第十二話 山に咲き誇る花々
さて、どうしましょうか。
悩む俺の眼前ではオーバーセンスの連中が暴れてる。大五郎とアーサー達の間にある戦線の穴を埋めるようにだ。
空を飛ぶやつらは次々に姉御とドレイクに撃ち落とされ、地上ではグレンが大剣をぶん回してモンスターを蹂躙していく。
「あー、いきなり丸投げしたっすけど、何か手伝いは要ります?」
「いらね。こいつはあいつより楽だと思うぞ」
俺は白いエルフ、アウラを指さす。正確にはその腕に嵌まっている輪っかなのだが。
アルコバレーノのリチャージに入ったトモエを除くメンバーが戦っている中、アウラはロゼの触手を使っている。
外野のプレイヤーからは気色悪い雄叫びのようなものが聞こえた気がするが、うちの連中もギョッとしている。
「リーダー……、アウラが這い寄る混沌側になってますが?」
「あれがこいつのお仲間で新しくナンバーズになったロゼだ」
楽しそうにロゼと一緒に触手を振り回すアウラ。今は消耗を抑えて戦っているから触手は一本しかないのだが、最大で八本まで出せると聞いたらジョンはどんな顔をするだろうか。
「ティターニア、同居人が持ってるコードはわかるか?」
(状態に関わるステータス、ボクとは逆。それと名前もつけてあげて)
「っつ、わかったわかった」
注文が多いことで、まあ仕方ない。
これ以上詳細に思念で会話するのは厳しいか。あくまで俺の異能は残留思念や物から何某を読み取ったりするのが本来の能力。知性を持つ相手から直接言葉を読み取るのは情報過多で脳に負荷が掛かり過ぎる。
「『ティル・ナ・ノーグ』を使う。ティターニアはフェイのサポートを、コントロールの必要はねえ。好きに暴れさせてやれ」
ティターニアは仕方ないなあ、という嬉しそうな感情を送ってきて静かになった。一方のフェイと名付けたビジターは戸惑っているのを感じてる。
「前にオレが使った時は敵味方関係なくも巻き込まれたんで気を付けてくださいよ?」
「巻き込まれるのは諦めろ。かわりにフォローを頼んだからな」
無邪気な妖精、それがフェイに抱いた俺のイメージだ。善悪を持たず人を困らせるのが好き、だからビジター2に分類されてしまった。今は久しぶりの自由に興奮している――といったところか。
ティターニアも近い性質を持つが、俺と何年も人の輪に居た彼女は人を理解している。今もその経験を自慢げに自分のほうがお姉さんなんだぞと胸を張ってる姿が見える。
俺から言わせるとどちらも大差ない悪戯娘だと思うがな。
「アーサー、大五郎! 俺がバフをばら撒く、その間に陣地を作れ」
「いいぞ」
「わかりました」
うちのクランの連中にはわざわざ伝えない。どうせ言わなくても勝手に動く。
俺は左指のアクセを一つ、状態異常対策の装備に換える。
「ティターニア、フェイ」
指輪を付けた手のひらを上に向けて前に差し出し、二人の妖精の名を呼ぶ。眼鏡のレンズ越しに同じ顔の妖精が二人、姿を見せた。
アウターワールドに慣れた様子の妖精が周りをキョロキョロしろ落ち着きのない妖精を導く。
トモエやシルフィのようなファウターの妖精族ではない。
まるで童話に出てくるような小さな小さなフェアリーが俺の手に乗った。
不穏な気配を察知したアンズーが俺に襲い掛かってくるが、ジョンの短刀に切り伏せられる。そのまま俺に向かってくる敵はジョンが処理し続ける。
「妖精郷を創れ――『常春の国』」
俺の命令で、ティターニアに背中を押されたフェイが最初に動いた。
戦場を飛ぶフェイに流れ弾のように通過したアンズーが衝突する。――が、それは俺の付けているモノクルの中だけの映像だ。
確かに触れたはずのフェイは何もなかったかのように飛び続け、戦場の中心でくるんっと一回転した。
するとフェイを中心に幻の花が咲き広がる。
『常春』に相応しい色鮮やかな花々は、全てのプレイヤーとモンスターにも見えていた。認識したのはいいが、同時に悪戯妖精の悪さも広まっていく。
「なんだ!? 暗くなったぞっ」
「あひゃひゃひゃひゃ」
「こいつラリってやがる」
「ちょっと、瀕死状態で毒は死ぬって!」
この幻想的な風景とは真逆に、プレイヤー側が阿鼻叫喚と化していた。
「やっぱり、こうなったっすか」
「しゃあねえよ。あいつはまだ善悪もわからん赤ん坊。誰かがルールを教えてやる必要がある――まっ、それもこのイベントが終わってからの話だ」
フェイの悪戯は止まらない。楽し気に遊ぶ妖精の姿は画になるが、巻き込まれたプレイヤーとモンスターは堪ったものじゃない。おかげで戦場では状態異常にかかっていない奴の方が少ない。
ジョンも当然、俺と同じように状態異常対策はしているので平然とこれを見ている。
「ティターニア」
宙に浮きながら腹を抱えて笑ってるバカにそろそろ動けと睨みつけた。
わかってまーす。
そうティターニアがハンドサインを俺に送ると、フェイの居る方へと向かっていく。
そしてフェイが手当たり次第に悪戯して回るのについて回り、ティターニアが回復と同時にバフも付与していく。
「ちょ、なんで俺だけタライが――痛いっす!」!
「お前、ティターニアに何かやったのか?」
フェイのフォローをするティターニアだが、自分の悪戯もしっかり実行している。
グレンやアーサーに水をひっかけようとしたり、プレイヤーの耳元で音を立てて驚かしたり。
なんともかわいらしい子供のイタズラ程度なのだが、ジョンにだけは水の入った金属のタライを落す所業だ。
「前に『ティル・ナ・ノーグ』を使って酷い目にあって、途中で止めてからは使ってないっす」
「菓子は?」
ティターニアの魔法はマナ以外に甘い物が必要となる。それをちゃんと渡したのか聞いたら、ジョンは顔を逸らした。
「……それが原因だな。ティターニアが前回も被害を抑えようとフォローしてたなら、報酬を渡さなかったら怒りもするだろ。――っと、二人ともお疲れさん、報酬は饅頭でいいか?」
こちらに戻ってきた妖精コンビの片割れ、ティターニアは「それでいいよ」と手を振る。ジョンも二人が戻ってきたのに気づいて必死に謝り始めた。
「すっかり忘れてたっす。今度リーダーに何か渡しておくので許してもらえないですかね?」
ジョンの謝罪に今はお許ししていただけるようで、ハブられてたバフをもらう。
最後の仕事も終わって俺がトモエの作った饅頭を一つ渡したら、ティターニアが「一緒に食べよ?」とフェイを誘う。ティターニアが貰ったご褒美を半分こにして、大きい方をフェイに渡すあたり彼女の方がお姉さんと言い張るのもわかるな。
「そんじゃま、俺たちも混ざりに行くか」
戦いは次のステージに進む。
アンズーを無限に吐き出し続けた異界の穴から、新たにアンズーを丸呑みできる大きさはある鳥の頭部が姿を見せたのだった。




