第十三話 悪運のコレリック戦 その7
「行くぜ!」
継続的にダメージを与え続ける姉御にボスのヘイトが向かってる間に、俺たちは高い頂上を目指して動く。
二十人以上いたはずの前衛組はすでにDeadしたのか姿はなかった。火力装備でダメージを稼いでいた連中に光速で薙ぎ払われるビームを回避する術はないのだ。
「アウラ――飛べ!」
俺がした合図でグレンとアウラが大きく飛び上がった。その直後にさっきまでいた場所を赤い閃光が剥き出しの地面を溶かしながら通り過ぎていく。
「直感スキルが無かったら回避行動すら難しいな」
「逆に言えば、スキル構成で対策すればあの状態でも戦えるつーことだろ」
「お主は自前の勘だけで避けておるだろ――」
俺の後ろに居るアウラの顔を見ることはできない。しかしその声でグレンの動きをどう思っているのか答えを聞くまでもない。
グレンの勘の良さはボスを作る開発陣も頭を抱えているはずのレベルなのだからだ。
「即死クラスのやばい攻撃は鼻の奥がひりひり痛むのさ」
「生まれる時代を間違った男よの、戦国時代から迷い込んだのか?」
「不便な大昔より、俺は便利な現代のほうが良いに決まってるだろ――右」
「りょ、左」
それだけで俺とグレンは左右に分かれてヘイトを分散する。それと足音は一人分こちらが多いと補足しておく。
戦場はすでに俺ら『オーバーセンス』の独擅場だ。
他のPTの生き残りは暴走が終わってから比較的安全な状態で戦うつもりで、様子見といったところ。そもそも援護なんて期待して戦う俺らじゃないけどな。――アーサーの所はスコア稼ぎになるからバフだけは飛ばしてくるか。
やっかいなのはこのまま殺しきるとわかれば、同士討ち歓迎で魔法が飛んでくるってことだ。どいつもこいつも俺らが流れ弾で死ぬと思っていないし、当たったら笑い転げて話のネタにでもするだろうな。
「わらわはこのまま残った足に向かう」
「その前に首を落とすのが早いと思うが?」
「決着を決めたのがわらわでは興ざめであろう」
リザルトにアウラの名前は残らないからな。さらに言えば俺が勝つことにアウラはそこまで固執しない。非協力的というわけではなく、勝負に自分が入り込むのを無粋とでも考えているんだろう。
いっそのこと「自分が勝者だ」と俺らを押しのけてくれても、それはそれで面白いと密かに思っているぐらいだ。
馬鹿な事を頭の隅で考えていたら、キュクロプスの手が届く距離にまで詰めた。
「――っ、これは無理だろ!」
スキルの警告から攻撃までの猶予が短くなった。反射でダイブしながら地面に伏せるが、間に合わない。
「しゃおら!」
男の気合が入った声とキュクロプスの叫びがして、即死の魔眼が俺から逸れていく。
「助かった、グレン」
キュクロプスの右腕にデッドエンドが喰らいつく。血のエフェクトを浴びながら、グレンは獣のような笑みでさらに力を入れる。
「このままこいつは貰っていくぜ!」
だがしかし、そう事はうまく進まない。キュクロプスは腕にまとわりつく邪魔な蚊を払うように上空へ吹き飛ばした。
さらに空中で行動の限られるグレンにトドメを刺そうと魔眼の追撃を仕掛ける。
「『エリアルステップ』――ちっ、しつけえっ」
空を足場にして回避行動を取ったグレンをキュクロプスの追撃が執拗に迫る。
デッドエンドのアーツでビームを打ち消すが、そう長くは持たない。
「それは深追いだろ?」
ボスの視線がグレンに釘付けな間に、俺は『瞬身』を使って死角である奴の背中に飛び乗った。
この距離ならまだアウラのアイテムを取り出せるか、
「俺が一番乗りだ、首はグレンにくれてやるがな。――『クイックチェンジ』、斬馬刀」
遠くに落ちたワンダーフェイスの代わりに、馬すら両断できるサイズの片刃の大太刀を手に取る。
重量級の武器だけあって振り回すにはもっとSTRに装備を割く必要がある。だが、重力に従って落とすだけなら問題ねえ。
俺は切っ先を下に調整し、体重も乗せて思いっきり斬馬刀を巨人の背中に突き刺す。
本日何度目か数えるつもりもない巨人の悲鳴。それを合図に遠くから魔法による砲撃が始まった。
「やっぱりか。俺の作品を潰したらてめえらもPK対象にするからな」
