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第五話 バグメイカーの由来

 ゲーム開始当初のクラフトマンは自分の工房どころか道具も満足に揃っていない。


 普通は生産ギルドでクエストでも受けて、レクチャーを受けつつ道具を揃えるのが最初の一歩となる。


 そのニュービーの道順を無視して、俺は道具も揃った貸し工房へやってきた。


「さあ、入りましょうか」

「――おい」

「何?」


 まるで自分もパーティーメンバーかフレンドだとでも言いたいのか。ルルエッタは素知らぬ顔で借りたばかりのプライベートエリアへ入ってこようとする。


「『何?』――じゃねえよ!、なにちゃっかり、一緒の貸し工房に入ろうとしてんだ。貸し工房はプライベートエリア! 当然のようにストーカーが入ってこようとすんなよ!」

「……ボソッ(生産風景を見たら一発でわかるのに)」

「よし、お迎え(運営AI)を呼んでやるから――帰ろうな?」

「ペナルティエリアにぶちこむつもりでしょ。さすがにそれはお断りよ」


 最初から運営を呼ばれたら、即アウトなルルエッタはさすがにまずいと思い外に出ていこうと俺から離れていく。


「受け取りなさい、付きまとった迷惑料よ。――それ、大事な物なんだから大切に扱ってよね」


 視界の端でシステムアナウンスがピコンッとSEを鳴らして存在を主張する。


 メニューを開くとフレンドのタグにNEWのランプが光ってる。


 タグを開くとルルエッタのフレンド申請と、『迷惑料』として送られてきたアクセサリーとポーションが一つずつ。


「三年も経つと人間変わるんだな。あの内気っ娘が……ね」


 嬉しそうに耳と尻尾を動かしスキップで出ていくルルエッタを見送って、俺はプライベートエリアである貸し工房に入った




 仮想世界にも関わらず埃臭さを感じる、そう勘違いしてしまうほどボロボロな工房。金床には小さなひびが入っており、金槌は錆らしきものを削った後がある。


「これはまた……道具一式揃ってる事が嬉しくて涙が出そうだ」


 最低レベルの設備を見て、俺は思わず皮肉交じりな感想が出てくる。


 使ってたら火災が起きないか不安になる有り様だ。まあ、一番安い貸し工房がぼろっちいのはわかってたさ。


 実は最低ランクの貸し工房を借りるのは昔を含めて始めてだ。生産ギルドで腕を挙げるのが普通と言った通り、わざわざギルドより劣る工房を借りようとは思わない。


「嘆いていても仕方ねえ。とりあえず武器だけ作ってあっちに拠点を移すか」


 さすがに現実と同じ炉はプレイヤーが扱うには難しいからか、最初から魔法で動かす炉、魔法炉が用意されている。


 それに火をくべて、買って来た鉄鉱石をドバドバと投入する。


 ここから鉄を製錬して、成形して、なんちゃらかんちゃらする必要があるが――そんなもの省略だ。


 麗しくも美少年でもない、ただの男子大学生の鍜治風景を説明してもしかたない。



 出来上がりましたは平凡な二本の鉄製短剣。出来は微妙だが繋ぎならこれで十分だろ。


 なにせ素材は鉄鉱石とその辺の雑魚から取れる魔石だけ。鉄装備はお手軽に作れるが、魔法関連との相性が悪くエンチャントスキルの入る容量が小さい。


 これの二つ上が魔鉄という魔法金属になり、それ以降できる事が極限に増えるんだが……。まっ、ここまでが鍜治における初心者お試しコースって訳だ。


 そんなわけで出来上がった短剣の性能がこちら、


 アイアンダガー 品質:B 状態:新品


 下級斬撃強化:Ⅰ

 下級軽量化:Ⅰ

 下級属性付与・火:Ⅰ

 リターンハンド:Ⅰ

 インパクトショット:Ⅰ

 初級双剣術:Ⅰ

 初級短剣術:Ⅰ

 初級投擲術:Ⅰ


 アイアンパリィナイフ 品質:B 状態:最高


 下級属性付与・雷:Ⅰ

 パリィ:Ⅰ

 ガード:Ⅰ

 初級双剣術:Ⅰ

 初級短剣術:Ⅰ

 初級投擲術:Ⅰ

 自動修復:Ⅰ

 耐久強化:Ⅰ


 ちなみに露店で売ってるプレイヤーメイドの鉄装備に付いてるスキルの数は多くて三つのレベルはⅠ。


 ドロップ品は二つな代わりに付くスキルレベルが少し高い。これが今のアウターワールドの中級未満なクラフトマンの平均技量だろう。


 ただまあ、鉄装備を本気で作ったサンプルなんて少なすぎて、全体の平均は不明だな。


 というわけで、8個のスキルが付いてる短剣に俺は一言、


「やっべ、やり過ぎた」


 鑑定で武器を勝手に覗き見るのが幻想世界――ファウターではマナー違反とはいえ、全員が全員守るわけもない。


 これを見られるのは面倒になると思った俺は、鞘を作る際にわざわざ鑑定妨害のスキルを付ける羽目になった。


「ルルエッタが持ってるようなレベルの鑑定を防ぐのは難しいが、なんとかなるだろ」


 半ば慣れともいうあきらめの境地で俺は日の暮れ始めたオレンジの街に出た。


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