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14.あんたも人間じゃん

「あ、あんたも人間、じゃん」


 だから信用できない。直球で言ってくれるあたりが、魔族だなと思う。これが人間なら言葉を濁すだろう。魔族の中で5年も暮らすと、これが心地よくなってくる。無駄に言葉の裏を探らなくていいし、気持ちが楽だった。


「帰れるなら帰っていいぞ」


 意地悪じゃなく、単に近くに一族がいるなら合流すればいいと言い切る。だが少女は首を横に振った。この村の住人は片付けた。逃げた者は別として、起きて立ち向かえる者はいない。


「おと……さん、おかあ、さ……っ、うう」


 村の広場へ足を踏み入れた少女は、木に吊り下げられた遺体に縋って泣き出した。男性と女性、父母か? だとしたら、この子は魔王城で保護するしかない。


 ピューッ! 口笛を鳴らすと、カインが先に到着した。崖を回り込んだようで、軽やかに走ってくる。本能的に肉食系の狼に恐怖を覚えた少女は、木の影に隠れた。だが魔獣だと気づくと、ほっとした様子で膝から崩れ落ちる。


「カイン、悪いが乗せてくれ」


「その子は……ああ、またか」


 彼女の前にある遺体で、状況を察したのだろう。それだけよく似た事例を多く見てきた。父親らしき遺体は正面から槍で突かれている。隣の女性は背中に矢を受けていた。切り付けられた痕もあった。娘を守ろうと母が覆い被さり、父はその前に立ちはだかった――目に見えるようだ。


 こうした悲劇はずっと続いていた。魔族の王が負けた。その弊害だと考えれば、原因になったオレが動いて助けるのは当然の義務だ。


「乗れるか?」


 こくんと頷いた彼女だが、振り返って両親の遺体を必死に目で追う。だが遺体を持ち帰るのは無理なので、本人の了承を得て荼毘に伏すことに決めた。吊られたまま燃やされるのは嫌だろう。無惨な魔獣の死体もすべて下ろし、近くの粗末な木造の家を壊して簡単な台を組み上げた。


 この辺は魔法と腕力で何とかなるものだ。カインも手伝ううちに、アベルの遠吠えが聞こえた。その声から状況を把握して眉を顰める。人間の集団がこの村に近づいているらしい。竜巻で巻き上げた遺体を並べ、両手を合わせて黙祷する。


「火よ、魂を導きたまえ」


 家だった台に火が灯り炎が踊る。燃えていく両親に涙を流した少女を、カインが背に乗せた。


「帰るぞ」


「悪いが先に行っててくれ。この村に向かってる人間が気になる。片付けてから帰るよ」


 ここは森の外縁だが、魔族の領域だ。逃げた連中が助けを呼んだにしては早過ぎた。この村にいた連中に用があったか。捉えた魔族目的か。どちらにしても情報が欲しい。戦える実力を身につけるため、魔王城に篭った5年で、人間側の情報がすっかり途絶えてしまった。


「情報を得たら帰るから、そんな顔するな」


 大きな黒狼の鼻先を撫でて、カインに帰城を促す。


「心配するな、アベルも残ってくれてるし」


 崖の上で見張り役をするアベルがいる。いざとなれば彼と一緒に逃げるから。そこまで言われれば、カインも頷くしかない。背に乗せた少女を気遣い、素直に駆け出した友人を見送り、オレは村人の死体を一箇所に集めた。その上に板を置いて腰を下ろし、欠伸をひとつ。


 多少骨のある奴ならいいがな。

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