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30.やっぱり魔族の方が合う

 人間の砦を落とすくらい、一人で頑張りなさい。そう言われて、早朝に叩き起こされた。眠い目を擦りながら準備をして外に出ると、朝日を浴びる銀の鱗が光る。


「エイシェット?」


 尻尾を巻き付けて小首を傾げる愛らしい仕草の後、エイシェットは嬉しそうに身を伏せて唸った。ぐるる……少し照れを含んだ言葉に、オレは昨夜の冗談が冗談じゃなくなったことを知る。


 ――オレ、エイシェットの番にされてる?!


「えっと、その」


 言わなくていいの。照れた様子で唸るエイシェットの幸せそうな表情に、つい言葉を探して迷ってしまった。だって勘違いだと言ったら、年頃の女性に恥をかかせてしまう。


 後日きちんと説明すればいい。きっと彼女もしばらくしたら、人間なんて選ぶものじゃないと納得してくれるはずだ。自力で空も飛べない種族だしな、うん。


 ぐるるぅ、乗っていけと示す彼女に頷き、背中を借りる。慣れてしまった革の綱を自分で咥えて固定するエイシェットの首筋を撫でて、準備ができたと知らせた。ばさりと翼が動く。ドラゴンの翼は広げると大きい。だが物理的に考えたら、浮力が足りなかった。胴体部分の重量を、この翼で支えるのは無理なのだ。


 それでもドラゴンは当たり前のように飛ぶ。魔力を自分達の周りに沿わせ、上手に浮力を生み出す。教えられなくても、生まれた時から備わっている能力だった。人間が言葉も通じないうちから這って、やがて立ち上がるのに似ている。彼女が羽ばたくたびに、大量の魔力が散った。


「鹿の池へ向かってくれ」


 承知したと喉を鳴らすエイシェットが、西へ向かう。朝日を正面から浴びる形だった。この世界に来て意外だったのが、月と太陽が逆方向から登ることだ。北と南の関係は変わらないのに、東と西が逆だった。しばらく方向を見間違う原因になったが、この世界に来て8年も経てば慣れるものだ。


 眩しい太陽を手で遮り、エイシェットの鱗に身を伏せる。起こしていると風が強く当たり、彼女が飛びにくいだろう。ばさりと羽ばたくたびに動く付け根の振動が、両足を掛けた胴体に伝わる。筋肉の塊のようなドラゴンは、鱗も硬いが不思議とオレを傷つけなかった。爬虫類のような体温の低さもなく、彼女の体温はオレより高い。やはりドラゴンは蜥蜴とは違う。


 続く森が切れる部分は、川や池、湖といった水辺が多い。次によく見かけるのは崖だ。池を示す丸い穴の上で、エイシェットが旋回する。


「右側に人間の集落がある。潰すぞ」


 くあああ! 甲高い声を上げたエイシェットの目元が鋭くなる。彼女は卵の頃に人間に攫われた経験があるそうだ。卵を温めていた母竜は殺され、必死で追った父竜が彼女を取り戻した。だが傷つけられた父は、エイシェットが生まれる前に死んでしまったという。両親を知る別の夫婦が育ててくれたため、エイシェットは成長できた。


 初めて会う前に聞いた話だ。それでもオレを背にのせてくれる彼女には感謝しかない。彼女が望むなら、村を焼き払う役は任せてもいいか。


「エイシェットが焼くか?」


 きらきらと目を輝かせるエイシェットが喉を鳴らし、嬉しそうに尻尾を振る。影響を受けて、彼女が大きく揺れた。慌てて革の紐をしっかり手に巻き付けたオレは、大笑いする。やっぱり魔族の方が自分に正直で、一緒にいて気が楽だ。人間の嫁は不要だな。


「覚悟も決まった。あの村だ、焼き払うぞ」


 指さした先に、不自然な森の穴がある。上を一度通り過ぎて確認したエイシェットが、口の端から炎をこぼした。ぐあっと大きく口を開き、胸いっぱいに空気を吸い込む。そして一気に下降した。体を置いていかれそうな強烈な風に逆らい、銀鱗にしがみ付く。


「全滅させろ」


 オレの声に、エイシェットは派手な炎のブレスで応えた。

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