第十一話 悪運のコレリック戦 その5
明けましておめでとうございます。
小説を書き始めて一年(なろうに投稿し始めたのはもう少し後ですが)、今年もがんばって書いて行こうと思います。
これから大きく戦況が動く。
それを予感した俺たちは少し早めの昼食を取っていた。
半ば忘れてる者も居そうだが、俺たちは遭難中。メニューなんてものは存在せず、昨日に引き続き携帯食料の代わりに拾った果実と串焼きを齧っている。昼食というよりエネルギー補給と言った方が近いかもしれない。
それでも調味料が豊富でメインを肉か魚で選べて、野菜とデザートまである。贅沢を言わないのであればこれで十分だ。
「ふごら、ふごご、ふぐ」
「食べながら話すでない。何をしゃべってるか一切伝わっとらんわ」
「んー、うん。――いや、特に意味なんてなかったぞ? 飲み込んでからしゃべるつもりだったからな」
「おい……」
楽しく騒ぐ俺らを姉御は目じりを下げて見守っていると、そこにグレンも顔を見せた。
どうせ何か飯の催促にでも来たのだろう。その予想通りにグレンは生の食材を投げ渡して、代わりを要求してきた。
「Hack! 俺にもなんかくれ」
「はいはい、串焼きしかねえから他は自分でなんとかしろよ」
グレンに渡した肉は普通な動物の肉だ、残念なことに蛇や蛙の肉じゃない。
インベントリの管理者であるアウラは、自分が触りたくないものは決してインベントリには入れさせない。だから罰ゲーム的な食べ物は用意できても、持ち運べないのである。
普通の料理に紛れ込ませたらいけるか?
そんなことを考えていたら、傍から冷たい気配を感じた。
「ご主人……?」
果実を齧ってたアウラが俺に疑いの目を向けている。
「何か?」
平静を装いながら、俺はすっと立ち上がった。
「不穏なことを考えておらんかったか? わらわに不快なモノを持たせるつもりだったり……」
「はははは、そんなわけないっすよ」
「ドーラ! どっちじゃ!」
アウラが姉御の方を向いて真偽を確認する。すると姉御は「ダウト」と人差し指でバツを作って首を振った。
「ごしゅじんさま?」
「さあ、次のウェーブで決着をつけるつもりでいこうぜー」
「待たんか!」
投げ捨てた串は地面に落ちて、そのまま粒子になって消えていく。それを見届ける暇もなく、俺はアウラに追われて逃げ出した。
「アウラも嫌ならインベントリ機能を捨てて、プレイヤーになる選択肢もあるんじゃねえか?」
「聞いてる感じじゃ、それもできそうだけれど――それを指摘するのは野暮でしょ?」
「ごもっとも」
姉御もグレンも余計なことを言わないでくれませんかね。それを聞いたアウラが照れ隠しで俺に暴力を振るうんですよ。
さてさて我らがメインタンク、アーサーもずっと壁役をやっているわけじゃあない。彼も他パーティーのタンクにボスの相手を任せて休憩を取っているようだ。
それにしても交代交代で俺らは一時間ほどずっと戦ってるわけだが、ボスに疲れた様子が一向に見えない。
生物系のボスなら疲労になったら勝手に逃げ出すタイプや発狂モードで半強制ゲームオーバーになったりする場合が多い。それが無いってことはイベント用の特殊仕様なのかもしれん。
「仲睦まじいのは構いませんが、何かありました?」
俺の背中におぶさるアウラを見て、アーサーは不思議そうにしている。小さく「重てえ」とつぶやいたのが聞こえたのか、アウラがさらに体重をかける。
「ぜえ、ぜえ――、気にすんな。それより、そろそろ次の誘発を起こすんじゃねえか」
「そうですね。アーツのクールタイムもそろそろでしょうし、いきましょう」
俺のお荷物をアーサーは馴れた様子で受け入れてしまった。それどころか少し嬉しそうに、臨時のチャットチャンネルに次の誘発を発動させる旨を周知させる。
「――おい」
ただアーサーは「次でバグメイカーが倒しきるかもしれません」と余計な事まで書き込みやがった。
「いいじゃないですか。君から言い出したってことは何かあるのでしょう?」
「はあ……、MVPは貰うぞ」
「構いません。支援と防衛の二つはこちらで貰うので、どうぞどうぞ」
最初からその二つを狙った立ち回りをしていた。姉御だけじゃなく、アーサーの所から何度もバフは飛んできていたからな。
攻撃は他所に任せて防御とバフに特化した構成で戦うのはKoRらしいといえば、KoRらしい。
そんなわけで最後(予定)の誘発担当を守るのはアーサーが担当することになった。
こちらの想定通りに事態は動く。すでに二桁には及ぶ回数を繰り返したカウンター動作に合わせて、俺も最大火力をぶつける準備を始めた。
「回レ回レ、泡沫に浮かぶ星々よ――」
地面に突き刺した杖から六つの衛星が解き放たれた。
俺の周囲をぐるぐる回る星は徐々に加速していき、決められたレールをなぞりながら魔法を走らせる。
アルコバレーノにストック中の魔法はベーシックと呼ばれる公式が用意したモノじゃない。
専用の開発ツールを使うことによって、プレイヤーオリジナルの魔法が作れる。もちろん装備にエンチャントされたスキルの恩恵を受けにくくなる代償に、自由に魔法を弄れる。
オーバーセンスの何人かで考案したこの魔法はそんなプレイヤーオリジナル魔法の一つであった。
この魔法は簡単に言ってしまえば――魔法で作られた金属の弾丸を物理と電気エネルギーでぶっぱなす、大砲と電磁砲を混ぜた頭の悪い魔法もとい魔砲なのだ。
「カウンターが発動すればお前の勝ち――しなかったら俺の勝ちだ」
アルコバレーノを地面から抜き眼前のキュクロプスに向ける。
星は回転を止め再び杖の下に戻ってきた。そして星が強く輝くと同時に、俺と巨人の間に七つの魔法陣を描いた。
でかい一撃を入れる準備をする合間、俺は手に持つアルコバレーノに違和感がないことを不審に感じる。
アルコバレーノに異物を感じられない。セクター2は逃げ出した後か?
だがまあ、それを今考えこんでも仕方ない。それよりも今はこの引き金を――ただ引くだけだ。
「穿て、『ブラストレールガン』」
爆音と共に一瞬で音速の壁を軽く突破した鉛色の魔法は無防備な姿を晒す巨人の右足を弾けさせた。鉄壁だった巨人の肉体は緩衝材にもならず、弾丸は何もなかったかのように遥か彼方の地平線へ飛んで行った。
耳をつんざく発射音に遅れて響くのは、大きな地響きを起こしながら地面に両手を突いた巨人の重い悲鳴であった。
この戦いで初めて地面に屈したキュクロプス。今が勝機であるとプレイヤーたちが殺到していく。
俺らの勝利だ。
そう思ったタイミングでグレンが俺に警告してきた。
「Hack! 気を付けろ――」
金から赤に変わったキュクロプスの目が朱殷へ変貌していく。それは時間が経って乾いた血のように禍々しい赤く黒い色である。
「二度目の魔眼――発狂モード」
一定以上のダメージを受けたから。そう思ったが一つ目の向いてる先を見て、そうではないと気づいた。
「あれは烏……」
戦場から遠く離れた場所、そこにキュクロプスに狙撃をした者たちの姿を見つけた。




