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頁002 団欒の章──②お誕生日会

 多忙な一日は豪勢な晩餐によって締めくくられる。


 暖炉と赤い絨毯、壁に飾られた数々の壁画が、アルヴィレッダ家一同の夕食を見守る。


 今夜は久々に一家全員が時を同じくして食事が出来るということもあり、アヌリウムもリーベも非常に楽しみにしていた。


 それほど長くはないが高級な素材を使っているテーブルに並ぶのは、自らが手伝い、母や使用人たちが手掛けた豪華で色とりどりな料理。


 ただ、いつも以上に品数の多いラインナップと、真ん中に置かれた大きなケーキを見てアヌリウムは隣に座るリーベに聞く。


「今日って、何かおめでたい日でしたっけ?」


「もう、お姉様は何をおっしゃっているのですか?」


 質問に質問で返され、戸惑うアヌリウム。

 すると、向かい側に座る両親が筒状の魔法器を取り出し、


「お誕生日おめでとう、アヌリウム」


「生まれてきてくれてありがとう、アヌちゃんっ」


 祝いの言葉と共に、虹色の光が溢れ出して場にさらなる彩りを与える。


 七色の光は、次第にアヌリウムの幼少期や中等魔法学園時代、そして今に近しい赤髪の長女の姿を映していく。


 続けて、部屋の隅で待機している使用人たちも拍手を鳴らし、「おめでとうございますっ!」と口々に祝いの言葉を並べた。


「本当は街の皆や馴染みのある家の奴ら、俺や母さん、娘たちの友達を呼んで盛大に祝ってもよかったんだが……そうなると俺達が満足に祝うことが出来ないだろう?」


「だからお父さん、今日は家族で久々に食事が出来ることもあって、物凄く楽しみにしていたのよ?」


 照れ臭そうなツェギルの説明に、フレミィは笑みを交えて付け足す。

 ふと、隣に座るリーベが裾を引っ張ってケーキを指先で示して言った。


「今日のためもあって、わたしは魔法のお勉強、頑張ったんですから」


 リーベは、何も無いケーキの上に向けた指先から十五の淡く小さな火の玉を発し、ケーキの上に均等に浮遊させていく。


 アヌリウムは、その光景を手で口を覆いながら見ていた。


 火属性魔法における基本の操作術式。しかし、そこに微細な操作や調整を加えてモノにしているのだ。


 ただ発動するだけならば基礎中の基礎。だがそれを我流で操り、展開していくのはリーベの年代では希少な人材に含まれるだろう。


 やがて、ケーキの上に十五個の火の玉を綺麗に並べ終えたリーベは、アヌリウムを見つめて、


「お誕生日おめでとうございます。お姉様」


 と華やいだ笑顔で言った。アルヴィレッダ家の由緒正しき令嬢として、魔法学園に通う優秀な学生として、一人の魔術師として。


 誇りと重圧に忙殺される日々の中、自らの誕生日さえも忘れてしまっていたアヌリウムは、不意をつかれたことも相まって、自然、涙を零していた。


「アヌリウム!?」


「どうしたの? どこか痛いの!?」


 父ツェギルと母フレミィが顔色を変えて心配してくれる。でも、リーベは手を握りながら、


「お姉様は嬉しいのです。十五になっても欠かさずにお誕生日をお祝いしてくれる、この家の暖かさが……。そうでしょう? お姉様っ」


 握っていた手でそのままアヌリウムの腕を掴み、抱き寄せるリーベ。


「そうですわ……わたくしは、本当に幸せです。この家に生まれてよかった」


 今度は、ツェギルとフレミィが涙する番だった。それも娘以上に号泣し、料理が濡れないか心配になるほどに。その傍らで、使用人たちももらい泣きをしていた。


 こうなると、肝心の食事が進むのかどうかが不安になってしまう。

 そこで、アヌリウムは閃いた。


「そうですわ。折角、可愛い妹が努力の成果……その一片を拾うしてくれたんですもの。姉として、わたくしが何もしないわけにはいきませんわ」


「え、でも今日は、お姉様がお祝いしてもらう側ですよ?」


「心配いりませんわ。ちゃんと、この場に相応しい芸をお見せしますので」


 そう応じるや否や、アヌリウムは椅子を引いて立ち上がり、ケーキの上に浮かぶ十五個の火の玉に向けて手のひらをかざす。

 その直後、赤く光る魔法陣が出現し、ケーキを丸ごと囲む。


「わたくしが扱う魔法は既に火属性の上位魔法……でも、それに含まれる発動動作を引き金として発する、術式の研究も同時に進めておりました」


「まさか、その年でもう、お前はあれを……」


 魔法学の最先端を研究するツェギルだからこそ分かる、アヌリウムが披露しようとしていることの特異性。


 フレミィもリーベもよく分かっていないという様子。だからこそ、この場で成し遂げる意味がある。


 魔法陣を彩る赤が濃くなるのを確認すると、アヌリウムは顔をケーキに近付けて赤髪を耳にかきあげ、


「ふぅっ」


 息を吐き、火の玉を一つ、消した。


 その瞬間。


「わあぁっ!」


 歓声を上げたリーベが見上げる先に、綺麗な夜空が広がっていた。


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