斬馬刀を引き抜いてる時間はない。背中に半分まで刺さった斬馬刀をそのままにして、俺はワンダーフェイスに手を伸ばす。
「『飛来身』、――二人も逃げたか?」
安全圏に俺が一度引くと、さっきまでいた場所に赤青黄色の色とりどりな魔法が着弾した。現代戦の戦場さながらな大迫力の爆炎と土煙で巨人の上半身が隠されていく。
あいつら本当に躊躇いがないな。
「どーん! どーん! ……もひとつ、どーん!」
「お姫様はお戯れ中っと」
アウラが居るのは位置的には外野が攻撃しているのとは反対の場所。俺とグレンのことを無視して攻撃できても、美女も巻き添えにするような連中ではない。
その美女はハンマーでキュクロプスの足を叩いている。時折反撃してくる足を回避しては、掛け声なのか、リズムを取ってるのかわからない声を出す。
俺がグレンの姿も探すと、地面に着地して次の攻撃準備に入っていた。
「『武王の加護』『デッドヒート』『鬼神一魂』」
「あらあら、そっちもお熱ってか」
グレンがバフを使って火力を上げてらっしゃる。次で首を取るつもりらしい。
「小休止に入ったら行く」
「はいはい、――アウラ! そろそろ終わらせるぞ」
グレンの声が普段より幾段か低い、それだけ深い集中に入っているようだ。
太鼓の達人をしているアウラにもグレンが大技をぶっ放すのを伝える。その声に気づいたのはいいが、内容は聞こえていないらしい。手を振りながら何か言ってるが、こっちも聞こえないからだ。
内容が届いてなくても、赤いオーラを纏ったグレンでこっちの意図は伝わっただろ。
「時間切れか――だが丁度いい」
生真面目なアーサーだ、攻撃中止の命令もタイムリミットに合わせて出した。
白い煙が晴れた先には黄金の眼をしたキュクロプスの頭部が現れ、集中砲撃を食らったズタボロな上半身も一緒に晒す。あれはもう死に体といってもいい有様である。
ここまで来たら物理防御が元に戻ろうと関係ない、グレンの持つデッドエンドでチェックメイトだ。
「お膳立ては俺がしてやる」
「――応」
キュクロプスは両腕だけでアーサー達のいる後衛組へ向きを変えて這いずりだす。さすがに俺たち三人より、魔法を撃ち込んだあっちのヘイトが高いからだろう。
あるいは後ろから追いかけてくる鬼から逃げているのかもしれない。アウラは何か心の琴線に触れたらしく、「待つのじゃ!」とハンマーを持ちながらキュクロプスを追い掛け回している。――俺、あいつのストレスが溜まるようなことしたっけか?
ひっそりと悩む俺にドーラの姉御が疑いの目で話しかけてくる。
「私も手伝った方がいいかしら」
「姉御は攻撃を防ぐのに手を貸してくれるか?」
魔法反射が復活して手持ち無沙汰な姉御にも協力を頼む。察しの良い姉御は言わずとも俺がボスの足止めをやると理解して、ロサアイアスを手元に集めた。
「そういうことね、すぐ始めてもいいの?」
俺もグレンもさっさと始めてくれと言うと、姉御がアクセサリーを一つ交換する。
「じゃあ、いくわ。――『アトラクトヘイト』」
巨人が獣のような言語を発してこちらを向いた。その金の眼は俺の隣に立つ姉御に向けられている。
その間にグレンは奴の元に走りだす。
「これが俺のラストシューティングだ、コレリック。――『天穿ち』」
弓のアーツの中でもっとも貫通能力に優れた、天を穿つ矢。最初に奴を攻撃したアーツが、奴の終わりを告げることになる。
「ロサアイアス、多重展開。――『魔術障壁』」
白いバックラーの前に七枚の花弁が半透明な膜を張る。そしてすぐさまカウンターが発動し魔眼のビームがロサアイアスの壁に衝突する。
「やれ――グレン!」
マナらしき光る粒子が視界を塞いでいても構わず、俺はグレンに向かって叫ぶ。
「わかってる! デッドエンド、遠慮は要らねえ。全力全壊でやれ――『エンドオブカタストロフィ』」
魔眼とロサアイアスの攻防が唐突に終わる。
ビームの眩しい閃光が突如ぷつりと途切れ、キュクロプス『悪運のコレリック』の頭部が重力のままに落ちていく。
首の無い巨人の横には、使用限界を示すノイズが走るデッドエンドを振り下ろしたグレンが立っていた。




