第十一話 Numbers.Ⅵ『ティターニア』
イベント最終日である六日目正午。
最終決戦の時間になるまで、雑談に興じていたら、
ゴゴゴゴゴゴッ、と島全体が揺れ始めた。
立っているのも厳しい揺れだ。テントは崩れてその機能を奪われ、俺たちは手を地面に着いて揺れが収まるのを待つ。
「地震には慣れてるが、この規模は本能的に怖いな」
そのまま地べたに座り込む俺らはイベントの進行を眺めていた。七色の穴からは我先にと獅子の頭が飛び出し、地面と天井を埋め尽すアンズー。
「オレとしてはこの揺れでここが崩落しないかのほうが心配っすよ――どうっすか?」
「特に危険は感じねえな」
「あざっす」
今にも崩れそうな洞窟は大丈夫なのか、ジョンはグレンに確認を取る。
わざわざ自分の持つ直感スキルより、グレンの勘を頼りにするジョンにドレイクは呆れている。
「お前は直感スキルを持ってんだろ」
「ゲームの直感よりグレンの勘のほうが精度が上っしょ」
「お主らだらだら喋ってないで動き始めたらどうだ。そろそろ戦闘が始まるぞ」
奥の壁が崩れ落ち、その先は空も見える外へ繋がった。
「頂上決戦か――おもしろい」
鳥の巣みたいな寝床からアンズー達が飛び立っていく。さらには遠くから聞き覚えがある雄叫びがいくつも聞こえてくる。
アンズーだけじゃない。ネームドモンスターあるいはそれ相当のボスも祭りに再登場しているのかもしれない。
「その頂上は山の上という意味じゃないがな」
「わかってるさ」
騎士団風の装備で揃えたアーサーのクランがすでにアンズーの波を堰き止めるため、最前線に進軍を始めている。その横には統率は取れてるが、統一感の無い大五郎のDGが並ぶ。
二つのクランは並んでいる――が、その間には大きな空白があった。わざわざ穴を埋めようとするほかクランを追い払ってまでだ。
なぜ戦線に穴が開いたままにするのか。そんなもん考えるのも野暮だ。
「リーダー、突っ込む前に恒例のあれをやりましょうよ」
「そうだな。折角だ、頼む」
ジョンとグレンが俺の号令を待つ。他の連中もそれを聞いて、そうだったと思い出した。
「あいよ――」
期待されちゃあ、しゃあねえ。
「お前ら! アイテムの在庫と装備の耐久は問題ないか? インベントリの空きは十分か?」
仲間はデッドエンドを――、アズライールを――、ロサアイアスを――、アルコバレーノを――、ワンダーフェイスを、ローゼリアを――、ナンバーズを構えて応と答える。
それを聞き届けて俺は、
「オーケー、なら暴れろ野郎どもっ。好き勝手にやれ! 俺らの舞台を派手に染め上げろ!」
男共は高ぶる感情を声にして立ち上がり、最前線へ進む。
「いつの間にか特別仕様に戦場が変わってるわねね。殲滅級の魔法でもなければ手加減の必要はなさそう」
洞窟の壁に流れるマナの流れを見て、トモエはバトルフィールドの変化を感じ取った。アンズー達、精霊の力で強化でもされているのだろうか。
俺たちの開戦の狼煙を上げるのはアルコバレーノを持つ者の役割だ。
トモエは杖を振りかざし、起動キーを口にする。
「解き放て、アルコバレーノ」
神の鉄槌が振り下ろされる。
人間よりも大きな魔法陣が七つ、空に浮かび上がる。
「墜ちろ、『メテオフォール』」
地属性の上位魔法にある、メテオレインとは桁違いのサイズの巨岩。それが炎を纏って地上へ降り注ぐ。
まるで終末世界を思わせるような、血と炎で視界が赤く染められる。
「リーダー」
「なんだ?」
「こいつを渡しときます」
戦場に入ろうとする少し手前。ジョンが俺に何かを投げてきた。
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それはジョンの持つモノクル型のナンバーズだった。
「どういうつもりだ」
「リーダーのスキルならわかるでしょ?」
ジョンは答えを言わず、異能を使えと言う。だから俺は手元の片眼鏡に意識を戻すとその理由がわかった。
装飾でありティターニアのコアを埋め込んでいる鎖の部分に、俺の知らない宝石が追加で嵌っている。
(あそぼ?)
それに気づいた瞬間、何かが俺の体の中に入り込もうとする気持ち悪さと視界が真っ黒になる。
(それじゃだめだよ)
――が、それをティターニアのビジターが守ってくれた。
他のナンバーズにはいなかったセクター2のビジターがいる。
「――なるほど」
「オレには手が負えないっす――いえ、リーダーじゃないとダメなんすよ」
(ねえ、ボクの大好きなトモダチ。この子にも教えてあげて、人との関わり方を)
「あいよ」
二人の願いを聞いて、俺はモノクルを片目に装着した。




