第七話 飛空艇に乗って
評価もらったぜ、ひゃっほー。
ということで、少々調子に乗って本日三話公開しちゃおう。
VR日間ランキングを目指すんだ……。
現実の季節とリンクした夏の青空。
仮想の空には木造の船と丸い飛行船が何隻、真っ白な入道雲と一緒に青い海に浮かんでいる。
魔導船と呼ばれる空飛ぶ船はジェットエンジンの騒音もなく、魔法が吐き出す風の渦がひこうき雲を残して飛び去って行く。
一方地上には耳が長かったり、獣の耳を生やしたプレイヤーが各地に旅立つため空の港に行列を作っていた。
これこそまさに幻想世界の空港だ。
「(よう、ストーカー女。またか?)」
その中に見覚えのある金の狼の耳をぴょこんと生やした少女もいた。俺はその女、ルルエッタの隣で声を抑えて話しかける。
ルルエッタは昨日の見た目装備とは違い、レザーアーマーに刀身が反った脇差らしき刀を二本腰に差している。
彼女も周囲の耳を気にして小声で俺を急いで制止しようとした。
「(その不名誉かつ誤解を招く言い方は止めなさい。今回は違うわよ)」
「今回は……な。ちゃんと遊んでるみたいで安心したぞ。『ゲームは楽しまないと』――な?」
と、隠すのを止めた俺は少し離れたルルエッタのフレンドを見ながら言う。
どうやら俺達が隣同士で話しているのも目に入っておらず、空に浮かぶ大きな人工物に目を奪われているようだ。
「うぐっ、――そうね。でも、ここで会ったのは偶然なの。サクラと一緒のクランなんだから仕方ないでしょ」
「まさか妹とリア友だとは思わなかった」
「私もよ。まさか早k――サクラの実の兄があんたとはね」
早紀のアバター、サクラは耳の長い種族、エルフを選んでいた。
アバター名と容姿は事前に教え合っていたから、偶然出くわした時は思わず笑ってしまったさ。――サクラの後ろで必死に顔を隠そうとして、特徴的な耳と尻尾が丸見えなルルエッタにな。
「どうしたの二人とも?」
サクラは裾の長いローブと長い金髪を翻してこちらに振り返る。背中には身長より少し短い杖を背負い、純魔法使いビルドなのがわかる。
「何でもない。お前の学校生活に問題ないか聞いてただけだ」
「ちょっ、ちょっと! あたしは品行方正よ?」
サクラの上ずった声で、一緒に空を見上げてたリア友らしい横の二人が吹き出す。
「まあ、確かに悪い事はしていませんわ」
妖精の羽が生えた人間大のピクシー種、おっとり系緑髪のローブを着た妹の友人シルフィは含みのある言い方をし、
「良い子ではあると思うけど優等生じゃないよね」
際立った弱点がない代わりに長所も少ないヒューマン。黒髪ボーイッシュでアニメ調な女騎士の鎧を装着したアオイがきっぱり言い切った。
優等生というのはシルフィの方が似合う言葉だろう。ルルエッタは――昔の性格と見た目ならぴったしかもしれんが……。
「うまく猫を被れてるんだな。兄ちゃんはそれを聞けて安心だ」
「まるで家でそうじゃないみたいな事言わないでよ、お兄ちゃん」
「ん? 昨日一日、寝間き――」
「わーわーわーわー。風評被害でーす。ちょっと黙ってよっ?」
サクラは必死に大声で俺の真実を掻き消そうとするが、この春に知り合った三人は「やっぱりな」という目をしている。
「それよりお兄ちゃんはどこにいくつもりだったのかな!?」
ついさっきアバターを作ったばかりの俺に、サクラはどこに行くのか尋ねてくる。
チラッとルルエッタの方を見た俺は、「……北の方だ」とだけ答えた。
「北?」
曖昧な返答にサクラはもっと詳しく聞こうとするが、俺はそれ以上話すつもりはない。
しかし、俺の目的地を予想できていたルルエッタがその場所を洩らした。
「『彷徨うエルフ』でしょ」
「ああ! 最近噂になってるファウターの都市伝説?」
『廃墟となった都市で、グラフィックがバグったエルフが彷徨っている』
何かのイベントの前振りか、未知のシークレットクエストか。
俺と同じ、ゲーム好きな仲間達が話していのを聞いたが……、どっちも違う。あれは……ただ迷子なだけだ。
「ふうん、噂だとめっちゃ美人だって話だっけ? ふうーん」
俺の周囲をぐるぐる回るサクラ。蚊のように周囲を飛び回る彼女の頭を捕まえて俺は言う。
「何か言いたいことがあるのか?」
「いいえー? べーっつに?」
「ならその気持ち悪い、『わかってますから』って顔をやめろ――。ちっ、俺はもう行くからな?」
サクラの頭を手放し、俺は北に向かう魔導船を探すために別れを言って離れようとした。
そんな俺の後ろからサクラが、
「うん、行こっか」
と言って、ついてきた。
「ああ?」
どういうつもりだ、そう問い掛ける前にアオイ達がどうするか相談を始める。
「仮想世界で都市伝説見に行くのもいいんじゃない? 私は賛成、サクラのお兄さんなら一緒に遊んでも楽しそうだし」
「行くのはいいけど、わたくし達のレベルでも行ける場所なのかしら?」
「油断とトラブルが無ければ問題ないと思うわ。それにサクラのお兄さんもいるし」
「――おい、ルルエッタ!」
アオイは面白そうだから、シルフィはルルエッタの太鼓判を聞いて賛成に周る。
ルルエッタは……聞くまでもない。そもそも初心者三人に経験者であるルルエッタは保護者として判断は任せるつもりらしく、助言をするだけだ。
「あら、可愛い現役女子高生四人と遊べるのよ。泣いて喜んだって良いのだけど?」
「姦しい娘、四人の間違いだろ。――そもそも俺が何しに行くのか知ってるんだろ?」
「ちゃんと邪魔にならないようにしてあげるわよ。私だってアウラさんのこと、心配してるんだから……。でも道中ぐらい楽しんだってあの人も怒らないわ」
「――勝手にしろ」
負い目のあるルルエッタに強く言えず、俺は仕方なく騒がしい同行者を受け入れることにした。
それよりご馳走の匂いを嗅ぎ取った妹たちに、ルルエッタと一緒に囲まれるのは御免だ。
「ルルちゃんや、随分お兄ちゃんと仲が良いようですが?」
「えっ、あ……これはちがっ、助けてっ、カオル!」
「まあまあ、呼び捨てなんて。ルルさん……殿方には興味が無いみたいなこと普段言ってたのに。こんなおもしろ――、ごほんっ、大事なお話をわたくし達にしてくれないなんて、ひどいじゃありませんか?」
「素直に言った方が傷は浅く済むと思うよ? ルル」
おまえの犠牲は忘れない、ルルエッタ。できれば――俺が目的地に着くまでヘイトを稼いでくれると助かるよ。
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