第三話 ジャンル違い
ゴリと呼ばれるのも納得な地面が割れるほどの馬鹿力。まともに喰らえば、そのまま回復する間もなくキルまで持っていかれるな。
だがそれも当たれば……の話だ。
口に入った粉塵を吐き出し、土煙の中でルードは舌打ちを鳴らして立ち上がる。
「ちっ、どうやって回避した」
「言っただろ、ここはガンナーズじゃない。FPSのつもりで戦って勝てるほど、ファンタジーは浅くないぞ?」
俺の手元に戻ってきたワンダーフェイスを向けて言い放つ。どうやらこの男はファウターに不慣れらしい。ルードは「テレポート系のPSIか」とガンナーズ側のシステムから回避の種を推測している。
短剣使いはステップと転移アーツで敵を翻弄する。これは基本も基本のスタイルであり、最低限知っておくべき基礎知識だ。
ガンナーズとファウターでは色々違いがある。魔法が存在しない代わりに、ガジェットと呼ばれるツールであったり、超能力のような力が習得できる。
わかりやすくファウターの対人は格ゲー、ガンナーズは近代異能力FPSに近いジャンルとでも説明したほうがわかりやすいだろう。
「短剣のアーツだったか? 使わねえアーツまで覚えてねえよ」
「次からはもう少し勉強してくるんだな」
「これでも一週間ぐらいはこっちで戦闘してんだよ」
軽いジャブからワンツーで繰り出すガントレットの拳をいなして、アーツで防御が薄い布装備の胴体を狙う。
「『ヴェノムバイト』」
「さすがにそれは当たらねえよ」
「ははっ、知ってるさ――『クイックステップ』」
わざと見せたアーツの硬直を狙って、ルードは足払いで俺の体勢を崩そうとする。もちろん、それを読んでいた俺はステップで回避し、男の横から拳術を叩きこんだ。
「ぐっ、誘われたか」
「これが対人の読み合いってやつだ」
俺はしばらくルードと名乗る男で遊んでいた。ガンナーズには無い回避や防御のテクニックを駆使する俺にとってこいつは未熟であった。
とはいえ、反射神経の良さや思い切りの有る動きはおもしろい。こいつはコツを掴めばまだまだ強くなれる。
「『疾風飛連脚』
「付け焼刃はやめとけ。ステップ回避は練習無しでタイミングを掴めねえぞ」
ルードが戦いで初めて格闘術の足技を使う。風を纏った脚の連続蹴りに俺も軽々回避し、キャンセルできなかった硬直を狩る。
アーツを使わない対人ビルドもあるが、逆に対人でアーツを使うためのテクニックもある。今使ってるステップ系のスキルで硬直をキャンセルする技術だったりがそれだ。
そんな知識の無い素人と俺じゃあ、格ゲー熟練者とコンボも覚えてないライトゲーマーぐらいの差がある。
「くそがっ……、くくっ、くは、がはははははははっ。これだからやめられねえんだよ、戦いをよ」
ルードは悪態をついて岩肌に座り込む。そして込み上げてくる感情を抑えられず凶悪な破顔を見せて、大きな笑い声をあげる。
「諦めたのか?」
ひとしきり男の声が木霊した後、武器を収めて俺は話しかけた。
「オジキに『負けたら潔く認めろ』って言われてんだ」
「途中で諦めるのと、負けを認めるのは別だと思うが?」
潔いか諦めが悪いかを判断するのは難しいが、そもそもこの男は勝ち目がないから諦めたという顔ではない。
新しい玩具を見つけた子供の目をしている。貪欲に技術を取り込む姿勢を見て、俺はルードの警戒度をさらに上げておく。烏もいい人材を見つけたな。
「そもそもてめえは全く本気じゃねえだろ」
「だからこそ、なんだがね」
億劫な気持ちを隠しもせず、ルードは勝負になっていないことを指摘する。自分の力不足が不満で、さらに俺のスイッチが入っておらず遊んでいるのが気にくわないと。
ジャイアントキリングを狙うならそういった油断を利用すべきだろうが、別に俺はこいつを舐めてはいないから無理な話か。
「別にいいさ、オジキも今回は顔見せだって話だからな。次で勝つ」
「はははは、なるほど。ってことで引き取ってもらえるかい」
俺は振り返りアウラ――の後ろで観戦していたギャングビーストのメンバーに話しかける。
「お二人とも元気そうで」
ルードが現れた岩の上にいつの間にかプレイヤーが一人座っている。
頭に被るフードは獣人の耳と思われる部分が盛り上がり、お尻からは先っぽの白い尻尾がぶら下がっている。さらに髪は稲穂色なのがフードの隙間から窺える。
こいつは仲間内から、そのまんまフォックスと呼ばれる狐の獣人だ。
「カレと遊んで頂いたようでありがとうございます。その子は少々血の気が多くて困っていたんです。それとHackクン、お久しぶりですね」
「おう、退屈させてたか?」
「大変に……。『山の翁』は根暗、『トラブルシュータ―』は素直過ぎる。ガンナーズアウターのクラン抗争はあなたたち『オーバーセンス』が消えてからつまらない小競り合いでしてね。配信業で稼いでいたワタシも――それはそれは」
フードの中で怪しく光るアンバーの瞳に影が差す。君が不在のせいで撮り高が減って大変でしたと、乾いた笑いが怖い。
昔の俺が面白がって、配信に使えそうなネタ装備だったりをフォックスに売ってたりしていた。それが突然連絡がつかなくなったのだから申し訳ない。
「あーうん、すまん。あんたはお得意様だったからな、ほんとすまん」
「いえいえ、アウターワールドに帰ってきたってことは――また依頼を受けてもらえますね?」
「イエッサー」
「ご主人よ……」
アウラに呆れられても、有無を言わせない圧力に俺の返事はイエス以外許されなかった。
視線を逸らしながらも了承した俺に満足したフォックスはどんより暗いなオーラを霧散させ、思い出したように話を再開する。
「そうそう、ルード君に燃料を投下してもらったお礼にちょっとした情報提供を」
「なんだ?」
「お二人もアンズーの群れに襲われたと思いますが、正規ルートと思われる物が別にあります」
試すような視線を感じる。フォックスは俺の解答が聞きたいらしく、そこで話を一度切る。
登山ルートが違う、なんて答えじゃないだろう。――となると、
「山の中か」
それを聞いたフォックスは「大正解」と答えて、とある方角を指さした。
「あちらにダンジョンの入り口が隠されています。もちろん我々はまだこの辺りで遊んでいるので先がどうなってるかは知りませんが」
「それで十分だ。ちなみにその入り口は?」
狐は入口は隠されていると言った。ただ歩いているだけでは見逃すかもしれない。尋ねられたフォックスは俺にパートナーの有無を尋ね返す。
「こいつか?」
『神隠し』で隠れていたシラユキを呼び出し、それを見たフォックスは大きく頷く。
「その子が入口を見つけてくれますよ」
「そうか。ならこれで貸し借りなしってことで、サンキュー」
ルードに回復アイテムを投げるフォックスの横をすれ違い、俺は『彼女』が指さした方へ進んだ。




