後編
この作品は……
①天界音楽様主催の『メリバ企画』
②瑞月風花様主催の『誤字から企画』
③黒森 冬炎様主催の『ソフトクリーム&ロボ~螺旋企画~』
の3企画への参加作品です。
前編、後編に分かれています。
毎日しっかり漢字ドリルで練習していたので、もえは漢字が得意です。今日の漢字テストも、スラスラ漢字を書いていきます。ですが……。
――あ、まちがえちゃった――
『姉』という漢字を、まちがえて『妹』と書いてしまいました。でも、もえはあわてません。にこりと笑って、えんぴつを見ました。
「あっ、もえちゃん、出番だね!」
えんぴつは『妹』の漢字のまわりを、ぐるぐるとまわっていきました。
「ぐるぐる、グルグル、ぐるグルぐるグル、目がまわってきたら……はいっ!」
あっというまに、『妹』だった漢字が、たくさんの花の束に変わっていたのです。もえと消しゴムが「わぁっ!」と声をあげました。
「できたよ、消しゴムちゃん、うけとってね」
「えんぴつ様、ありがとう!」
もえがつかむより先に、消しゴムが花束に飛びつきます。もえはあわてて消しゴムをつかまえました。
「はなしてよ、ダメよ、この花束はわたさないわよ!」
「だれもとらないよ、それよりわたしの手からはなれちゃダメだよ。先生に見つかったら、大変だよ」
もえの言葉に、消しゴムはムーッとすねたような声をだしました。それでも、おとなしくもえの指のあいだにおさまります。
「もえちゃんは動いちゃダメだからね、わたしが動くんだから」
「わかってるよ。はい、どうぞ」
消しゴムが勝手に動いて、えんぴつがかいた花束をゆっくり消していきます。消しかすが少しできて、消しゴムの角もちょっぴりまるくなりました。でも、消しゴムは幸せそうです。
「あぁ、うれしい。えんぴつ様、ありがとう」
「どういたしまして。さ、もえちゃん、正しい字を書いてね。テストが終わるまで、あとちょっとだよ」
えんぴつにいわれて、もえはいそいで正しい字を書いていきました。
「ぐるぐる、グルグル、ぐるグルぐるグル……ふぅ、ぼくもずいぶん短くなってしまったなぁ」
えんぴつキャップをつけたえんぴつが、いつものようにまちがえた字を花束に変えて、ぽつりとつぶやきました。えんぴつがしゃべりかけてきてから、もう二か月もたっていたのです。そのころには、えんぴつも、もえの親指よりも短くなっていました。
「えんぴつ様はまだまだこれからですわ! ……でも、わたしは……」
ケースもなくなり、ビー玉よりももっと小さくなった消しゴムが、ゴシ、ゴシと、よわよわしく花束を消していきます。そんなえんぴつと消しゴムを見て、もえは思わずつぶやきました。
「やっぱり、二人とももうふでばこの中で休んでてよ。ママにいって、新しいのを買ってもらうからさ」
その言葉に、えんぴつも消しゴムも、声をあわせていいました。
「ダメッ!」
「でも、二人とも、もうボロボロじゃないの。そんなんじゃ、最後は消えてなくなっちゃうよ。それより、わたしのふでばこの中で、ううん、机の引きだしでもいいよ。その中でゆっくり休んだほうがいいでしょ?」
心配するもえでしたが、えんぴつも消しゴムもゆずりませんでした。
「もえちゃん、うれしいけど、ぼくは最後までもえちゃんの役に立ちたいんだ。それに、最後まで消しゴムちゃんに花束をおくりたい。だってぼくも、消しゴムちゃんのことが……」
「えんぴつ様……。わたしも、最後までえんぴつ様の花束を受けとりたいわ。最後、消しかすとなって消えたってかまわない。だってわたしも、えんぴつ様が大好きなんですもの」
よりそうように、えんぴつと消しゴムは重なりあいました。もえはおずおずとたずねました。
「……二人とも、怖くないの? 消えちゃうのに、怖くないの?」
えんぴつと消しゴムは、ゆっくりもえにむきなおりました。
「怖くなんてないよ。だってぼくの最後の花束は、消しゴムちゃんがきれいに消してくれるはずだから。消しゴムちゃんとひとつになれるんだ、怖くなんてないよ」
「わたしも、怖くなんてないわ。えんぴつ様の花束を、最後まで受けとることができるんですもの。怖くなんてないわ」
こうなってはもう、もえにはどうすることもできませんでした。むずかしい顔で、えんぴつと消しゴムをかわりばんこにみるもえに、えんぴつが安心させるように続けました。
「大丈夫だよ、ぼくたちはぐるぐる、グルグル、ぐるグルぐるグルって、ぐるぐるのうずまきになって、ひとつになるんだ。もえちゃんもきっと、大人になったらぼくたちの気持ちがわかるよ」
「そうかなぁ……?」
「そうさ。ぼくたちは、もえちゃんが大人になるまでいっしょにはいられないけど、でも、忘れないでね。まちがえても、ぐるぐるいっぱい考えれば、そこからお花はさくんだよ。そうして考えたあとは、ぼくたちのこと、ちょっとだけでいいから思い出してね」
もえは答えるかわりに、短くなったえんぴつと、小さくなった消しゴムをつかんで、ゆっくりとほおずりしました。
「もえちゃんったら、くすぐったいわ」
「二人とも、ありがとう。……なくなっちゃっても、わたし、二人のこと忘れないよ」
あたたかな涙がぽとり、ぽとりと落ちて、えんぴつと消しゴムをぬらしました。
えんぴつは、いつものぐるぐるの呪文をとなえて、最後は書けなくなってしまいました。えんぴつのかいた、最後の花束を消したところで、消しゴムも消しかすとなって消えてしまいました。
最後までお読みくださいましてありがとうございます(^^♪
ご意見、ご感想お待ちしております。
また、この場を借りて素晴らしい企画を運営してくださった、天界音楽様、瑞月風花様、黒森 冬炎様に感謝の意を表明いたします。本当にありがとうございます(^^♪