで耐えた。オレじゃなかったら死んでるぞ。文句を言おうとして、顔を庇った腕を退けた。


「エイシェット?」


 オレを攻撃したのは、頭上の悪魔のような美女ではなく……涙目のエイシェットだった。ドラゴンなんだから、加減してくれないとオレが潰れる。つうか、なんで泣きそうなんだ? 


「えっと、ごめん。あの……」


「きちんと謝ったら、彼女も連れて合流しなさい。中庭にいるわ」


 リリィには、オレが悪いと言い切られた。何が悪いのか分からなくて、彼女の尻尾を抱きしめてみる。機嫌が直るかと思ったら、さらに泣かれた。彼女いない歴と年齢が一緒のオレには難問すぎる。


「エイシェット、オレが悪かったなら言ってくれ」


 ぐるるぅ、喉を鳴らして抗議する内容は意外だった。婚約して一緒に過ごす時間なのに、よその女のパンツを見て興奮するなんて最低だ。要約するとそんな意味合いだった。浮気を疑われたのか、悪いことをした。でもオレ、お前と婚約してたっけ? ほとほとと大粒の涙をこぼす彼女に聞く勇気はなく、疑問は飲み込んで頭を下げた。


 女性も雌も難しい。取説があるなら絶対に入手しなきゃ、勝てる気がしなかった。

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