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エピローグ

 カオルから烏と呼ばれた男とその仲間達は最優先目標であったHackの確認を済ませた後、他プレイヤーからバレないように作り上げた拠点へ戻る所である。


 その帰り道で、ライオンを彷彿とさせる風貌の巨漢が不満げな顔で愚痴を漏らしていた。


「オジキ、本当にアレをあいつらに渡してよかったのか」


 彼はカオルが不在の四年間で加入した比較的新しいメンバーだ。それ故にクランの流儀を理解しきれていなかった。


 アレとはキュクロプスのことを指しているのだが、この男はあのままプレイヤーもボスも全部始末してしまえば一人勝ちだったと言いたいのだ。


「ゴリ、そんな野暮なこと今さら言うなよ」

「けどよ……」

「仕方あるまい、ルードも暴れ足りないのだろ」


 獅子の男は仲間からゴリと呼ばれ、烏はアバターネームであるルードと呼ぶ。


 ルードの渾名は馬鹿にされているようにも聞こえるが、脳筋である本人はゴリラと呼ばれるのを別に嫌っていない。寧ろ強そうな名前を受け入れているぐらいだ。


「当然よ! せっかくの殴りがいが有りそうなネームドを見つけたってのに、一発も殴らずに撤退なんて……。オレはこの拳をどこにぶつければ良いんだ?」


 これにはクランリーダーである烏も仲間達も苦笑いである。中には「その辺の木でも殴ってろよ」なんて言う者もいるくらいには慣れた対応だった。


「ルード、物事には順序ってもんがある。悪役(ヒール)には悪役の筋の通し方がな。お前は勇者が故郷を出て三歩で魔王とエンカウントするゲームをどう思う?」

「クソゲーだな、そのままゴミ箱にぶちこむ」

「そういうことだ。世の中には悪と呼ばれるものが多数あるが、俺たちは劇場に巣食う悪――ならば滅びの美学というモノを蔑ろにするな」


 例え簡単に潰せるからと手を出すのは美しくなければ、格好良く映るわけがない。


 ギャングビーストの在り方はジェームズ・モリアーティやアルセーヌ・ルパンのような語り継がれる悪役である。悪のカリスマとは簡単に譲れない美学を持つからこそ、その生き様は人を魅了するのだ。


 それはルードやこの場に居るプレイヤーも同じ。烏というカリスマに惚れて集ったのがこのクランだった。


「世に悪が栄えた試しはない。もしそれが通ってしまえば、この世は地獄だ。例え作り物だからとそのルールを破るわけにはいくまい」

「最後は負けろってことかよ」


 烏のお小言を大人しく聞いていたルードは苛立って近く木を拳で殴り倒す。バフもアーツも無い素の拳でだ。


 さすがは脳筋なだけあって、しっかり言葉を砕かなければ烏の言う悪役の在り方を理解できないらしい。


「くっくっくっ、そうではない。お前がその拳に自信を持つなら、同じだけの誇りを持て。弱いものや無粋な暴力でプライドを汚すな」

「……つまりどういうことなんすか」


 とうとうルードは白旗を上げた。それに見かねたクランの古参がゴリラにもわかりやすく説明を始めた。


 烏が自分の話は分かりにくいのだろうかと、頭を押えはじめたからだ。


「ははは、脳筋には難しい話ですよ。ゴリ、簡単に言えば、『小物みたいな真似はするな』『負けた時は潔くあれ』ってことだ」

「……なるほど」

「本当にわかってんのかね?」


 この若造はギャングビーストとオーバーセンスがGA(ガンナーズアウター)で戦うのを動画で見ていた。その夢にまで見た宴に自分も混じれる、と一人盛り上がっていたのだ。


 他のメンバーとの空気感でズレが生じるのも仕方ない。なぜなら、


ギャングビースト(うち)オーバーセンス(あいつら)が戦うべき場はここじゃねえ。今回の祭りはただの顔合わせにすぎん」


 あいつらとはそう遠くないうちに戦うことになる。烏には――いやルード以外のギャングビースト達にはそうなる未来がすでに見えていた。


「それをイベント前に教えてくれよ……」

「一人でこっちに先入りして特訓なんてしてるから聞きそびれるんだろ」


 ギャングと名乗ってる割に和気あいあいとしている。そんな中、烏はカオルが戦っている方角を向いて小さく呟いた。


「――宿敵のいない悪役じゃあ、いつまでも劇は始められねえだろ。おせえんだよ――ホームズ」


 三日月を黒眼鏡で隠して、烏は笑う。


 役者はようやく揃った。あとは舞台と物語が必要だと――。

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